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非常識人 第十三話 if
いつも「もしも」に備えていた。
「朝からうるせえな。何?」
起きたばかりの演技。
機嫌が悪いように振る舞う。しかし本来の目的はガサ入れの目的の確認だ。
「おはよう。遅かったね。神奈川県警の者なんだけど身に覚えがあんだろ?」
歳の頃は40代前半といった所だろうか。
まだ顔にあどけなさが残る経験の浅い新米刑事と50代後半の上司に挟まれた嫌われ役。
いわゆる中間管理職。
被疑者の俺に話しかける刑事の立場は決まって同じだ。
管轄を名乗ってくれてよかった。
こちらから事件内容を話す。
罪状が罪状のため、家宅捜索も甘い。
立件し辛い事件で取り調べ場所は他府県の取調室の間借り。
西署の職員達に明らかに気を遣っているのが見える。
任意という名の強制的な同行。
指紋を取る。一体何度目だろうか。
「身元引受人に社長に連絡してください」
もしもに備え社会人の身分を手にしていたことが更に功を成した。
留置場にも入る事なく、著作権間接侵害のシナリオ通りに事が進む。公務員も人間だ。
簡単な調書。その日の内に帰宅。
「そろそろ一つトラブルが終わるな」
帰りに友人に届けてもらったものに俺は火をつけて眠りについた。
部屋にはトレイの上の吸いかけのスウィッシャーの香りが漂っていた。