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【木工屋】全てはここから始まった③ 〜掃除機用スタンド〜

予想以上に順調に走り出したヤミ商売ですが、「作れる」ということが達成できたら今度は市場のニーズということを考えるようになります。
販売していく過程で買い手の方からのフィードバックを頂いたり、ニーズに合わせて改良やバリエーション展開なども行っていくことになります。
今回は「ニーズに合わせて進化させる」というお話です。

当初販売チャンネルはヤフーのオークションのみでしたが、その後メルカリというものを知ることになります。
ヤフーのオークションは単純に販売ページにある説明文や写真を見て購入者が気に入ったら購入するというものでしたが、メルカリの場合購入する前に質問事項などについてコメント欄でやり取りをすることができます。
そうすると、既存の製品をこのように変えることはできないかといった相談を持ち掛けられることが出てきました。
市場のニーズを知るためにもこれは結構大事なことで、自分では満足しているはずの製品仕様ももっと良いものにできるきっかけがこうして生まれます。

市場の要望に合わせて仕様変更

メルカリではいろいろな要望を頂くことができまして、このことによっていくつかの仕様変更を行うことになりました。
まずはダイソンの掃除機も新型がリリースされることによって、この機種(当時ダイソンV8がリリースされた)で使えますかという相談です。
それまでは私が個人で使うために買ったDC45という機種に合わせてスタンドを設計していたのですが、新型がリリースされると適合機種も都度検証しなければなりません。
まずは電器店で現物を見に行くのですが、なるほど充電ブラケットが新機軸になってまったく異なる形状になっています。
これは現物を入手して適合を確認しなければならないと思い、ちょっと高い買い物ではありましたが現物を購入、高さや配線孔の位置を微調整します。
またダイソンV8はかなり豊富な交換ヘッドが付属していて、バラバラしているものをスッキリ収納させたいものです。
こういうものは取り出しやすく片付けやすい収納があることで活躍する機会は格段に上がり、掃除機自体の利便性が上がります。
それで、従来は小型モーターヘッドと布団ノズルの2点をフックに引っ掛け収納する構造だったものを、ヘッドのパイプ内径に合わせたピンを付けることで、多数のノズルがスタンドにスマートに収納できるよう修正しました。

オプションノズル収納部の形状を変更
これによって形状の異なる様々なノズルの収納に対応できるようになった
最終的にはノズル7個(うち2個は充電ブラケット取付)に対応できるようになった
画像の掃除機はその後さらにリリースされたダイソンV10

カラーバリエーションの追加

さらに、販売機会を増やすためにはカラーバリエーションを持つことが有効と考えましたので、これまでウッドナチュラル一色だったものをさらに2色追加した合計3色を定番カラーとしました。
このことで、1色だけでは販売ページが一つだけしかなかったところ、3倍の露出が得られます。
カラーバリエーションを増やすことはそれだけ在庫管理や在庫補充の手間が増えるということでもありますが、好きなカラーを選べるということはより市場のニーズにかなったことだと考えました。
表面仕上げはオイルフィニッシュというものを3ロット目から行っておりまして、これは木材の表面に乾質の油を塗ることで木材保護と美観を得るのが目的のものですが、ワトコオイルのメーカーは全8色のオイルを販売しており、このうちこげ茶色のエボニーと赤茶色のチェリーが最終的に定番カラーとして定着します。
これは9年後の現在も工房黒坂製作所の定番カラーとして使用しているものです。

3色のカラーバリエーション

Paint it Black!

さらにお客さんからの要望では「黒くできないか」ということを要望されることがしばしばありました。
それも真っ黒にしてほしいということです。
オイルフィニッシュは木材を染める着色方法で、表面をソリッドな単一の色にすることはできません。
そういえばローリングストーンズの曲で「黒く塗れ!」というものがあったようですが、簡単なようでこれがなかなか難しいものです。
「要はペンキで黒く塗ればいいだけじゃないか」と思われるかもしれませんが、製品として販売を前提にしている以上、考えなければならないハードルは少なくないのです。
刷毛を使った手塗りではどうしてもムラがでてしまい、いかにも素人が作ったという仕上がりになってしまいます。
実際素人が作っているものではありますが、販売する以上プロフェッショナルとしての自覚を持つべきで、少なくともお金を払ってくれる買い手はそう期待しているので素人という甘えは許されません。
そこで、長年やってきたプラモデルの知識を活かす機会がやって来ました。

模型の塗装には2種類あって、筆塗りとエアブラシによる吹き付け塗装です。
筆塗りはどうしてもムラが出るもので、ムラには濃淡のムラと光沢のムラがありますが、ともに塗った被膜の厚みのばらつきによって生じるものです。
黒は隠ぺい力が強いので下地が透けることによる濃淡のムラはほぼ無視できますが、塗料が厚く乗ったところと薄いところで出る光沢のムラはいかんともできません。
そうした場合、トップコートとしてつや消しクリアーを吹くことでムラを消して均一なマットな表面に仕上げるということをやるのですが、初めからつや消しの塗料を使えばムラも抑えられるのではないかと考えました。
そこで水性アクリルの黒塗料を買ってきて塗ってみたところ、なんとかお金をもらっても恥ずかしくないような仕上がりにできたので、これで対応することにしました。
もっともオイルフィニッシュと違って塗装仕上げは手間もかかり、また片面を塗ったらそれが乾くまで反対側に手を付けられないということで作業性も悪く、また所詮は塗装なのでなにかに引っ掛けたら被膜が剥がれてハゲチョロになるのは不可避であることから、結局は塗装は初期のカスタムを除いてはやらないことになります。
プロの塗装では被膜が圧倒的に強く速乾性の二液混合タイプのウレタン塗料をスプレーガンで吹くということを知るのはもっとずっと後のことです。

手前右が黒マット塗装仕上げのカスタム品
スタンド自体は旧型のものでオプションノズル収納部が異なる

ロボットを搭載

また、ロボット掃除機も一緒に収納できないかという声も頂きました。
この頃(2016年)にはロボット掃除機というものも市場によく出回るようになり、iRobot社のルンバの他にもさまざまなメーカーが類似の製品をリリースするようになりました。
ロボット掃除機は普段はドック(充電台)で休んでいて、タイマーで設定された時間になると動き出し、部屋の中をあちこちうろついてはチリやゴミを取ってくれるというものです。
なので普段じっとしている居所というものが必要になるのですが、これを掃除機スタンドのベースに格納できないかと考えました。
掃除機を床上15センチくらいの高さに吊っておけばその下にスペースができるので、ここに充電台をドックすることで余分なスペースを取ることなくスティック掃除機とロボット掃除機を運用できないかというアイディアです。

ロボット掃除機格納型
足の左右にある穴は充電ドック用の配線孔

充電台はズレないように両面テープで台座に固定、ドックの凹凸を逃がすように台座に凹みを設けるまでは簡単なのですが、肝心なのはロボット掃除機がちゃんとドックに帰還できるかです。
ドックには頂部に赤外線発光器があってこれが灯台のようにガイダンスを発光させることによって、おうちがどこかをロボット掃除機が知ることができるのですが、台座によってこれが遮られないかが懸念点です。
また台座はコの字型になって左右に足が踏ん張っている構造ですが、ロボット掃除機が帰還する際これが邪魔にならないかも確認しなければなりません。
そんなわけでロボット掃除機を借りてきて帰還試験を何度も実施、結果台座の幅を広く取ることで問題なく使えることが分かりました。
ロボット掃除機収納型の誕生です。

掃除機ロボット収納型
掃除に関するものが省スペースで格納できることが特徴

そのようにして、掃除機スタンドは2モデル3カラーバリエーションの計6アイテムが定番製品として揃いました。
スタンド自体に交換ノズルが5個収納できることは他にはないスペックで、またロボット掃除機を格納できる機能は一般メーカーが事業として販売している掃除機スタンドを含めても市場には皆無でした。
市場のニーズに応えることは面倒なことではありますが、これにきちんと対応できることで製品の完成度を上げることができるだけでなく、競合製品に対して大きく差をつける武器になるということを実感しました。

こうしてヤフーオークションとメルカリでの販売実績はどんどん上がり、ついには月商売り上げ20万円を突破、ああこれで俺も確定申告をせねばならないなと大喜びしたことを覚えています。
初めての確定申告でとんでもない苦労をすることになるのはまだ半年先の話です。

つづく

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