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【meepa成長記録】第2話:理想に燃える起業家がハマりがちな罠

スタートアップあるある的な話なのですが、スタートアップのよくある失敗理由で"No Market Need"(市場にニーズがなかった)というのがあります。
「なぜ『世のため人のため』を想って、リスクをとって起業/新規事業にチャレンジするのに、そんなことになっちゃうの?」「おバカなの?」
って今までは素朴に疑問に思っていました。

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今回βテストをやってみて、自分も同じ沼にハマりかかっていることに気づき、他人事じゃないんだなと気づけたので、今日はこの点について実体験をベースに、自分なりの考えをまとめてみたいと思います。

とりあえず先に言わせてください。
ただ単におバカなわけじゃないんです!罠が仕掛けられてるんです!

※meepaは株式会社dotDの新規事業なので、正確には僕は「起業家」ではなく、今風に言えば「イントレプレナー」なのですが、「起業家」の方がタイトルもスッキリするし、本文とも整合性がとりやすかったので、ここでは「起業家」という言葉を使います。

※背景がよくわからんと言う方は、第0話・第1話からご覧いただけると嬉しいです!

問題解決の2つの型

シン・ニホン』では、問題解決の型を、ギャップフィル型とビジョン設定型の2つあると解説しています。

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画像は富山県公式ホームページより

ギャップフィル型の特徴は、あるべき姿が明確なこと。病気に例えればそれは健常状態であり、現状=病んでいる状態との対比で問題(あるべき姿と現状のギャップ)がわかりやすく定義できます。問題を要素分解して原因を特定し、打ち手を考える。世の中のほとんどの問題解決がこのタイプに分類されます。

対するビジョン設定型の特徴は、目指す姿自体を見極めるところから問題解決プロセスが始まること。本当に「目指すべき」姿なのかの確信を得ることも大変ですし、現状と比較してギャップを正しく診断できるほど・目指す姿への到達ルートを発見できる程度には具体的に(解像度高く)目指す姿を設定することも必要になります。

こう並べると、ギャップフィル型よりもビジョン設定型の方がカッコよく聞こえるような気もするのですが、優劣ではなく、使い分けです。ギャップフィル型で解ける問題にわざわざビジョン設定型を持ち出すのはまどろっこしいだけですし、逆にビジョン設定型で解くべき問題をギャップフィル型のアプローチで解こうとしても、どこかにあるに違いない正解を探していつまでも堂々巡りを繰り返すだけです。

僕個人の肌感覚としては、起業/新規事業でもギャップフィル型で解決するテーマの方が多いんじゃないかと思うのですが、それでもその他の問題解決シーンに比べれば、ビジョン設定型の利用比率が高いように思います。

ちなみに、meepaはビジョン設定型に分類されると思っています。

ビジョン設定型の構造的罠

ビジョン設定型では、他の人には見えていない目指すべき姿を設定し、まだ顕在化していない問題の解決を試みることになります。極端に言えば、「まだ誰も困ってない」問題を解決しようとする究極のお節介。やり遂げるには(あるいはリスクを取ってやり始めるには)、目指すべき姿やその潜在的な問題への強い確信(妄信?)がないと続きません(あるいは始まりさえもしません)。

一方、冒頭で言及したように、スタートアップが失敗する最大の理由は"No Market Need"(市場にニーズがなかった)というのは有名な話です。

⚠️冒頭で引用したCB INSIGHTSのデータでは、"No Market Need"は2位なのですが、1位の"Ran out of cash/failed to raise new capital"(キャッシュの枯渇/資金調達の失敗)はキャッシュマネジメントのミスを除くと、失敗(≒倒産)の定義そのもの、つまり結果です。キャッシュが枯渇してしまった原因を辿ると、2位以下の各項目が浮かび上がるという構図かと思われます。

これまでは「バカだなー」「MVPを使って高速に仮説検証サイクルを回していけばこんな罠にはハマらないのに」くらいに、甘く理解していたのですが、今回この事実の重み・深みを身を以て痛感することとなりました。

ではなぜ、世のため人のためを強く想って、わざわざ高いリスクを引き受けてまで起業するような人が、誰にも必要とされないものを作って、失敗してしまうのでしょうか?

それは、ビジョン設定型では(というかビジョン設定型手法を適用する必要がある問題解決においては)、どうしても強い想いが先行してしまって起業家の認知にバイアスがかかり、各種実験を繰り返したとしても、そこから得られる結果をねじ曲げて理解してしまいがちだからだというのが、僕の現時点での理解です。そして、これは前述(5段落前)の太字部分の構造が引き起こす、ちょっとやそっとでは回避不能な事象です。

例えばmeepaの今回の実験では、仮説の根幹をなす条件が反証されました。最終的にそのことに気づけたのでOKなのですが、今振り返ってみればもっと早く気づけたはずだと感じています(この点については第4話でも触れます)。実験開始後2ヶ月が経過した頃に自分でも「あれもしかして根本的な部分でズレてる?」と気づき始め、その数週間後には確信に近い状態に至ったのですが、振り返ってみればその予兆は開始当初からありました。でもその時は他の可能性ばかりが気になるのです。「ここのUIがよくないんじゃないか」「こういう機能を追加すればKPIが改善するんじゃないか」等々。
なぜならこっちは自分が立てた仮説を半ば盲信しちゃってるんで。あるいは事前のインタビューではみんな「いいね」「凄いね」って褒めてくれてたんで。ちょっとやそっとのことでは脳にこびりついたバイアスは剥がれないんですよね。もしピッチコンテストで表彰されちゃってたりすると、このバイアス剥がしは相当大変な知的作業になるんだろうなと想像します。

meepaの今回の実験の場合は、どうポジティブに解釈しても「仮説が立証されました!」「アクセル全開にすれば成功できます!」と胸を張って言える結果ではなかったので、気付かざるを得なかったのですが、このような小さな実験を端折ってしまったり、あるいは実験で中途半端に良い結果が出てしまったが故に根本に立ち戻らずにそのまま進んでしまうと、"No Market Need"という悲劇が起こるのだろうと思います。

色んな有名起業家のtwitterで「初期仮説に捉われず、振り幅広くピボットできる人が成功する」という類の発信がされるのも、この話と符合します。

余談ですが、あるベンチャーキャピタリストから聞いた話によると、教育・EdTech領域では、理想に燃える起業家が多いため、この手の罠にハマってしまうのが「あるある」だそうです。

"MVP"の意味を反芻する

「じゃあどうすればいいか?」を考える上で、まず"MVP"という言葉の意味に着目してみます。

結果からすると、今回のβテストで作ったmeepa(β版)は、"MVP"になっていなかったと思っています。

MVPは"Minimum Viable Product"の略です。minimumとproductは分かりやすいのですが、viableは聞き慣れない。ということで、辞書で引いてみると...

"viable" ... 「(計画などが)実行可能な」「(新生児などが)生存能力のある」「(動植物が)成長できる」「(国などが)発展しうる」「(戦略などが)通用する」

ということで、viableは「(ユーザーにとって)実用的な」(そうであれば、戦略として通用することになるし、製品として生存能力があることにもなる)くらいの意味で捉えるのがちょうどいいんじゃないかと思います。MVPの訳として「実用最小限の製品」というフレーズが当てられたりしますし。

改めてこれらの言葉を吟味すると、今回のmeepa(β版)は、minimumではあった(多分。詳細は第4章で触れます)ものの、viableじゃなかったなと。

こう考えてみると、日本のビジネスシーンで使われる"MVP"という言葉は、多くの場合、「とにかく何か作っちゃおうぜ」の代名詞として使われているような気がして、それは誤用ないしはなんちゃってMVPだなと思います。

なんでこんな話をしたかというと、この言葉を正しく理解し拘ることで、ビジョン設定型問題解決の構造的な罠から脱出する地道なヒントがあるように思ったからです。それは、ビジョン設定型の問題解決アプローチだからこそ、ユーザーにとってのViability(実用性)を徹底的に問い続けるということです。即効性のあるお手軽な処方箋じゃないですが。

2つの輪っかの重なるスイートスポットを見つける

同じようなことをもう少し違う角度から説明してみます。

meepaで起こっていたことを図にすると、以下のようなイメージなのかなと思います(もっといい図解方法がありそうな気もしますが)。

そうするつもりは全くなかったものの、極端に言えば、現実のユーザーの課題そっちのけでビジョンを押し付けてしまっていたという構図です。

meepa - 山中 - Copy of これまで

本来は、そうではなくて、ユーザーにとってのViability(実用性)を徹底的に問い続け、輪っかが重なる部分(=スイートスポット)を見つけ出す必要があったのだと考えています。

幸いなことにmeepaでは今回の実験を経て、スイートスポット部分に当たる新たな仮説を得ており、盲信しすぎないようにある程度注意しながら(同時に注意しすぎて一定の推進力を失わなようにも注意しながら)、新しい仮説検証を行っています。

やっぱり格言は深い

蛇足ですが、この経験を経て、以下の格言は絶妙な言い回しだなと改めて感心します。これまでは当たり前のこと言ってるだけじゃんって感じだったんですが。最後に自戒も込めて紹介させてください。

顧客が欲しがるものを作れ − ポール・グレアム

顧客の半歩先を行け
 − ?

今後の予定

今回は『理想に燃える起業家がハマりがちな罠』というテーマでした。なるべくNGなしで書いたつもりですが、どうしてもイニシャルトークにならざるを得ない部分があるので、少しわかりにくい部分があったかもしれません。いつかmeepaが成功して、笑い話として、包み隠さず全てお話しできたらいいなって思います。

次回以降も、読んでくれる人にとって何らかの示唆が出せればと思って頑張って書きますので、ぜひお楽しみに!

次回以降の予定
第3話:偶然を味方につけるべし
第4話:実験は計画的に
第5話:副業人材中心のチームで成功を目指す


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