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短編小説 友人との再会

 1年ぶりに友人に会う。嬉しいな。仕事が忙しくてなかなか会う機会がなかったけど、ようやく会える日がきた。
「久しぶりー。」
「おー久しぶりー。」
 久しぶりに会った友人は以前とは全然全く違う体格。前は太っていたのに今はすごく引き締まっている。
「どうしたの?なんか見ない間に体型全然変わったね。」
「あっ、分かる?ずっとジムに行っているんだよ。」
「「そりゃあ分かるよ。だってこう言っては失礼だけど前に会った時はこんな痩せていなかったし、こんな筋肉質じゃなかったからさ。ジムにずっと通っているの?」
「そう。もう1年は通っているな。前に会った時っていつだったっけ?」
 そうか、じゃあたぶん最後に会った前後からずっと通い続けているのか。それはすごいな。でもなんでそんなに続くのだろう。俺等がよく一緒にいた時は筋トレなんかしても、すぐにやめていたのに。
「たぶん1年くらい前じゃないかな。ということはその時くらいからずっと続けているってこと?」
「そうなるね。」
 人間変わるものだな。
「でもなんでそんなに続いているの?」
「なんでだろ?でも目的とか目標を持てたのは大きいかな。というかこれが最大の原因かな。1年前くらいに好きな人が出来てさ、その人と付き合いけど、当時の俺は太ってただろ。だからこれじゃダメだと思ったんだよ。会うことも恥ずかしいし、こんな自分じゃダメだって否定することばかりだったから、一大決心してジムに通おうと思ってさ。それで具体的にいつまでにこれだけ痩せる、ジムに来ている人で目標とする人を定めて、あの人のようになる為に筋肉をつけていこうと思ったんだよね。それが良かったのだと思う。」
 それはすごい。ただ漠然と痩せたいとかじゃなく、目的や目標をしっかり定めて取り組んでいたのか。俺もやってみようかな。俺が目標とするならこいつだな。
「すごいな。よくそれだけ熱量を持てたね。」
「まあなんとしてでもあの人と付き合いたいと思ったからね。それでここはケチってはいけないと思って、最初はパーソナルジムにして、積極的に質問したり、フォームに間違いはないかとしつこいくらいに聞いたり。自分でも当然調べたりして、それが自分にとって有効かもトレーナーさんに聞いてさ。食事制限とかもバッチリやって。必死だったよ。そのトレーナーにいくら嫌われてもこの目標を達成しなくてはと思ってた。俺今まであんなに頑張ったことあったかな?」
 そう言葉にしている時の表情はとても活き活きとしていた。もしかしたら今までで一番なんじゃないかな。俺は正直羨ましいと思った。最近こんな表情したことあったかな。いや確実にない。俺もこんな風になりたい。
「それで徐々に変わってきたの?」
「そうだな、最初はきつかったけどそこは歯を食いしばって頑張ってたら、やっぱり体重も痩せてくるし、少しずつ身体の肉付きも変わってきたね。鏡を見るのが楽しくなってきたもん。ちょっとポーズとったりしてさ。」
「やってそう。」
 思わず想像して笑ってしまう。
「まあ変ってないところに悔しがることも多いんだけどね。でも変ったなってところがあったら嬉しいじゃん。それがモチベーションになったりして、次はこの部分をなんとしてでも変えたいとかいろいろと欲も出てきて。」
「へーそうなんだ。」
「あとは周りも痩せたねとか言ってくれるとそれもまた嬉しくてね。」
「それはモチベーション上がるね。」
「そう。それで逆に続けないと気持ち悪いとなってきたわけ。」
 よし決めた。俺もやろう。俺もここまで熱中するか分からないけど俺なりにやって、少しは筋肉をつけたい。俺にだってきっと出来る。
「それで恋愛の方はどうなったの?」
「そうだよ。肝心なことを忘れていた。それで今の彼女になりました。報われたーって思ったもんだね。」
「すげー。」
 そりゃあこれだけ自信に溢れた表情もするよな。
「だろ。それで付き合ってからどうだろ半年くらいしてからかな、なんで付き合おうと思ったのって聞いたら、知り合った時の表情とは全然違ったって言ってくれてね。」
「自信がついたってこと?」
「そう。痩せ始めていり、筋肉が徐々にでもついてきた自分に自信がついたり、周りから痩せたねって言ってくれることで自信がついてきた。だからそれが表情にも出てきたってことだと思う。それと1番の理由が、その頑張っている目的が自分だと知った時にすごく嬉しくなったんだって。その人も自分に自信がなかったから、自分の為にそこまで行動してくれて、それまでの俺の表情や行動からの変化を感じた時に一緒にいたいと感じてくれたみたい。今ではその彼女も自分のやりたいことを始めてさ。」
「なるほどな。」
 でもその気持ちが分かる。もちろん本人が望むからそうしているのもあるけど、自分の為にそれだけの行動をしてくれたのならそれは嬉しい。
「でも本当良かったな。なんか俺まですごく嬉しくなったよ。」
「ありがとう。なんか自信を持ち始めたことでいろんなことが変わり始めたんだよね。」
「いろんなこと?」
「そう。例えば仕事にしたってそう。それまでって自分に自信がないから、何か新しいことにもチャレンジしてみようという気がなかなか持てなかったんだけど、少しずつ新しいこともやってみようと思えたり。他人にも気軽に自分から話せるようになった。」
「へー、自分からか。」
「そう、例えば同僚にしても後輩にしても困っていたらどうした?って声を掛けたり、見ていて具体的に何に困っているのかが分かったら、一緒にやるよって手伝ってあげたり。そうすると自分が困っている時に助けてくれるんだよね。まあ全員じゃないけどね。この前だって新規事業で自分が手を挙げて始めたものの困っていたら、助けてくれたなんだよ。この前助けてくれたから、今度は自分が助けるって来てくれたりして嬉しかったな。僕はこういう空気が好きだな。」
 こんなに変わるんだな。1番の原因は自分に自信がついたから。自分から目標をもって、それに向けて真剣に取り組んだからかな。
「そうか、それもすごいな。なんか置いてきぼりにされた気分だな。」
 俺は事実この時こう思っていた。自分が置かれている境遇と照らし合わせるとなんか惨めだなと。
「いやそうはいっても今までとたいして変らんぞ。今でも自分に自信がないことなんて山ほどあるし、でも以前の自分から変わったって成功体験が少しだけチャレンジしようと思う意欲をくれたかな。」
「なあ、俺も一緒のジムに行って良いか?」
「そりゃあもちろん。やる気になった?」
「だってこのまま1人だけ今までの一緒って悔しいだろ。」
「いいね。じゃあやるか。」
 具体的に2人の日程を合わせてジムに通う日を定めた。俺はこの友人ほどの強いモチベーションはない。この人と付き合いたいから、この人に振り向いて欲しいから、それくらいの強いモチベーションじゃないかもしれないけど、自分もこの友人のようになりたい。その為に今燻っていた足を踏み出した。
 ロールモデルは身近にいる。もしかしたらジムに通えば、また別の目標なる人も出てくるかもしれない。その人を目指して、自分の現状と照らし合わせながら鍛えていく。なんか今までになかった感覚だな。
 自分の1年後はどうなっているんだろう。この友人と同じような体格にはなっていないと思うけど、その変化で今よりも自分に自信が持てているかもしれない。いやそうなる為に地道にでもやり続ける。
 俺もそうやって自分に多少なりとも自信が持てたら、これからやりたいことも出来るかもしれないし、もっと自分らしく生きていける気がする。
「おう、じゃあ来週の火曜日にジムで。」
 友人に手を振る自分がちょっと笑顔になった。

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