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短編小説 AIがくれた副作用

 ニュースを見ればAIの話をしている。AIか、これまで何もしてこなかったな。自分の仕事もこれからAIが奪っていくのかな。
 考えてみればこのAIはここ数年の話だけど、話題にされることは増える一方だ。たぶんこれからはもっと増えるだろう。来年はもっと進化しているだろうし、その後の2年後、3年後なんてどんなに進化しているかなんて全く想像も出来ない。
 僕はこれまでAIを避けてきた。自分は新しいことに飛びつくのが遅い。躊躇してしまう性格。でもこのまま不安をずっと抱え続けていたり、社会から取り残されていくのはもっと怖い。
 だったら少しずつでも活用していこうか。
「AIはこれからどんどん伸びていきますよ。僕はこれまでいろんな企業が出しているAIを使ってきましたけど、これからどう発展していくのか正直分からないです。」
「これだけ追っかけておられる方でも分からない部分があるのですか?」
「もちろんです。使っているから分からないのかもしれませんね。でもだからこそ発見の連続なんですよ。こんな機能が追加されているんだ、こんなことが出来るんだと毎日のように発見があります。それは今後も変わらないことは間違いないと思います。というよりはもっと加速度的に変わっていくと思います。だから僕は楽しみなんです、これからどうなっていくのかが。」
 この人のようには僕は扱えないだろうし、そこまで興味も持てないと思う。でも少しでも良いから使ってみようかな。使わないより使ってみて、ここは理解しているという方が納得もしくはせめて自分の仕事のジャンルに関してはどういう風に使えるか調べてみようかな。
「そうなんですか。これから加速度的にですか?」
「はい。僕はそう思っています。」
「それで毎日どれくらい使っておられるのですか?」
「僕はそういう業界に属していますから、ずっと使っていますね。でもこれを見ておられる方もご自身の置かれている環境に当てはめて活用されてはどうでしょうか?AIと共存していくというかAIと一緒に仕事をしていく、そんな未来もあって良いのではないでしょうか?少しずつ取り入れていけば、理解度も増していく。そうすると楽しみ方も増えていきますよ。」
 AIと一緒に仕事をするか、少しだけ考えてみようか。
「避けるのではなく一緒に仕事をする、それは良いですね。」
「はい、まずは1日少しの時間で良いから仕事の中で取り入れてみて下さい。そうして実験をしていくと上手く活用も出来てくるのはないでしょうか。」
「なるほど。」
「使用しているから理解度も深まって、深まるから楽しさを見つけやすいと。」
「その通りです。まあ僕の立場でこんなことを言うのも違うかもしれませんが、別にその道のトップじゃないといけないのではない。自分なりに使ってみる。これで良いのではと思います。」
 この人は自分の環境に皆を当てはめさせるのではなく、それぞれに委ねている。この考え方に共感するな。
「今日はありがとうございました。」
 AIに関するニュースはこれで終わった。でも今までよりは自分の中で気持ちの変化が起きている。今までは拒否の姿勢を続けていたけど、今はどうしたら活かせるかを少しずつでも考えている自分がいる。
 職場の中で周囲を見渡してもAIを仕事に取り入れている人はほとんどいない。じゃあここで僕が少しでも使えるようになれば、それだけで他の人と差別化出来るんじゃないか。自分だけしか使っていないなら、その点だけでも他の人より1歩も2歩も前に進んでいることになる。これは自分にとっても大きなメリットなんじゃないか。
 僕はテクノロジーとはあまり関係ない業界にいるけど、だからこそそこで使える人材となれば優位に立てる。全く使えないより使える人材になっている方が有利なのは確実なのだから。
 じゃあ1日1時間でも良いから使い始めてみようか。今ならSNSでも動画でも紹介しているコンテンツなんていくらでもあるだろう。自分の業界や仕事内容に当てはめて考えていけば少しずつでも学んでいけるかもしれない。
 ただここで問題なのが、僕がいつも3日坊主ってことだな。ダイエットでも筋トレでもすぐにやめてしまう。なぜなのだろう。どうやったら続くのだろう。少し考えてみると特に目的がなかったから。だからやる意味をあまり見出せなかった。でも今回は仕事に活かすため、それも自分が有利になる為に。
 その為にはさっきのニュースの人が言っていたことがポイントになるかな。彼は恐らく仕事で使っているとはいえ、仕事だから仕方無しに使っているのではない。彼の表情はとても明るかった。恐らく仕事じゃなくてもAIを使っていると思う。そうだとすれば彼の根底にはAIへの興味、AIを楽しむことがあるんじゃないか。そもそも楽しみにしていないと多くの人は続かない。
 じゃあ僕も少しはAIを活用することに対して、楽しむ気持ちを持とう。こんなことが出来るんだ、それならプレゼンをする時にこんな風に使えるとか。こんな風に使えば時間も短縮出来て残業時間も減る。なかなか手付かずだった仕事も出来るようになるとか。いろいろ使い道はありそうだ。

「昨日ニュースで見たんですけどね、今ってAIとかよく聞くじゃないですか?なんかプライベートとかでも使ったりしてます?」
「あーAIね、僕は使っていないな。なんかそういうのに疎いんだよね。」
「そうですよね。どう学んだら良いか分からないですもんね。」
「それに俺等の業界ってそんなに最先端の業界じゃないからな。他の人も使っている人なんていないと思うな。少なくとも俺は知らん。」
「そうですよね。」
 思った通りの反応だ。僕は今日から1日30分を目処にいろんなことをチャレンジしていこうかな。確かに1日30分とすれば、トップオブトップの人からすれば話にならないくらいの時間かもしれない。でも1年間ずっと続けてみてはどうだろう。多くの時間をAIに費やしたことになる。そうすれば他のほとんど使ったことがない人に比べれば、そこには大きな差が出来ているはずだ。
 別にトップオブトップを目指さなくて良い。でも自分なりに使っていく。ここを大事にしていく。そもそも僕は仕事で大成功を収めたいと思っていないのだから。
「どうしたの?なんかずっとPCで検索してない?」
「いや昨日AIのニュースをしてたでしょ。俺の仕事でも使えないかなと思って。それでいろんな調べ物をしてるんだよ。どうせあるなら自分の仕事にも活かしたいでしょ。」
「どうしたの?なんかやる気満々じゃん。」
「だってさ、他の人全然使っていないんだよ。ここで使えるようになっておけば、それだけで優位に立てると思わない。」
「確かに。私も使ってみようかな。」
「うん、自分の業界には関係ないと思う時こそ使ってみると良いんじゃないかと勝手に思っているんだよね。だって自分の業界には関係ないなって思いがちでしょ。でも昨日ニュースに出てた人が言ってたみたいにどう進化していくのか誰にも分からない。自分の業界でどう使っていくか知らなかっただけかもしれないし、もし仮に今の時点ではそんなに関与していなかったとしても、今後あっという間に自分の仕事にも活かすようになっていく可能性だってある。その時に初めて触れましたっていうよりは、むちゃくちゃ詳しくて何でも知っていますとはいかなくても、けっこう使っていましたってかなりアドバンテージだと思わない?」
「そうね。なんか言われてしっくりきた。私も使おうかな。1人でやっているより2人でこんな機能見つけたよってなる方が面白いもんね。」
確かに身近な人で一緒に発見し合えるならどんどん意欲も湧いてきそう。これまでは1人で楽しみ方を見つけていこうとしていたけど、自分とは違う視点から探っていくだろうし、自分の知りたかった情報をもらうなんてことも多いに起こり得る。
「確かに。これまでは自分1人で考えていくつもりだったのだけど、それならお互いに楽しみながら使おうよ。良いと思った機能があったら共有したりしてね。」
「そうそう、1人でやっているより2人の方が情報量や見方も変わると思う。」
「じゃあ出来たら職場内でも共有していかない?だって1人で優位に立つのも良いけど、これも1人の視点より全体に伝わった方がストレスも減ると思うんだよね。」
「でもそれだと優位に立てなくない?」
「いやもう教えられている時点で、優に立てているんじゃない?だって教えられたら人からしたらその時点で相手に尊敬ってするでしょ。それに教える時って1番理解度が増すと思う。まあこれは私が思っていることだけど、みんなで共有して成果を上げていく方が自分の手柄にもならない?」
 確かにそうだ。今までは自分のことばかりに目が向いていたけど、他の人も知り、情報を共有して効果的に仕事をしていけば、自分もストレスが少なくて済む。それに全体の成果に繋がれば、それを先導した自分の評価にも繋がる。それを正当に評価しれくれと言うのは何もおかしなことじゃない。堂々と主張すれば良い。
「ごめん俺が間違ってた。その通りだね。その為には自分が相手に伝わるくらい解像度を上げて話さないと。そう考えたら人に教えることが1番理解するっていう「私ものも分かるな。ありがとう。」
「いや私もふと思ったんだよ。」
 なんか夫婦でもっと仲良くなった気がする。2人でAIを使うようになって会話の量も増えるだろうし、他のことでも会話が増えるだろう。僕は通勤時間を利用して学ぼうかな。それから夜9時からだったら時間に余裕も持てるだろうし。
「僕は夜9時くらいから30分ほどAIを使いながら使い道を探っていこうと思うのだけどどうする?」
「私もその時間にしたしその時間には食事も終えているだろうし、片付けはちょっと手伝ってくれない?」
「OK、じゃあ夕食の片付けはしておくよ。その代わりお風呂とか掃除してもらって良い?それが終わったらだいたい9時くらいになっているだろうから。そこから2人で始めようよ。」
「うんそうしようか。」
 
 一週間が経った。一週間ずっとAIをさわり、通勤時間で研究して、家でも家事を今まで以上するようになってようやく気付いた。妻はこれだけのことを毎日していてくれていたんだ。相手も仕事があり、その責任の難易度や拘束時間もそれぞれだ。でもこれだけやってくれていることに気付いた時、妻にこれまで以上の感謝の気持ちが芽生えた。
「今更だけど今までこれだけ多くの家事をしてくれていたんだね。ありがとう。」
「ようやく気付いたか。エッヘン。」
「うん、だからこれからもっと積極的にやります。」
「うん、ありがとう。じゃあ今週から週末はランチを一緒に作ってよ。それで1人で出来るようになったら1人で作ってくれる?」
「分かった。洗濯も僕がやっておくよ。」
 AIを一緒に学ぶようになってから僕はそれ以外のことでも多くのことを学んだ。
「家事もそうだけど、ひとまず半年はAIを使ってみようと思う。」
「半年か。」
「うん、半年続けたら相当多くの時間を費やしたことになるでしょ。それで楽しくなってきたら、もう期限なんて決めなくてもやりたいと思うようになると思うんだよね。」
 初めは拒んでいた自分、これから楽しみながらAIを使いたい。
 


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