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おばあちゃんち

「おばあちゃん、久しぶり!」

長野の方で農業をしているおばあちゃんに会えるのは、年に二回くらい。でも、アケミは家族の中で一番おばあちゃんが大好きでした。

「おばあちゃん、今日はどんなお話をしてくれるの?」

夏休み、いつものようにおばあちゃんちに遊びに行って夜は同じ布団で寝るのが定番でした。そしてアケミはおばあちゃんのお話が大好きで、いつもウキウキワクワクしています。

「今日は『しろぎつね』のお話をしてあげよう」

おばあちゃんはそういって、アケミの頭を優しくなでました。

「昔から、この森にはこんなうわさがあります。『しろぎつね』という不思議な動物が、子供の前に姿を現す、というよく聞くような怪談話です。でも、しろぎつねは悪い動物ではないのです。なぜなら、しろぎつねを信じて必死に頑張る子供に、亡くなってしまった大切な人に合わせてくれる力があるから。会えるっていっても死んでしまっている人には、ちゃんと会話したり、笑ったりとかはできません。でも、しろぎつねの目がその子供にエールを送るのです。そして応援する気持ちは、亡くなってしまった大切な人から、しろぎつねに送られるのです。どんな見た目かって?とても白くて美しくて、大きな瞳は水晶玉のようで。どんなにつらい目にあっても、その姿を見ると不思議と頑張れる気がするのです。だから見つけても逃げずにずっとその目を見ていればいいのです。」

アケミはなぜか涙が出てきてしまいました。そう、アケミも学校でいじめられ、つらい目に合う子供の一人でした。夏休みが終わってしまえばまた学校にいかなければならないのです。でもしろぎつねに会えたら、そう思うとなけてきてしまうのでした。

「アケミ、どうしたの?そんなにきつねが怖いのかい?」

「ううん、いつか会えたらいいな」

「そうだね。逢えたらいいね。私はもう会えないけど、会えたら教えてちょうだいね」

天井の木目をみて、そう話しているといつのまにかおばあちゃんはねてしまいました。アケミの濡れた目を、扇風機が優しく乾かしてくれていました。



次の日の朝。アケミたちは、おばあちゃんの農業の手伝いに出かけました。おじいちゃんが亡くなってからおばあちゃんは大忙し。収穫をするこの日は、毎回沢山の村の人が手伝いに来てくれるのです。

「おはよう、今日はアケミちゃんも来たのね、ずいぶんかわいくなって。こんなお孫さんがいるなんて羨ましい。」

おばあちゃんと同い年くらいの人たちが、どんどんやってきて、同じようなことをアケミに言いました。アケミはとりあえずニコニコするばかり。でも
おばあちゃんはとっても楽しそうでした。

もうすこしで、スイカを食べよう、としらないおじいさんがやってきた時でした。アケミの携帯電話が、ピロリロリン、と連続で鳴りました。メールを送ってきたのはいつも学校でアケミをいじめる子たちでした。メールアドレスは、三人くらいにしか教えていません。アケミが怖い、と思いながらもその音を必死に止めようとしていると、

「アケミ、そんなにメールをしているの?メールはあんまりしない約束で買ったでしょ?」

お母さんの声がしました。アケミは泣きそうになりながら必死に走りました。山の方を目指すのでした。ピロリロリンという音がどんどん大きくなっているような気がして、アケミはますます怖くなりました。山の急斜面を上ってすこし平坦なところにでると、アケミはもう泣くことも、走ることもできなくなりました。そこには美しい毛並みの、しろぎつねがたっていたのです。ずっとアケミが見つめていると、なぜかもうメールの音なんて怖くなくなるのでした。アケミが近づこうとすると、しろぎつねは山奥に走って行ってしまいました。

メールの着信音をきって、下に降りると道路には、アケミの家族が集まっていました。お母さんはアケミがどんなに泣いても何にも聞きませんでした。ただずっと抱きしめていてくれました。

スイカを食べたあと、アケミは全ての事情を話しました。でもしろぎつねのことだけは言いませんでした。
お母さんは来ていたメールをすべて読んでくれました。そしてメールアドレスの変更までやってくれました。もう、アケミには怖いものなんてなくなりました。あのしろぎつねを思い出せば、もうどんなこともできるような気がします。


「今日、しろぎつねを見たよ。すごく美しくてね。本当に最高だったよ、おばあちゃん。」

その夜、アケミは疲れ切って、寝てしまったおばあちゃんにしろぎつねのことを眠くなるまでずっと話続けていました。


10年後-

短大を卒業し、就職したアケミが新しいスーツに身を包んでおばあちゃんと記念写真を撮ってからすぐのことでした。

「アケミ、一人暮らしは慣れた?あのね、落ち着いて聞いてね。」


おばあちゃんがね死んじゃったの。


アケミはしばらく話せませんでした。大好きだった、おばあちゃんの姿が頭に浮かびます。

「わかったよ、お母さん。」

それだけいって、アケミはベッドに伏せました。その時もしろぎつねのことが頭に浮かびました。


それからすぐにアケミは実家に帰りました。葬儀なんておじいちゃんの時以来だったけど、葬儀屋さんのおじさんはあまり変わっていませんでした。

葬儀の後、翌日の遺品整理のためにアケミはおばあちゃんちに泊まることになりました。
夜、なかなか寝付けず森まで散歩に行くと、あの思い出を思い出しました。

あの時の道をたどって。
すると、やっぱりしろぎつねが居たのでした。
すぐに、目が合いました。その目は驚く程に強くて逞しくて、優しくて、おばあちゃんの目に似ていました。

アケミ、ずっと応援してるから。

おばあちゃんの声がした気がしました。

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