お父さんのはなし

先日、参加したRadio Star Auditionが終了した。私は予選、セミファイナル共に得票数では1位になれず勝ち抜けできなかったものの、なんと「審査員賞」なるもので幸運にも決勝戦まで駒を進めることができた。ファイナルでは残念ながら落選してしまったけれど、誰がなっても良いくらいみんな素敵な方で、私なんてのは元々2回も1位で勝ち進んだわけでもないのだからまあこんなものかと納得した結果となった。

オーディションはそもそも投票型だったこともあり、ファンやフォロワーが圧倒的に少ない私にはどう考えても勝ち目がないことが分かっていたから、当初は参加を迷っていた。ただ、もうその時期別件ですっかり自分に自信を失くしていたため、落ちて恥をかこうが失うものもなかろうと、半ばやけくその状態でエントリーした。しかし意外にも身近な人が応援してくれたこと、そして運良く審査員の方にマッチする何かがあったこと、色んなことが重なってなんと最終審査まで漕ぎつけた。

そこでやった5分間のラジオ番組。私は「勉強を楽しくする」というテーマを選んだ。この選択には私の幼少期からのトラウマが深く関わっている。父親のことだ。

以前、noteの記事で書いた話だが、
https://note.com/ky6021/n/n50214bac65d2
父は私に対してとても厳しい人だった。父親自身、貧しい家庭に生まれたこともあり、色々と苦労してきたからこそだとは思う。ただ、それを含めても父の厳しさは度を越していた。テストで少し失敗をすると学校帰りに家族で立ち寄った蕎麦屋の真ん中で私は泣くまで罵声を浴びせられ、理不尽なことに対し反論すると起き上がれなくなるまで蹴られ、物を投げられ額から血を出したこともあった。

父は私に幼い頃から「お前は馬鹿なんだから」と言い聞かせてきた。幸い私は生まれつき気の強い性格だったため、「父より良い大学を出て見返してやろう」と思うことができ、なんとか自分を保っていられた。大学に入りさえすれば全て終わる、そう思って努力した結果、父より上とはいかないまでも同程度の学校になんとか滑り込むことができた。

しかし、甘かった。父は私を認めることもなく、履修する授業さえも全て口出しし、その通りにさせた。将来は自分と同じ証券関係か銀行に勤めろ、お前は馬鹿なんだから俺のいう通りにしていれば良い。私は常に携帯のGPSで居場所をチェックされ、バイトで帰るのが遅くなると辞めてしまえと怒鳴られ、サークルにも父がいる土日には参加できなかった。流石に10年以上父からそういう扱いを受けていると感覚が麻痺してきて、私は将来銀行員にならなきゃいけないんだ、声優になんてなれるはずがない、このまま父が死ぬまで一生面倒を見るのか、そう思い込んでしまうようになっていた。将来なれないのだと思うと声優さんに対する嫉妬も深くなり、大好きだったアニメも観られなくなった。

そういう生活を続けて2年が経ったある日。私の中で何かが弾けた。このまま父が亡くなるまで待って、その後に好きなことをしようとしても、きっと60歳以上になっている。それまで私はずっとこんな生活を続けるつもりなのか?そう自問した。すると、今まで我慢していたことが一気に馬鹿らしくなったのだ。それに、私は今まで勉強を頑張ったお陰で塾講師として働くくらいの能力はある、大学は奨学金で何とかなる、家は保証人不要のところもあるし、引っ越しは少しずつ荷物を送ればバレない。そう考えた私は早速行動を起こし、母と弟に事情を話し、大学3年の春、母と一緒に家を出た。白昼堂々の夜逃げである。

それから私は奨学金で大学に通いつつ、演技の勉強を始め、なんとか就職し、そこも退職し、なんやかんやで結局今の事務所に拾ってもらって現在に至る。父とはもう5年以上会っていない。

父と離れて少しは薄れたものの、20年以上言われ続けた自分を否定する言葉は、なかなかに私を苦しめ続けた。オーディションに落ちるたび私は「やっぱり私はダメなんだな」と無意識に考えた。優等生でいるクセが抜けず、演技もガチガチに凝り固まって目も当てられなかった。学歴を知られると称賛されることは多かったが、演技が上手くなるのにクソの役にも立たない自分の経歴を私は恨んだ。大学に行くくらいなら専門学校や演劇の大学に行きたかったとひどく後悔した。私は本格的に勉強が嫌いになった。

他の人には自分みたいになってほしくないなあ。

私は塾に就職したときも、塾を辞めて家庭教師になったあとも、ずっとそう思っていた。

こういう経緯があって、私は「誰かが人生を楽しむための手伝いをする」というのを一番大切にしてきた。今回のオーディションの生番組は、私の人生をまるっと反面教師にして生まれたものだったわけである。
※オーディション生番組はこちら(40:21あたりから)
https://youtu.be/7joXcEo-xIM

この企画に対して、意外にも多くの方から好意的な感想をいただけた。面白かった、楽しかった。そのおかげで私はようやく、自分の人生を人のために役立てたんだという実感を得られた。そして、今まで苦しんできた人生があったからこそ生み出せた、誰にも真似できない企画なんだと胸を張って言うことができた。ようやくここで、私は人生に一つ区切りをつけることができた。

今回のオーディションは、賞は逃したが、思わぬ成果を得られた。まさに「人生を変える」オーディションだったと私の記憶に刻まれたに違いない。応援してくださった方、企画を評価してくださった方、本当にありがとうございました。

最後に、この記事を読んでいるかもしれないお父さんへ。

私はあなたにされたことは一生許しません。多分、二度と会うこともないでしょう。だけど、あなたが与えてくれた勉強する機会のおかげで私はいま生きています。それに関しては、本当に感謝しています。

残りの人生はどうか穏やかに、子供に煩わされることなく好きなことをして過ごしてください。どうぞお元気で。

横田香峰

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