見出し画像

田村備前町の民家、ABCD

路地奥の4つの小さな平屋

京都市上京区の古い町並みがのこる閑静な住宅街。
出水通りからとある路地に入ると小さな4棟の平屋がひっそりと並んでいた。

道路に面していないので、その容姿の全貌は外からは伺いしれない、正面を持たない建築。

建築基準法上の接道要件もみたしていないため再建築不可なためリノベーションでしか再生できない物件だった。

改修の依頼を受け、まずは手始めに現場調査に訪れたとき、とても驚いた。

ひとつの棟は僅か35㎡(10.6坪)程度の平屋であるのに、日曜大工的な増改築が重ねられたありさまや、不思議な間取り、やたらと段差がある内部を巡ると、まるで迷宮に忍び混んだような興奮を感じたからだ。

後で聞くと、一部は西陣織の機織りの仕事場だったらしい。

わがままな庭


玄関に入るととつぜん4段の階段がある、水回りは不思議な場所にある、奥へと歩を進めると、突然、南に面した日当たりの良いあかるい庭がわっとあらわれる。

縁側の掃出し窓から庭を眺めると、地面から微妙に高い位置にいることに気がついた。
計測すると庭と縁側との差が1.3mもある。そう、この敷地は奥に行くにつれて傾斜して下っている。

断面図


また、隣合う棟の間には、さらに1.2m幅の路地があり、その路地を抜けるとぽっかりと空いた庭に出くわす。

細く薄暗い路地のつらなりとからの、ぽっかり空いた庭の抜け感の緊張と緩和がとても心地よく感じる。

庭には、長年放置されていてわがままな育ちをした草木が生い茂り、その生き生きした庭の様子と、薄暗く誰もいない民家の様子とのギャップがとても印象的だった。

庭にはいちじくがなっていて、ここで暮らしたなら、できたて果実をもぎとって食べる、庭でのんびり過ごす豊かな暮らしに思いを馳せた。

計画の難点

現場調査を進めると、歳を重ねた魅力的な民家とは裏腹に、ずいぶんな老朽化。
改修計画を練るには問題が多かった。

築年数不明の古い民家であるから、軸組構造の痛みや、耐震性能の弱さは言わずもがなで、これは耐力壁の付加や柱梁の入れ替えや補強で対応できる。

一番の厄介ごとは、敷地が傾斜していることにより、下水排水の計画が難しいこと。

公共下水の配管は路地を出た先の出水通りの道路下に埋設してある。
その下水配管から計画地まで20mほどの距離があり、さらに出水通りから離れるにつれて傾斜している。

キッチンや風呂からの生活排水を公共下水管に流すためには、できるだけ道路に近い場所に水回りを計画する必要があった。

既存 配置・平面図

画像1

改修 配置・平面図

画像2

改修前の様子

画像3

左:路地から既存民家の正面がみえる
右:内路地の様子、奥に庭が見える

画像4

左:内部の様子。右:内路地の様子

画像5

内部の様子、玄関と居間の高さには80cmほどの段差がある。

画像6

わがままに生い茂った庭。
真南に位置するため、とても日当たりが良い。

設計するときに考えたこと

単身者または子育て家族が庭と路地を共有して暮らす住まいを思い描いた。

この敷地は、共有の路地を抜けると4棟の小さな平屋が並び、内路地を抜けると庭にでる。
その庭には塀など仕切りを設けずに、住人どうしが自由に行き来ができる半共有の庭とした。

住人どうしのコミュニケーションのきっかけになればと思い、みかんやブルーベリー、オリーブ、ハーブなどの果樹を植えて果樹園を計画している。

それぞれの棟の間取りは、既存建築の構成や構造を注意深く読み取り、これからの生活様式に合うように再構成している。

小さな平屋でも、大きな空間を感じれるように、視線の抜けをつくり、天窓を要所に配置し室内の明るさと暗さを調整している。

改修断面図

断面図

天井を勾配天井にし、床下を室内化して、空間を大きくしている。

外観

画像7

路地の正面にB棟の玄関扉が見える。
左に行くとA棟。右に行くとC・D棟。
外壁はモルタル塗り。屋根はガルバリウム鋼板立平葺。

画像8

掃出し窓にある格子は耐震性能を向上させるための耐力壁。
室内に採光を十分にとり、意匠的にも楽しめる格子状にしている。

画像9

写真右側はポリカーボネートの外壁と屋根で設えたサンルーム。
庭との室内のユーティリティースペースとしている。

画像10

C・D棟の庭。外壁は杉板貼りのキシラデコール(カスタニ)としている。
敷地が傾斜しているため、室内と地面の高さは70cmほどの差がある。

暮らしが滲み出す、内路地

画像11

A棟からB・C・D等を見る。

画像12

B棟の玄関と、C・D棟へのアプローチ。
アプローチの屋根は光を通すポリカーボネート製としている。
室内の暮らしが滲み出す半屋内的な空間。

画像13

A棟とB棟の間の内路地。抜けると明るい庭に出る。
傾斜しているので、土間は階段状にしている。

敷地の高低差に素直な、A棟

画像14

リビング。階段を上がると屋根裏の寝室。
庭と地続きな床と、小上がり畳、ひとつの居場所と考えた踊り場のような縁側など、床のレベルの変化をつけている。

画像15

腰掛けになる小上がり畳スペース。壁は左官の中塗りのままで仕上げとしている。

画像16

敷地の高低差に素直な段差。小上がりの高さは、腰をかけるのにちょうど良い40cmにしている。

画像17

キッチン。

画像18

サニタリー。床はモザイクタイル貼り、壁はモルタル塗りに白塗装仕上げとしている。

画像19

サニタリーの天井には天窓を設けている。板張り部分はサワラ。

画像20

サンルームから庭をみる。

画像21

左奥がサンルーム。室内と庭との親密な関係がねらい。

庭をながめるキッチン、B棟

画像22

画像23

食事やちょっとしたワークにも使えるカウンターがつながるキッチン。

画像24

キッチン。

画像25

リビング。右側のドアを開けると寝室。

画像26

天窓からの採光でとても明るいサニタリー。

通り土間で庭へ抜ける、C棟

画像27

玄関に入ると、庭まで抜ける通り土間。

画像28

画像29

画像30

画像31

画像32

天窓があり、とてもあかるい畳敷きの屋根裏部屋。

玄関は半外、いきなりサニタリーのD棟

画像33

ポリカーボネートの屋根がかかった内路地を抜けると、D棟へ。

画像34

あかるい半屋外の玄関。靴を脱いで上がると、サニタリースペースになっている。

画像35

サニタリー。ガラスドアの向こうは浴室。

画像36

リビング。フローリングはオーク15mm厚。

画像37

キッチンスペース。

画像38

天窓からの採光であかるい畳敷きの屋根裏部屋。

図面をみる

建築データ

設計:川島裕一建築設計事務所
施工:株式会社タナカ(AB棟)・人見工務店(CD棟)
企画:株式会社 八清
撮影:山崎純敬
構造:木造伝統工法
規模:地上1階
所在地:京都市
分類:古民家再生・リノベーション・コンバージョン




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?