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【旅行】仙台苫小牧ドンブラコ −17− アイヌのごはん

唐突だが、わが家の食習慣は結構日本離れしているらしい。
夫婦ともども中国での海外生活が長かったというせいもあるが、それ以前に夫婦ともども変わり者であまり真面目に日本の習慣を身につけてこなかったせいだろう。
それで、日本の味付けに常人のような思い入れがそれほどなく、また好奇心が異様に強いせいか、見知らぬ文化の料理というものに対するハードルが極めて低いのだ。
それで、時々やるのが料理版ダーツの旅のようなもので、google earthのランダム機能を使って無作為に地球上のとある地点を表示させ、その土地の料理を再現することで我が家の台所だけ世界旅行を楽しんでいる。
アメリカのニューヨークを示された時は、はて色々あり過ぎて何を作ったものかと悩むこともあれば、アルバニアを示されて一体どんなものを食べているのか皆目見当もつかないといったこともあった。
それぞれの料理はそれぞれ大変うまかったのだが、果たしてその味が正解なのかどうかはわからないのがちょっと残念なところで、いずれ答え合わせに行かなければならないと思っている。

そんなわけで、アイヌ文化を知る上でアイヌの料理を食べることが結構楽しみだった。
ゴールデンカムイの中ではびっくりするくらい詳細な料理のシーンがあって、漫画を見ながらそのまま再現できるんじゃないかと思うのだが、エゾリスを罠で捕らえて皮をむくとか、カワウソを捕らえて頭を齧るといった、なかなかハードなものだ。
さすがは狩猟採集の文化だけあって、食材はスーパーで買ってくるのではなく森で獲ってくるのが出発点なのがなかなか新鮮だ。

ゴールデンカムイ2巻よりオハウ

そのゴールデンカムイでよく出てくるのがプクサという野草で、ギョウジャニンニクというものらしい。
これは何にでも入れる薬味のようなものらしく、ニンニクという和名はついていながらもどうやら別の植物らしい。
これをオハウと呼ばれる汁物に入れると大層ヒンナヒンナ(おいしい)らしい。
捕らえた獲物もリスや小鳥など小さなものはチタタプといって包丁でたたきにして、そのまま食べたり肉団子にしてオハウにしたりするらしい。
一体どんな味なんだろう。
ゴールデンカムイは大変描写に説得力があるのだが味だけは残念ながらわからない。
それで、今回ウポポイでアイヌ料理を食べるのが大変待ち遠しかった次第だ。

ウポポイには食事ができる店が数店ある
1軒目に入った店のメニュー

ウポポイには複数の店があるので、できればそれぞれの店でこれはというものを食べて回りたいもんだ。
2人で一人前しか頼まないのは客としては迷惑な方だろうと思うので、混雑する時間帯を避けてかなり遅めの昼飯ということで足を向けた。
まずはオハウ定食を出している店だ。
オハウというのは鍋というか、汁物のことで、ゴールデンカムイでは頻繁に出てくるのだが、野外行動をしているときは鍋が一番効率がいいのだろう、料理をしていて食材のロスを最も少なくできるのも鍋だ。
作中では塩と薬味のプクサ(ギョウジャニンニク)くらいしか味付けに使っていないので、さぞや薄味な、もとい素材の味が楽しめるのだろうと想像していた。

チェプオハウ(鮭のオハウ)セット
これがチェプオハウ
副菜もなかなか独特なものがついてくる

チェプというのはアイヌ語で魚だが、チェプオハウといったら鮭のオハウになるらしい。
なんでも北海道では鮭は天からいくらでもやってくるもので、あまりに当たり前に獲れるので鮭はカムイではないらしい。
そのオハウは塩味をベースに鮭や根菜類、昆布で薄味ながらも想像していたよりいい味がする。
塩は食材の旨みを引き出すというが、こういうことなんだなと改めて納得だ。
わが家の料理を振り返ってみると、スパイスと調味料をやたらに使うのだが、改めてこういう料理をやると素材を活かすということもわかってくるに違いない。
ああうまかったもう一軒行こう。

ヒンナヒンナキッチン
行者ニンニク山菜そば

1件目ではプクサ(ギョウジャニンニク)が入っていなかったのが残念で、せっかく北海道に来ているのだから、せめてどんな味がするのか知っておきたいものだ。
それで、ヒンナヒンナキッチンという店でプクサが入った蕎麦を出しているのを見て、これを食べようと思った。
出てきた蕎麦は一見普通の山菜蕎麦で、どれがギョウジャニンニクなのか分かりにくい。
やはり料理名の頭に頂いているだけに、一番目立つものがそうであるに違いない。
見るとドンブリの一角を占めている細かく刻んだ何かがそうではないか。
そう思って舌に神経を集中させつつ味わってみる。
うむ、どうやらネギのような味がするのだな。
ほらこれがプクサらしいよと家内にも勧めてみるのだが、なんだかよくわからない顔をして、こりゃネギじゃないかと目が語っている。
まさかと思って再度疑念の表情を浮かべつつ味わってみると、やはりネギだった。
ではギョウジャニンニクとはどれなんだと思い、画像検索で調べてみるとどうやら細長い葉っぱというか、伸びた芽のような外観をしているらしい。
そうかお前か!と思って茎のようなものを摘んで食ってみると、それはほうれん草だった。
他に入っているのはゼンマイの軸くらいだし、よくわからないぜと諦めて丼の奥をさらったところ、どうやらゼンマイではない風体のなんだかよくわからないチューリップの茎のようなものが沈んでいた。
よしお前だな!と食ってみた。
なんというかあまり味も香りもないクニクニした食感だけが記憶に残っているのだが、どうやら消去法でこいつがプクサらしい。
言われてみればなんとなく香味野菜のような香りがしなくもないが、何も言われなかったらほうれん草と一緒に無意識に食ってしまったかもしれない。
どうも季節というものがあるのかもしれないので、旬のプクサをドンブリいっぱい食ったら色々わかるに違いない。

さてウポポイでは料理の体験プログラムも申し込んでいて、時間になったので体験学習巻へ向かう。
なんでも団子を作るということで、おやつにちょうどいい。
というか昼ごはんがめっぽう遅かったので、昼飯のデザートみたいなものか。
体験学習巻の調理室には我々の他もう一組の家族がいて、それぞれ割り当てられたテーブルで料理を行う。
今回作ったものは、ちょっと名前を失念してしまったのが大変間抜けなのだけれども、デンプンと米粉で作った団子で、内地の白玉団子のようなものだが味付けが独特だ。
元々はウバユリの澱粉を使うらしいのだが、片栗粉でも同じようにできるらしい。
米粉は上新粉ということだ。
これに水を足してひとまとまりになる程度にこね、手で丸めて平たくつぶし、湯で茹でて出来上がり、これに2種類の味付けをして食べる。
団子は白玉団子と違って澱粉入りなので、独特の歯応えとツルツルした食感が心地よい。
どこかでこれと似たものを食べたな、と思ったら、台湾の芋圓(Yuyuan)に結構近い。
タピオカの団子みたいなもので、これはなかなかうまい。
味付けは胡桃の粉と昆布の2種類で、胡桃の方は普通にデザートで出てきてもなんの不思議もない味、ちょうど中国の湯圓(tanyuan)をピーナッツ粉で食べるのに似ている。
不思議なのは昆布の方で、昆布と何かの油で作ったゆるい佃煮のようなソースで食べるのだが、これはなかなかの新感覚、強いていうなら昆布茶のソースといったところだがちょっと違う、初めての味覚だが悪くない。

団子をこねて成形
浮き上がってくるまで茹でる
2種類のフレーバーでいただく

というわけで、いろんなアイヌ料理を体験してみたが、行者ニンニク蕎麦はともかくとして、基本的に調味料は塩くらいしか使わない。
また調理も非常に簡単だ。
考えてみればアイヌの生活は数千年間それほど変わらない狩猟採集の暮らしなので、基本的には自分で手に入れることができる食材でできている。
料理としてはかなり素朴なものだ。
自給自足の暮らしというのはこういうものなのかもしれないな。
わが家でもたまにこういうものを作ってみよう。
そうすると、素材の味というものを活かすということがもっとわかるに違いない。

ウポポイで買って帰ったもの

そんなわけで、家でもアイヌ料理をやってみようと思って、レシピ本をミュージアムショップで探してみた。
なるべく本気のものがいいと思って選んだ本は、装丁は普通だが内容がなかなか濃い。
タヌキ汁なんかは、「タヌキを捕らえたらまず皮を剥ぎ」なんていう調子なので、油断できないもんだ。
それで、後日家に帰ってきて最初の晩飯は鶏肉のオハウを作ってみた。
鶏胸肉を買ってきてこれをチタタプに、したいところだが文明の利器バイタミックスのミキサーでミンチにして団子にし、塩味の汁に昆布や根菜を入れて煮てみた。
塩加減が足りないと物足りないし、入れすぎるとただの塩水になってしまう。
素材から出る味を活かす塩加減に調整したところ、昆布の出汁や根菜の旨み、鶏肉の旨みが活きたうまいオハウになった。
こういう塩加減は改めて大事だなと思う。

家に帰って作った鶏団子のオハウ


つづく

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