掌編小説 原石

「星屑を、ひとつください」
「あいよ、星屑ひとつね。お嬢ちゃんかわいいから、もうひとつおまけ! 星屑占いもつけとくよ!」
 星屑売りのおっちゃんはそう言って、白い息を吐きながら小さな紙袋に星屑をふたつと星屑占いの紙切れを一枚入れてくれた。
「ありがとう」
「今日の星屑もきれいだよ!」

 帰る途中、歩きながら星屑の入った紙袋を覗き込む。月の光が、星屑をきらりきらりと輝かせる。
「わぁ……」
 ずっと欲しかった星屑。お小遣いを貯めて、ようやく買うことができた。
 星屑は、冬の日の夜にしか売っていない。強い日の光を浴びると、その輝きを失ってしまうためだ。
 こんな寒い夜に出かけるなんて、と思ったけれど、いざ星屑を目の前にするとそんな考えはどこかへ行ってしまった。今日は良い日だ。自然と表情が緩んだ。

 軽い足取りで、寄り道をすることにした。公園の大きな池に、ぽつんと島があって、そこの東屋で一人物思いに耽るのが私の心やすらぐ瞬間だった。良いことがあると、真っ先にその場所が頭に浮かぶ。
 東屋に入るなり、さっきもらった星屑占いを読みたくて紙袋に手を突っ込む。くしゃり、と音を立てて、二つ折りにされた紙を開いた。

「石に埋もれてもなお輝く 玉の光を隠すことはできない」
 紙には、そう書いてあった。その意味を理解するために、ゆっくりと読み進める。
「宝石の原石が腕の良い職人に磨かれて輝くのと同じく、人も良き理解者を得てこそ世の中で輝かしく光ることができる」
 なんてことない私も、自分が宝石の原石のような存在であってほしいと願ったことがある。でも今は少し違った。私は、人生のどこかで一度だけ星屑のように小さく光ることができれば満足だ。
 星屑をひとつ、手に取る。手のひらにすっぽりと収まるそれを、ぎゅっと握りしめた。ただそれだけなのに、力が湧いてくるような気がする。
 手が熱を帯びている。これが情熱なのだろうか、などと考えて、首をかしげる。星屑がかすかに光ったような気がした。