Kyo Ichida

日本大好きなのにふと気付けば人生の三分の一パリ暮らしのデザイナーです。 デザイン・ウェ…

Kyo Ichida

日本大好きなのにふと気付けば人生の三分の一パリ暮らしのデザイナーです。 デザイン・ウェブ制作会社 ABC Japon 代表取締役。 車イスだけどバンドでドラム叩いたりもしてます。人生無理。 https://www.kyo.com

マガジン

  • ネコ闘病記

    愛猫ルルちゃん(オス14歳、サイベリアンっぽい雑種、体重10 → 8.5キロ)の口腔内の癌闘病記です。病気のペットを支える人、延命について悩むご家族に少しでも参考になる部分があれば幸いです。

  • 車イスのパリ日記

    脚が不自由なデザイナーがパリで暮らすようになったいきさつと日々について書いています。

最近の記事

三回忌

ルルちゃんが旅立って二年が経った。 ルルちゃんが部屋を歩くのをまなじりに見たような錯覚が暫くは続いていたけれど、そういうことも今ではなくなった。 けれども喪失感は消えない。 あとルルちゃんさえ居てくれたなら、もう何も不満は無いのに。 実はあれからずっと、絶えず燻り続けている自問がある。 点滴して延命させたことで、苦しみを長引かせてしまったんじゃないかって。 自然に任せるべきという考えの妻は、しかしぼくが後悔してしまわないようにと点滴に同意してくれた。 けれども結果

    • 片目の犬

      ぼくが小学校三年生くらいだった頃、通っていた小学校の近くにときどき片目の犬が出没することがあった。 子供時代にたくさんあった怖いもののひとつだ。 大きな犬だし何しろ片目なので、不吉な感じがして同級生の間でとても恐れられていた。 今では考えにくいけれど、昭和の当時は飼い主不詳の野良がまだ東京の真ん中にいたのだった。 ある日ぼくは学校の図書室でシャーロックホームズ・シリーズの『呪いの魔犬』という本を借りて、放課後いつもよりちょっと遅めの時間帯にひとりで下校した。 すると帰り路、

      • にゃんこのいない生活

        ルルちゃんがぼくたちの世界から去ってひと月が経った。 うちにルルちゃんが居ないなんて、ぜんぜん慣れない。 あれからずっと、長生きさせてあげられなかった敗北感のような感情に苛まれている。そして、事あるごとにルルちゃんの不在を嘆いてしまう。 2年ほど前に陽当たりの悪いアパートから引っ越して、春から夏の間だけは少し西日が入るようになった。長毛種のルルちゃんは暑いのは苦手だろうと思っていたら、気持ちよさそうに日向ぼっこするようになった。 「なんだ、陽にあたるの好きだったんだね、じゃ

        • コロナに罹って死ぬ場合の遺言のようなもの

          筆者はコロナショックで外出規制が続くフランスに住んで18年になります。イタリアで起きているような医療崩壊がここパリでも起こり、酸素吸入器などの機材が不足すれば、医療の現場は必然的に治療の優先順位を決めるためトリアージ(命の選別)をしなければなりません。その際、もしも自分がこの新型コロナウイルスに感染し重篤化したら、他の人に治療のリソースを譲ることを決めました。この文章はそのための意思表示であり、重症になってからでは遅いので先に書いておくものです。そして死ぬとしたらこの際、普段

        マガジン

        • ネコ闘病記
          12本
        • 車イスのパリ日記
          4本

        記事

          にゃんこが教えてくれたこと

          夜眠っている間、ルルちゃんが物音を立てる度に妻は飛び起きてオシッコの面倒を見たり世話を焼いていたので寝不足気味だった。 4月23日夜、前夜もあまり眠れていないので早寝しようと、点滴のタイミングを1時間早めた。その直後に初めての痙攣。 ちょうど数時間前に似たような病状の猫について検索していて、痙攣について読んだところだった。知らなければかなり慌てたと思う。 暫くすると落ち着いたけれど、グッタリ加減が今までと違う。昼間は少しだけ散歩できたのに。暫く様子を見守る。 ぼくはいつの間

          にゃんこが教えてくれたこと

          うたかたのにゃんこ

          点滴と注射をするようになってルルちゃんが安定したことで、期限付きだけれど再び平穏な日々。 苦痛を感じているような素振りはなくなって、注射が効いて調子が良いときは室内を散歩をする。目はもうほとんど見えていないようで、障害物をヒゲと耳で察知しながらルンバのように進んで、ときどきゴチンと音を立てたり、ぶつかって来たりする。ルルちゃんが動いているとそれだけで、もの凄く幸せな気持ちになる。 顔のニンニクのようなふくらんだほっぺた部分、検索したらウィスカーパッド(Whisker pad

          うたかたのにゃんこ

          自宅で点滴と注射

          ルルちゃんの声を聞いて妻も輸液に同意してくれたので、さっそくいつもの老獣医師に状況を説明して皮下輸液について相談。果たして必要なものを売ってもらえるかどうか。 「残念ながら、状況は悪化するだけなのでそのことは認識する必要があります。 それでも、もう少しLULUを保たせたいなら、皮下から水分や栄養を与え、注射で薬を与えることも検討してみましょう。 当院に必要なものは全て揃っていますし、お望みであれば提供できます。」 まずはひと安心。その日の午後に予約が取れたのでコロナショッ

          自宅で点滴と注射

          ダイハードにゃんこ

          食べることができなくなったら寿命 ––– そう考えていたので、いよいよそのときが来てしまったのか…と覚悟した。 あんなに大好きだったちゅーるを妻が目の前に出しても、顔をそむけて食べようとしない。もう食べたくない、という意思が感じられる。 口の中の状態の悪化で食べることが苦痛なのかもしれないし、食べないことで苦しみに終止符を打ちたいのかもしれない。もしそうだったら無理強いはできない。 薬を注射器で口に入れてもこぼしたり吐いたりしてしまうため、薬を与えることもできなくなった。何

          ダイハードにゃんこ

          束の間の平穏…そして悪化

          それから暫くは平穏な日々だった。 薬入りのちゅーるを朝晩2回なめて、妻の特性キャットフードもせっせと食べる。 食べてくれることが、何よりも嬉しくて。 食べたいっていうことは生きたいっていう意思表示に思えるから。 食べるという行為だけでぼくたち夫婦を幸せな気持ちにしてくれるルルちゃん。 (ちゅーるちょうだい)って足もとに来る度に喜んであげた。 夜眠るときは枕もとでゴロゴロと喉を鳴らしてくれて、幸せをかみしめた。 他に何も望まないから、この時間がずっと続いて欲しい…。 でもだ

          束の間の平穏…そして悪化

          セカンドオピニオン

          老獣医師の見立てを疑ったというわけではなかった。彼がルルちゃんを診て最初から「年齢的に仕方ないよ」というスタンスだったのは、長年の経験から判ることだからなのだろう。 それはそれとして、うちからすぐのところにヴェテリネール(動物病院)があって。今後もし何か緊急事態が起きたときに、即座に駆け込める至近の動物病院にカルテがあれば心強い。 それにこれはまぁ、いいんだけど、老獣医師のホームページが犬の写真なのに対し、すぐそばの動物病院のそれは猫がメインビジュアルで獣医さんも多そうだ。

          セカンドオピニオン

          不治の病という検査結果

          検査から数日経つとルルちゃんは少し元気を取り戻したものの、1日のほとんどをベッドの上で静かに座り込んでいる。痛くて調子が悪いのをじっと我慢している感じだ。ただ見守ることしかできない落ち着かない日々。 そんななか、ちょうど1週間後に生検の結果がメールで送られてきた。辞書を引きまくりながらラボの所見を読む。 骨・歯の浸潤および出血性・化膿性の変化を伴う中間分化の口腔扁平上皮癌 予後不良の悪性腫瘍 やはり悪性なんだ…。 すぐに獣医さんを予約、2月3日月曜日の朝、今回はルルちゃん

          不治の病という検査結果

          薬を飲んでくれない問題

          「犬用って書いてあるけど大丈夫」って獣医さんから処方された抗生物質の箱を開けて見てみたら真っ赤な錠剤だった。しかもデカい。人間でも飲み込むのを躊躇する大きさで、測ってみたら直径12mm、中心の厚みは6mmある。 いくらルルちゃんが大きいとはいえ喉に詰まりそうなので粉にすることに。砕いてみると中身は白で、赤い色はコーティングだった。鼻の効く犬に匂いがわからないようにしてるのかな。赤い部分はピンセットで取り除いて粉末になるまで潰し、ご飯に混ぜる。 しかしこれがご多分に漏れず食べ

          薬を飲んでくれない問題

          フリーランスの猫を探して

          ルルちゃんがうちにやって来たのは今から9年前、東北の大震災の少し前のことだった。猫と暮らしたいね、って夫婦でずっと言っていたけれどペットショップで買うのではなく、困っているフリーランスの猫を助けたいよね、という思いがあって。あまりにも猫を探していて、ビニール袋を野良猫と見間違えて急ブレーキをかけたことも。ときどきよその猫を預かったりはしていたけれど、正式な保護猫の引取となると収入の条件があるとか地上階に住んでると(猫が逃げ出すかもしれないので)断られるとか、いろいろ敷居が高そ

          フリーランスの猫を探して

          家族の病気が発覚

          「ああ、口の中に腫瘍ができているね」 「しゅ、しゅよう?」 フランス語で腫瘍を意味する tumeur がわからなくてバカみたいに聞き返した。 「そう、腫瘍。つまり癌だよ」 年配の獣医さんはそう言って、14歳ならしかたないね、と付け加えた。 目線が低い車イスのぼくにも見ることができるようにと、獣医さんが患部の写真を撮れるようにしてくれた。ルルちゃんの左上顎奥歯の周囲が凄く痛そうなことになっている。 【下に口の中の患部の写真を載せています。苦手な方は閲覧注意でお願いします

          家族の病気が発覚

          フランスの会社でカルチャーショック

          こうしてパリでの仕事生活がスタートした。 会社へはアパートから彼女に車イスを押してもらって徒歩12〜15分くらい。 911の直後だったため、オフィスビルへの出入りは警戒厳重で、屈強そうな警備員が睨みを効かせていた。 なぜなら、もしもニューヨークと同様のテロでパリが狙われるとしたらターゲットはここだよねと誰もが思う、モンパルナスタワーと繋がったオフィスビルだったからで、建築規制の厳しいパリ市内で数少ない高層ビルであるモンパルナスタワーは、ランドマークとしても恰好の標的だろう。

          フランスの会社でカルチャーショック

          青春の光と声

          この曲を聴きながらお読みください ちょうど読み終わる長さです まさか卒業式で泣くなんて思ってもみなかった。 式の間も、卒業証書を手渡されたときも平常心だったのに。 これから校舎を出て、在校生が拍手と笑顔で見送ってくれる中を校門に向かうというところで、全校生徒から恐れおののかれている月影先生のようなおっかない音楽教師に思いがけず励まされたんだ。 それで不意をつかれて、涙が止まらなくなってしまった。 ぼくは進学できなかった。 自力で通学できるような高校はなくて、受験勉強にはど

          青春の光と声