この発言に、会場では笑いが起こった。
フランスのパリ北駅には、真鍋淑郎さんの名前とともに、方程式がアートとして大きく掲示されている。
2015年、地球温暖化対策について話し合うCOP21にあわせて気候変動問題を表現する作品として、真鍋さんの研究に着目して制作されたそうだ。
が、ほとんどの日本人には、この数日で見かけるようになった顔だろう。
少なくとも私は「元気なじいさん」くらいの印象で、正直なところ気候変動だのと聞いてもピンとこない。
あとは「抜群に聞きやすい英語で話すな」と思ったくらいか。
つまりは、これまでのノーベル賞受賞者に対して抱く思いとそう違わない。
何ともなく「すごいねえ」とか言って、おしまい。
だが、受賞から5日後に在籍する米プリンスントン大学で開いた会見の中で真鍋さんが口にした記事が目に留まった。
「日本に戻りたくない理由の一つは、周囲に同調して生きる能力がないからです」この発言に、会場では笑いが起こった。
記事にある「ネット上で聞かれる声に」というほうが正しいかもしれない。
「なんか、切実」
「これは考えさせられるな」
「記者達は笑ってたけど私は笑えんかった」
「日本人はどう受け止めればよいのか」
ここに同調が起きることに、もうひと笑い起きると思わなかったのかな?
真鍋さんがどう思い、考えて選んだ言葉かを私などが知るすべはない。
「日本は見限ったんですよ、もう半世紀ほど前に」
そう言っているようにしか聞こえないのは、私だけですか?
1997年に日本へ帰国した真鍋さんは、JAXAとJAMSTECの共同プロジェクト「地球フロンティア研究システム」で、地球温暖化予測研究領域のトップに就任し、4年後に辞任している。
当時の報道によれば、地球シミュレーターを利用しての他研究機関との共同研究に官僚が難色を示したことが切っ掛けだったとされている。
学術研究を阻害する縦割り行政に匙を投げたわけだ。
改めて受賞からのコメントを見てみると、そこへと集約するように思える。
この発言はワイドショーで”アメリカンジョーク”として紹介され、司会者やキャスターが「同調する日本社会について言い得ている」と解釈したとか。さらには、それに同調が起きている。
なんなんだ、それ。
いまワイドショーからそんな乗っかりどころをいただきました。
こんなん、なんぼあってもいいですからね。
外連味たっぷりの強烈な皮肉、まさにアメリカンジョークだ。
だからこそ笑いは起こった。
アメリカの、アイビー・リーグの中でも特に伝統あるビッグスリーの1つ。
その大学で行われた会見だからこそ笑える。
日本で聞いて笑えないのは当たり前だ。
ただのジョークではなく、アメリカンジョークだ。
ワイドショーの司会者は「ジョークというより、言い得てらっしゃるなと」そうコメントしたそうだ。
どうか、このコメントはプリンストン大学へ届きませんように。
きっと捧腹絶倒は間違いないと思うが。
そもそも真鍋淑郎さんの国籍はアメリカだ。
日本生まれのノーベル賞受賞者ではあるのは間違いないだろうが、28人めのノーベル賞受賞者ではない。
私も住みながら自分の国に辟易とすることはある。
が、さすがにちょっとここまでくると恥ずかしいとしか思わない。
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タイトル画像は「Kimura」様からお借りしました。
ありがとうございましたm(__)m