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【旅行】ヴェトナム紀行 まえがき 私独自の旅行スタイルについて

今から8年ほど前まで私は中国在住で仕事をしていて、広東省に10年ほど住んでいたのだが、今から思えばあのロケーションは旅行に出かけるにはなかなかありがたいロケーションだったように思う。
なにせ東アジア屈指のハブ空港である香港空港まで2時間もあればアクセスできる位置に住んでいたので、どこに行くにも結構フライトの融通が利いたもんだ。
香港発着便で適当なのがなければ、やはり2時間くらいで広州白雲空港も利用でき、ここを根拠地にしている中国南方航空の豊富な便も利用できる。
さらにシンガポールや東南アジアといった地域は日本から感じる距離感よりもはるかに近い場所にあり、日帰りで帰ってくる弾丸旅行のようなことだってやろうと思えばやれたほどだ。

また中国で仕事をしていたことも、旅行に行きやすい条件がいろいろそろっている。
というのは日本と違って中国は2週間くらいの長期の休みが年に2回あり、わりと時間の融通が利いたことがありがたい。
一つは10月初頭の国慶節休暇で、もうひとつは冬の春節だ。
特に春節の休暇は寒い広東省に残っていても寒いだけなので、南のあたたかい国で過ごすのは寒がりな家内にとって大変重要な事柄だ。
そういうわけであるから、中国時代は年に少なくとも2回は割と長めの海外旅行に出かけていたように思う。
海外旅行というとなんだかしっくりこない。
もともと中国に住んでいるのだから日本から見ればすでに海外であり、中国からタイに旅行に出かけたとして同じユーラシア大陸の上にあるのでこの場合は海外旅行ではない。
ともかくも、年に2回は違う国に出かける機会に恵まれていたということだ。

さて、今福井の家の押し入れにはちょっとかさばるプラスチックの箱があって、この中には紙やドキュメントなどが入った透明袋がいくつも入っている。
袋に入ってるのはいろんな支払いのレセプトだったりパンフレットだったりする中に、カレンダーの紙を折りたたんだものが入っている。
この袋はある意味私の旅行のスタイルをもっとも端的に表現するものだと思うので、「ヴェトナム-サイゴン 2014 JAN」と書かれた袋を取り出して、ちょっと紹介してみたい。

袋の中身

これは旅行先でもらったいろんなパンフレットのほか、とにかくドキュメント的なものを全部入れている。
無論記念のためでもあるが、のちに記事を書くための資料ともなるもので、どんなに記憶に自信があっても1枚のドキュメントのほうが何より雄弁だ。
その中で、カレンダーの紙を折りたたんだものが入っている。
無論カレンダーは裏紙として使っているのでカレンダー自体には意味はない。
この裏に書いてあるものが私の旅行のスタイルといっていい。

手書きの旅行ドラフト

まず、私の旅行のスタイルから語るべきだろう。
私は中国時代の前半に商社の駐在員をやっていて、中国の雑貨メーカーなどに出かけることが割と多かった。
いまではどうか分からないが当時はスマートフォンもなく、Google earthはあったがweb版のみで携帯デバイスのGPSと連動して使うものではなかったので、とにかく位置情報が分かるものがなかった。
メーカーといっても町工場のような規模のものも多く、カンバンも出ていないことも珍しくない。
また一見貧民窟のように見える地域にあったり、周囲には全く何もない荒野だったりすることもあって、単独行で出かけることに勇気がいるようなケースもあった。
そんな場所の場合、名刺でもらった住所もあてにならないことがあって、タクシーの運転手に見せても迷うことがしばしばあった。
それで、出かける先の地理情報を徹底的に頭に叩き込んでおいて、何があっても自力で帰って来れるだけの土地勘を持つ必要があったのである。
2000年代の広東省の郊外は治安もよいとはいえず、暗くなったら何が起きるか分からない。
そんな中客人を帯同して道に迷ったのではうまくない。
そういうわけで、どんなに知らない土地でも迷わず一発必中で目的地にたどり着ける地理的感覚と犬並みの帰巣能力を身に着けることが必要だ。
そのためには、一度行った場所は途中の経路も含めて特徴的なものをしっかり覚えておくことを習慣にし、常に北がどちらであるかを感覚的に把握しておくことも重要だ。
さらに、地図に普段から親しんでおくことも大変役に立つ。
といっても中国の地図は国防上の制約から正確な縮尺の地形図的なものは一般人が、ましてや外国人が見ることはできないので、「実物の地球を机の上でブラウジングできる」Google Earthの恩恵は計り知れなかった。
一度行った場所はGoogle Earthでその日のうちにおさらいし、次回は確実に一人で行けるようにするという訓練は大変役に立つものだった。

そんなわけで、初めて行く土地を知るためには地図を書き写すことから作業が始まる。
Google Earthを見ながらまず基準となる河川や山の位置を書き込み、次いで移動に直結する主要な道路、空港、港湾等を書き込んでいく。
それから旅行に関係がありそうなこまかい道路などを加えて肉付けしていくことで、「その街がどんなカタチをしているのか」ということが自然に頭に吸収されるのである。
そうすることで、初めての街に降り立っても、何度も来た土地であるかのように歩き回ることができる。

関心がありそうなワード

これと並行して、その土地にまつわる興味関心がありそうなワードを書き込んでいく。
人間の記憶はあてにならないもので、いっときすごく夢中になったことがあったとしても、次にそれを上回る夢中になれるものが現れることで、とたんに風化が始まってしまう。
そのため、どんなくだらないことでも書き込んでおくことで、あとからいくらでも思い出すことができるのである。
なお、私がやる旅行はすべて個人であらゆることを手配する個人旅行で、出発から帰宅まで旅行社にまかせきりになるパック旅行というものはまったく考えたこともない。
旅行で楽しいのは現地で自由自在に動き回って現地の生活を疑似的ではあるが体験し、現地の人と交わって、予測もしていなかった楽しい出来事に出会うことだ。
パックのツアーだとそのすべてができないため、旅行番組をテレビで見ているのと実質的にはほぼ変わることがないと考えている。
私も家内も英語と中国語が使えるのでコミュニケーションにはさほど困らないのだが、正直なところ言葉がわかることはそれほど重要なことではない。
意思の疎通なんてものは頭をひねれば筆談なりしぐさで示すなりで結構何とかなるもので、それよりも現地での動き方、つまりは交通機関の使い方やどんなものが食えるか、やってはいけないことはなにか、ぜひ身に着けておくべき振る舞いはなにかを知っておくほうがよほど大事だ。
そういうものも含めて旅行前にキーワードとなるものを列記しておくことで、旅行のイメージがどんどん膨らんでいく。
この過程が大変面白いのだ。

ところで、ここで重要なのが「決して旅行本を見ない」ということだ。
「地球の歩き方」といった本は親切にいろんな知恵を授けてくれるように思えるが、逆に本に書いてないことは一切教えてくれない。
また、本に載っている「ぜひここに行こう」といった紹介をされている場所も、旅行本が知るきっかけであってはぶちこわしだ。
本に載っている名所だからせっかくなので行かなければ損だという動機でその場所を訪れたとしても、結局は旅行本を追体験するだけのことで、大して思い入れのない場所に連れて行かれるつまらなさは会社の社員旅行や修学旅行でおなじみのことで、パック旅行にしたところで似たようなものなのだ。
なので、行きたい場所はあくまで自分の興味関心から導き出されることがなによりも大事なのだと考えている次第である。

興味のある場所を地図にどんどん書き込む

そうすると、その街にどんなものがあって何が面白そうかがわかってくる。
そういうものはどんどん地図に書き込もう。
もっとも地図に文字を書くとスペースがなくなって見づらくなってしまうので、片っ端から番号を振って、それがなんであるかのリストを地図の脇に書き込んでいく。
そうすることで、ただの手書きの白地図がどんどん興味関心の対象で埋まってくる。
地図に書き込むことで、自分の宿からどの位置にあるか、歩いて行ける場所なのか、交通機関を利用したほうがよいのかといったこともわかってくる。
知らない土地で無事目的地に到着できる達成感というものも旅行の楽しみの大きな一つなので、これは大きな要素だ。
そうすると、そのために何を知るべきかがわかってくるので、旅行の構想が加速度的に広がってくるのである。

スケジュール立案

ある程度構想が膨らんで、この日程で全部は回れないなと気づくころになったらスケジュールを立案しよう。
これもあまり詰め込んだところで現地で状況が変わることはいくらでもある。
例えばその目的地へは現在行くことができないことが分かるとか、さらに興味深いものに出会うといったことだ。
なので、「この日は何をする」くらいにとどめておくべきで、あくまで予定は未定くらいに考えておいた方がよい。
まちがっても出張旅行のようにぎちぎちのスケジュールにすると、スタンプラリーのようにその場所に行くこと自体が目的になってしまうので、疲れるし何をやっているのかわからないようなことになる。

宿もこの段階で決めるのがいい。
旅行の行動予測ができていると街のどこが便利かもわかってくるからだ。
なお、うちの場合は可能な限りAir BnBで現地の人の家にお世話になることにしている。
ホテルというフォーマットは便利なのだが、世界的に共通過ぎて、福井市内だろうが山東省の威海だろうが大して変わらない体験になってしまう上に、なにより現地の人と直接言葉を交わすせっかくの機会を失ってしまうのはあまりに残念だからだ。
そもそもなぜ旅行に行くのかということを聞かれたら、「非日常な異国感を楽しみたいからだ」と答える人は少なくないだろう。
ならばここは是非とも現地に住む人の家にお世話になるといい。
言葉なんてものは頭を使えば代わりのものでどうにでもなるもので、向こうにしたところで言語的に意思疎通が難しそうな客も珍しくないだろうから、ここはあまり考えなくていい。
それよりも円滑なコミュニケーションを築くためには何を知っておくべきで何をやってはいけないかを知っておくことがよほど肝心だ。
日本の常識やマナー(と思い込んでいるもの)はいったん引き出しにしまっておいて最低限必要な荷物をスーツケースに詰め込み、飛行機に数時間乗ることで、その先には普段の日常とはまったく別の日常が広がっている。
これを楽しむためにも、ぜひ現地では現地の人と交わることを意識したいと思っている。

そのような旅行をこれまで数知れずやってきたものをmixiに記事にしていたものが相当数あるので、これもnoteで紹介してみようと思った。
それで、「旅行」のマガジンを新設してこれから載せていきたいと思う。
なお旅行記と銘打ってはあるが、よくある絵日記のようなものではない。
実際に旅行先でよくやるように旅行記もしばしば気まぐれに寄り道したり脱線したりするのだが、「そういう旅行」をやっているのだということでお付き合いいただけたら幸甚に思う。

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