【野球選手は守備中にどのくらい移動しているのか?】
〈守備の研究は少ない〉
先日、大阪で開催された「日本野球科学研究会第9回大会」に参加してきました。
全国の大学・大学院の研究者の発表から現役の高校球児の研究発表、元プロ野球選手を含めたシンポジウムなど野球の科学に関することをたくさん学ぶことができました。
参加者の中には、有名な研究者だけではなく、修士号を取得されている現プロ野球球団の1軍・2軍監督や元巨人軍のOBなど現場も研究も知られている方が参加していました。
研究会の一つに「内野守備」をテーマにしたシンポジウムがあり、プロで活躍されていた方の守備に関する考え方や指導方法を聞けたことは非常に印象に残っています。その中で、「投球や打撃に比べて、守備に関する研究はまだまだ少ない」と研究者の方がおっしゃっていました。
私のnoteでも投球や打撃に関する研究はこれまで多く紹介してきていますが、守備や走塁に関する発信が少なかったように思えます。
そこで、今回は守備をテーマにしようと思います。
〈守備中の移動距離〉
ところでみなさん、守備中にどのくらいの距離移動しているか想像できますか?
例えば、投手は試合中多くの球数を投げますが、ほとんどマウンドにいることが多く、移動距離は少ないでしょう。一方で、野手は打球が飛んでこなければ守備位置でじっとしたままですが、打球が飛んできたら打球を処理するために動かなければ(走らなければ)いけません。
内野手と比べて外野手は長い距離を走りますが、内野手の方が細かくその都度動きます。
また、キャッチャーはほとんど座った状態でプレーしますが、内野ゴロのバックアップのために一塁の後ろに走ることもあります。
では、どのポジションが試合中一番移動する(走る)のでしょうか?
内野手の中でもショートとセカンド、サードにどのくらいの違いが出るのでしょうか?
具体的に1試合でどのくらい移動するのでしょうか?
ちなみに、サッカーでは1試合の走行距離は平均10.3〜12.5kmと言われています。1)
この数値を頭に入れながら今回の話を聞くとさらに面白いと思います。
〈守備中の身体への負荷を知ること〉
これまでもオンラインサロンで野球に関するトレーニングをお伝えしてきましたが、効率的なトレーニング方法を検討するためには、実際の試合中にかかる身体負荷(活動量や時間、強度、生理的応答など)を理解する必要があります。
守備時の身体負荷に関する研究では投手を対象にしたものが多く、例えばある研究では「公式戦の投球中の心拍数は、最大心拍数の85±4%」であると報告されています。
====================================〈関連記事〉*オンラインサロン内で公開
【ピッチャーのためのランメニュー 〜理論編〜】2022.08.11
【ピッチャーのためのランメニュー 〜実践編〜】2022.08.18
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しかし、これまでに投手以外のポジションの移動特性や生理学的応答については明らかになっていませんでした。
そこで今回は、野球の試合における移動特性と生理学的応答についてポジション毎に調査した研究を紹介します。
〈研究紹介〉
■方法
対象は大学野球選手17名(年齢19.5±0.8歳、身長177±5cm、体重78.1±6.7kg)で練習試合(1試合)における出場した全選手のデータを分析対象としています。
対象者の上背部に携帯型のGPSを、胸部に心拍計を装着し、試合が行われました。(GPSにより移動距離や移動速度が測定されます)
選手が途中交代した場合は、 ポジション毎に次の選手にGPSと心拍計を付け替えてそのまま測定を継続されました。
分析範囲は最初の打者がバッターボックスに入る瞬間から3アウト目の判定になる瞬間までとし、各回の守備に要した時間(秒)、移動距離(m)、移動速度(km/h)、心拍数((bpm)、 年齢から推定される最大心拍数に対する割合 (%)がポジション別に比較されました。
■結果
まず初めにこの対象となった試合の各イニングの守備時間は4分52秒± 1 分54秒であり、全37打席、総投球数は134球、 1 打席あたりの球数は3.6±2.0球でした。
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