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"国民"の日本

 日本史における、"天皇"や"武士"に次ぐもう一つのメインプレイヤー。それが"国民"です。まさしく現代において、政治のあり方を決めるのは、たった一人でもなく、一部の階級でもなく、"国民"である全員なのです。

 「東京書籍 新編 新しい社会 歴史」において、あるいは「公民」においても、「国民主権」という言葉はしきりに強調されます。主権とは、国をまとめる偉い力のこと。分かりやすいストーリーとしては、第二次世界大戦が引き起こされた原因は権力の集中と独裁政治にあり、そうした事態が今後も繰り返されるのを防ぐために国民主権なる考え方が採用された、というものがあります。私たち一人ひとりが政治について考え、権力を行使することが、争いの起こらない平和な世界の実現につながるのだ…というところでしょうか。
 ところで"国民"とは何でしょう。大辞泉という辞書では、

こく‐みん【国民】
国家を構成し、その国の国籍を有する者。国政に参与する地位では公民または市民ともよばれる。

「大辞泉」より引用

 と表現されています。「その国の国籍を持っている人」と言うのがいちばん分かりやすそうです。私は日本の国籍を持っているので、日本国民ということになり、そのまま日本の主権を持っている、ということにもなるわけです。
 実際に、国民主権が生み出されたストーリーは正しいのだろうか?という意見もあろうとは思いますが、ここでは特に議論をしません。現代につながる部分というのは非常に繊細で、難しいことだなあと思っています。この記事中では、現代日本は「国民主権」という合言葉のもとで国民一人ひとりが政治のあり方を決められる世の中になっている、という前提に立ちます。

 こと日本においてそうした考え方が生まれ出したのは、明治維新から大正時代にかけてです。江戸時代が終わり、日本が打ち出した方針は"立憲君主制"といって、憲法という最強のルールを作ってそこに「天皇さいつよ」と書き込んでおくことで、天皇をメインプレイヤーに据える、というものでした。
 ただ、この「天皇さいつよ」が必ずしもそうではないんじゃないか、というように言われた時代が、実は「国民主権」がゴリゴリに押し出される第二次世界大戦以前にもありました。「さいつよでも国会のいうことを聞いてね」という、いわゆる「天皇機関説」というやつで、これは中学校の教科書にも載っていますね。結局、戦争の波に飲まれていってしまうわけですが。

 日本において、この「国民主権」をどのように捉えるかというのは、前述したとおり非常に難しく繊細な問題だと思います。それがなぜかということを考えるときに引きたい補助線が、「国民主権とはいかにもたらされたのか?」というもの。
 "天皇"でも"武士"でもそうですが、彼らが主権を手にして政治を行えるようになったのは、ひとえに強かったからです。そう言い切っても良いと思います。例えば天皇に変わって武士がメインプレイヤーとなった時代、天皇サイドは何度か武士に対してケンカをふっかけていますが、いずれも負けてしまい権力を取り戻すことはできませんでした。
 徳川家康は関ヶ原の戦い、源頼朝は壇ノ浦の戦いで勝利したことによって、幕府を開くという偉業を成し遂げることができました。それと同じように、例えばフランスで言えばフランス革命を経て、アメリカで言えばアメリカ独立戦争を経て、初めて"国民"は自らの手に権力を握ることができたわけです。
 日本はどうか?というと、どうもそうではないような気がします。なにせ第二次世界大戦には負けたのです。戦後、国の中で「天皇派」「反天皇派」みたいな内戦が起こったわけでもありません。その時代にあったとーっても複雑な事情から、日本は国民主権を選ばざるを得なかった、というのが実際のところだろうと私は考えています。自ら掴み取ったのではなく、選ばざるを得なかった、というところに、現代日本という国の大きな特徴が刻まれているように感じます。

 さて、「ある集団を構成する全員が、主権を持っている」という考え方は、おそらく歴史を遡ろうとすればどこまでも遡れるのではないかと思います。おおよそ同じ意味の言葉として使われる「民主主義」という言葉の元になった英語「democracy」は、その語源を古代ギリシャまで辿る必要があります。そのぐらい古い時代から生まれていた考えだったということです。
 長い歴史の中ではだいたい、「誰か一人がめっちゃ権力を持つ」か、もしくは「全員がうすーく権力を持つか」の間で揺れている人間の姿が見られます。前者で言えばエジプトの王、中国の皇帝、ルイ14世、ナポレオン、ヒトラー、など。後者で言えば、古代ギリシャ、一時期のローマ、革命直後のフランス。アメリカなどもそうでしょう。そうした二つの考え方が、時代の中で行ったり来たりしているように見えます。今はまさに過渡期と言える時期なのかもしれない、とも思います。

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伊住 向庸(いずみ・こうよう)
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