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【旅行】ヴェトナム紀行 6 Mr.Overthere

サイゴンの大統領官邸のあたりを歩いていると、不意にOver there!(あっちだ)という声をかけられる。
なんだろうと思って聞いてみると、ココナッツを天秤棒で担いで歩く振り売りのおやじだ。
どうも大統領官邸はあっちだと教えてくれているようで、聞きもしないのに親切なことだ。
そう思って、Thank youと返すと、ナンチャラカンチャラ、オウイェー、オーケーオーケーとなんだか要領を得ないが人懐こくついてくる。
こちらが観光客だと思って、こういうことをやると喜ぶだろうなと思ってか、担いでいる天秤棒を私に押し付けて担いでみろという。
仕方がないので担いでみると、なかなか重たい。
そうしてココナッツを出してきて、なたで口を開けようとする。
まあ仕方ないかと思い、ただこれはぼったくり価格で来るだろうことは間違いないので、2個目をなたで開けようとするおやじに、1個でいい一個で!と念を押し、いくらだと聞くと、Seventyと来た。

このおやじがMr.Overthere
天秤棒を担がされるわたくし

さて、ベトナムのドンという通貨は桁がどえらく並ぶので、慣れないうちはその価値がさっぱりわからん。
ジンバブエなどインフレで半分経済が崩壊しているような国はともかく、まともに伸びている国で1回の食事代が数十万というのはなかなか目が覚める思いがする。
ともかく我々の価値でいくらくらいなのかは把握できなくてはならないので、我々のベトナムドン、と書くとニョクマム味のおかずが乗ったゴハン物みたいに思えるので爾後VNDと略すが、に対する価値の見当のつけ方はこうだ。
100,000VNDすなわち10万ドンの場合、下3桁は切り捨てる。
実際VNDの紙幣は最少額のものでも1000ドンで、つまりは100と頭で認識する。
そしてこれを半分にし、さらにやや割り引いた額、すなわち40くらいが人民元相当となるのである(実際はもう少し小さい数字となるはずだ)。
従って、めしを食って10万ドンの請求が来ても、なんだ40元かということになり、心の平静を保つことができるのである。
またベトナムでも、seventy-thousandsなどといちいちでかい数字を杓子定規に発音していては面倒なのか、最小通貨単位で切り上げて単に70ということが多いようだ。

70,000ドンもの高額のココナッツは人民元換算では30元ちょっとということで、なるほどこいつはぼったくりもエエカゲンにせえ、という値段だ。
ただ、たかが30元ともいえ、こらオンドレたれがそんな高いココナッツなぞ寄こせと言った、文句あるなら公安に突き出すぞ、などとギャーギャー戦っては後味悪い思いをするのは中国だけでたくさんだ。
そういうわけで、まあしょうがないかと思い、thank youといって金を払って別れたのだが、かわいい金額のうちは旅行の土産話のネタ代と思えばかわいいものだ(そういうわけでこの記事は70,000ドンのコストがかかっている)
あとでみきに実は30元くらいを払ったのだと教えると、目を三角にした奥様にギャーギャー怒られたのだが、おかげで大統領官邸周辺にのみ出没する彼らいんちきココナッツ売り、つまり表題のMr.Overthereの生態について理解を深めることができた。

どこかにエモノはおらんもんかと物色中
Mr.Overthereはサーチ・アンド・デストロイ
ただちにロックオンし攻撃をかける
Over there! Over there!
まったく相手にされず、天秤棒も無視され、あまつさえ私に激写される気の毒なMr.Overthere

その手口は、まずは外国人観光客と思しき人にOver there!と声をかけ、大統領官邸なり戦争証跡博物館なりを指差す。
そうして興味を持ったところになんだかよく分からない英語で親切に話しかけ、天秤棒を担がせようとする。
相手が一度でもこれを持ったが最後、これがevidenceとなって見積が提示されないココナッツの売買契約が成立してしまうというわけだ。
実際打率がどのくらいなのかはよくわからないが、その後よく観察していると、結構多くの外国人観光客が付きまとわれているようだ。
どういうわけかサイゴンでは縄張りは大統領官邸の周囲のみ、それ以外では見かけることができないのでなんらかのルールやオキテがあるにちがいない。
ペテンにどれだけ理解を示せるかは金額と状況次第だが、ある程度おおらかに構えたほうが少なくとも東南アジアでは楽しく旅行できるので、まあ粋にはからうというのが私の方針だ。
今日もサイゴンの大統領官邸の周りでは、何人かのMr.Overthereのおやじが大儀そうに天秤棒をかついでは、カモはどこだと歩き回っているに違いない。

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