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【旅行】仙台苫小牧ドンブラコ −8− カメラが死にかける

カメラを電器製品と捉えるのか撮影用機材と捉えるのかはメーカーやユーザーによって様々だろうが、水に弱いという点では共通している。
ある程度の防滴性能は持っているが、せいぜい濡れた手で扱っても大丈夫程度に考えておくべきで、IP67級くらいの防水性能でもない限り、基本的には水には弱いと思っておかなければならない。
ところが、ちょいちょいこれを忘れてしまうのが私の残念なところで、今回もやらかしてしまった。

雨の荒浜震災遺構

ふたつ前の話で書いた荒浜海岸を散策していたときは軽い小雨が降っていたのだけれども、初めはたまに雨粒が落ちてくるのが感じられる程度だったので、特に気にはしていなかった。
やがて、ポツリポツリと降ってくるようになるのだけれども、なにこんなものは帝国陸軍では霧というのだ、頑丈なニコンのカメラならこんな雨くらいどおってことはあるまいとタカをくくり、そのまま撮影を続けていた。
どうも機材を全然大事にしないのが私の悪い癖で、これを書くと多くのカメラを愛好する人から袋叩きに遭うような気がするのだが、世の中のカメラをぶら下げて歩いている人にはふた通りいると思っている。
まずはカメラという道具で映像表現をしたいと考えている私のような人で、もう一方がカメラという機械そのものを愛好する人だ。
カメラを宝飾品のように扱い、キズはおろかチリひとつない状態で綺麗に扱って、ものすごくクッションの効いたカメラバッグに入れて運搬している人がいるが、ああいうスタンスでは咄嗟にカメラを構えて撮影機会を逃さないといった使い方には対応しにくい。
私はカメラをインパクトドライバーやハンマーと同じ「道具」だと思っていて、道具なら肝心な時に写真が撮れてなんぼだ。
なので普段から、濡らす、ぶつける、擦るみたいことは当たり前で、傷がつくなんてなことは気にしたこともない。
言うなれば兵隊が持っている小銃のようなものだ。

ところがこの日は天候が一気に悪化して、やがて帝国陸軍でも「こりゃ雨だな」というような様相になってくる。
こうなるとさすがに心配になるもので、なるべく直接雨風が当たらないようにカメラを庇うのだが、単に雨が当たらなければいいというものではない。
車に戻ってカメラをタオルでよく拭き、バッテリーとSDカードを抜いて自然乾燥を試みる。
しばらくして様子を見るために再びバッテリーを入れるとエラー表示が出て動かなくなった。
外見ではそこまでズブ濡れではなかったのだが、一眼レフカメラは頑丈そうに見えて結構開口部があるもので、ボタン類はそれなりに防滴になっているのだろうがコマンドダイヤルのように回転する部分がどうにも怪しい。
こういうところから水が少しずつ侵入して、本体を綺麗に拭った後でもジワジワと内部に染み込んでいくことで不具合が出たのではなかろうか。

さてカメラに限らず弱電電化製品が水で故障した場合の対応として、バッテリーを抜いてよく自然乾燥させるというものがある。
水濡れの程度にもよるが、意外とこれで直ることもあるので、これまで働いてもらっていたニコンD300はタオルで包んでしばらくお休みさせてあげることにする。
そうなると、D300が復活するかどうかに関わらず代わりのカメラが急ぎ必要だ。
そこで、仙台市内でカメラを買いに行くことにする。

仙台市駅前のヨドバシカメラ
手前が別館で奥が本館

10年前に仙台を訪れていた時に駅前のヨドバシカメラでノートパソコンを買ったことがあるので、そこに行けばなんとかなるだろう。
仙台市内に戻って義父母と別れ、ここからは夫婦二人での行動となる。
ヨドバシカメラに行ってみると、ものすごく大きな店舗で田舎者には夢の国のように見える。
買い物をするときに多くのものから選ぶということであればネット通販でも同じことができるのだが、実際に現物を手に取ってみることができるというのは実店舗の強みだ。
実はこの後仙台フェリーターミナルに移動して人と会う予定が入っていて、またその前にレンタカーを返さなければならないなど、結構時間が推していたのだが、こういう店では時間が止まらんものかとつくづく思う。
私一人なら半日はいろんなところで地蔵になっていることだろう。
ともかくカメラを手に入れることが喫緊の用事なので、広い店内で「カメラ買取カウンター」というのを見かけたので、中古の販売はどこでやっているのか店員さんに聞くと、「うちでは買取だけで販売はやってないんですよ」という返事だ。
なんということだ、これだけでっかい店舗にも関わらず中古カメラのコーナーがないなんてことがあるのか、このところ実店舗で買い物をすることがめっきり減ったが、最近はこうなのかと驚く。

モタモタしている暇はないのですぐにグーグルさんマップで「カメラ 中古」と検索すると、すぐ近くにカメラのキタムラ中古買取センターというのがあることがわかった。
うーむここも買取だけなのか?と思って電話してみる。

「恐れ入ります、そちらで販売はされてますか?」
「販売?なにの販売でしょうか?」
「ええ中古カメラなんですが、買取センターと書いてるのですが販売もしてないかと思いまして」
「(なにを当たり前のことをと言わんばかりに)ああやってますよ」

そうか、買取だけで販売をやらないということを書いていないヨドバシカメラのような場合もあれば、逆に「買取センター」と書いてあるのに販売もしているキタムラのようなケースもあるのか、世の中とにかくフタを開けてみるまでわからんものだ。
グーグルさんマップで見るとここから徒歩3分とあり経路も表示されているが、何せここは到着した日にひどい目に遭った仙台駅前、ナビゲーションをまに受けていたらまたどんなえらい目に遭わされるかわからない。
それで一旦外に出て建物の2階相当になる空中回廊から周囲を観察してみる。
普通の店舗ではなく買取センターなので、2号館まであるヨドバシカメラほど目立つ建物ではなかろうが、それらしいものが見当たらない。
地図の方向を確認した上でよくみると、100メートルほど先にあるビルとビルの間に挟まっている細長いペンシルビルに看板が出ていた。
ヨシと思い、店があると思しきあたりを歩いているが、居酒屋の看板ばかりでキタムラがどこにあるのか全然わからない。
ここかなと検討をつけたビルに小さな看板がかかっていて、ここの4階ということだ。
都会は前後左右だけでなく上下にも注意を払わなければならんとは大変なもんだ。
してみれば都会の人は三次元で私のような田舎者は二次の人間ということか。
なんか違うがまあそういうことだ。

ストリートビューよりカメラのキタムラ中古買取センター

4階までエレベータで上がると、個人でやっている昔のカメラ屋のような店舗があった。
客は我々だけで、店内はひっそりと静まり返っている。
ガラスのショーケースには中古のカメラがぎっしり陳列されていて、手前のケースにあるのは昔懐かしい銀塩フィルム時代のものだ。
果たして私が必要としているものはあるんだろうか。

さて、脱線するが、ここで私が使っているカメラというか、どんな機材を使っているかと少しご紹介したい。
私は20代の頃からニコンを使ってきて、ニコンFEに始まりF2、F501と変遷してきて、デジタルになってからはD100、ついで直近で使ってきたD300に至る。
ニコンはえらいもので世間のカメラがオートフォーカス化したりデジタル化するようなことがあってもレンズのマウントはニコンF以来のFマウントのまま変えずに最近まで至ってきた。
そういうわけでボディが変わってもレンズはそのまま使うことができる。
それで、新しく買うにしてもFマウントのニコンの一眼一択となる。

ところで私はこういうものは中古しか使わないことにしている。
しかも出て10年は経ったような気合の入った型落ち品だ。
なぜかというと私が貧乏性だからだが、発売から10年経った中古品というのが総合的に一番使いやすいと考えているからだ。
まず中古で出回る数が豊富で、値段もかなり安いので、もし壊れてもいくらでも替えが効く。
また骨董品というほど古いわけでもないので経年劣化もそれほど気にせずにすむ。
もしこれが30年もののニコンF3とかになってくるとモルトプレーンが劣化していたり露出系の動作が怪しかったりもするのだろうが、そういう心配は不要だ。
一応は発売された時点ではアマチュア向けハイエンド機種だったものを選ぶので性能も特に残念なこともなく、贅沢さえ言わなければ「キレイな写真を撮る」という用途に十分応えてくれる。
そんなものが発売時の定価の1/8から1/15くらいで買えるので、言うなればタダみたいなものだ。

お前は遅れているな、そんなことで今の新しいことについて行けるのか?今はもっと便利な機能もあるし今の流行はミラーレスだぞ。
という人もいるかもしれないが、私にはそんなことはどうでもよろしい。
新しいというものは知らなければ存在しないも同然で、新しいものを知らなければ今使っているものが私に取っては最新だ。
また世の中には効用低減の法則というものがあって、新しいものが新しい価値を持っているのはごく短い瞬間だけだ。
と書くとメーカーの人にえらい勢いで叱られそうなのだが、例えば定価30万円の最新カメラが最新であることを誇れるのは、つまり30万円の価値を持っているのはせいぜい半年で、じきに次のモデルがリリースされたり他社から性能で上回るものが出たりしてあっという間に陳腐化が始まる。
新しい技術なんてものは今もこの瞬間瞬間で絶えず研究されているもので、最新であることを追い続けたところであまり意味がない。
それよりは一昔前のものを徹底的に長く使って、使いこなせるようになる方がよほど意義があることだと考えている。
そういうわけで私は2008年にリリースされた16年前のニコンD300を使い続けてきた。

松本零士「戦場まんがシリーズ」より抜粋

とはいえD300もぼちぼち色々と物足りないところが出てきた。
性能的にもそうだが、道具として使う上で気になることがいくつかある。
まずはシャッター音が大きいことで、いかにも真面目な一眼レフですよというシャッター音はなかなか頼もしい感じもするのだが、私が撮影している音楽コンサートなどのシーンではこれは辛い。
ファンクバンドや吹奏楽など音量が大きい派手なジャンルだと気になることはないのだが、室内楽だとどうしても気になってしまう。
なのでなるべくシャッターを切らず無駄弾丸を撃たない努力をしなければならないし、パーカッションがある場合はその音のタイミングに合わせてシャッターを切り、なるべく観客の方に迷惑にならないような撮り方をしているのだが、やはりシャッター音は小さいに越したことはない。
またD300は構造上グリップのラバーが剥がれやすく、またゴム素材がちょっといまいちなのが気になってきたので、ここもできれば進化したものを選びたいところだ。
思えば私がデジタル一眼を使い始めたのが31歳の頃でD100を10年使い、41歳の時にD300を使うようになった。
私は今51歳になったので、ぼちぼちカメラも進化させていい時期のようだ。

店内には果たしてD300も置いてあり、15000円という値段がついていたが、それより新しいものというと、D7100というものがあった。
調べてみると2013年の機種ということで、一気に時代が5年進むことになる。
値段は42000円、安い買い物ではないが仕事上カメラも頻繁に使うので、ここでカメラを進化させるのも悪くない。
ということで店員さんに適当なレンズを借りてボディに取り付け、動作確認をしてみる。
なるほど新しい(といっても今から11年前のモデルだが)だけあって合焦もスムーズで迷いがなく、使いやすそうだ。
液晶パネルも特に焼けが入ったようなことはなく、商品カードに記載されていたファインダー内に小さなゴミありというのも実際の写真に写り込むものではないので問題ない。
シャッター音もD300のようにガシャーンと尾を引くようなものではなく、かなり小さくて気に入った。
何より実用感度がISO6400まで使えるというのがありがたく、普段ライブ撮影でやっている薄暗い室内で500ミリ望遠を1/60くらいのシャッター速度で使うという無茶苦茶な条件では手ブレを相当抑え込めそうだ。
よしこれから10年こいつを使おうと決め、代金を支払った。

仙台で購入した中古のD7100

その後はこのD7100で写真を撮ることになるのだが、これはいい買い物だ。
写真を撮った後は大抵選別と現像という仕事が待っているのだが、露出の特性が違うのか、後の現像処理が大変楽になり、トリミングや傾きの修正程度で十分いい写真が撮れるのがありがたい。
またサイズもD300より若干コンパクトになっているのもありがたく、普段カメラバッグを持ち歩かず適当なカバンに入れて持ち運んでいる私には大きなメリットだ。
D300の底板が金属製だったのに対してこいつはプラスチック製で剛性はやや落ちるかもしれないが、普段はカメラストック(これが何であるか後述する)を取り付けて使っているので底板が直接何かに当たることはなく、むしろ重量が軽くなったことが大変ありがたい。
なお、水濡れで動作不良になってしまったD300も数日後によく乾燥しているか確認の上バッテリーを入れてテストしたところ、何事もなかったかのように復活してくれていた。
これでボディ2台を使えるようになるので、これは望遠専用として使っていこうと思う。

左が今までのD300で右がD7100
普段はカメラストックを取り付けてこのような状態で使っている

ところでカメラストックというものはカメラをやっている人にとってもあまり馴染みがないかもしれない。
これはカメラ本体に固定して使う肩付のことで、カメラを安定させるのが目的だ。
一般に手持ちでブレないシャッター速度は積んでいる「1/レンズの焦点距離」秒とされ、これは銀塩時代に言われてきたことなのでAPS判のカメラだと分母にさらに×1.4位補正してやらなければならない。
すなわち50ミリレンズだと1/60より遅いシャッターを切ると手ブレを起こしやすくなるというものだ。
そのためカメラがブレないよう撮影時はしっかりとホールドしてやる必要があるのだけれども、それでも暗い室内や夕景などでは難しいことが多い。
特に私が普段やっているようなコンサートホールで500ミリ望遠レンズを積んで1/60で撮るなんてことは、よほどのことがないと手持ちではブレて当然のシーンだ。
ところがこのカメラストックを使ってライフルのようにしっかり肩付して構えることで、従来の手持ちでは得られなかった安定が実現できる。

カメラストック各種

ここからは宣伝のようになってしまうので大変恐縮なのだけれど、これは実は私が開発して製作し販売している製品だ。
私は工房黒坂製作所という木工屋を営んでいて、いろんなものを企画製造販売しているのだけれど、このカメラストックは私自身なくてはならないものとして気に入っている。
機能としては一脚に近いのだが、一脚と違って取り回しがやりやすく、機動性もあって、三脚を立てられないような現場では大変威力を発揮するものだ。
最初は上の写真の一番下にある単純なストックのみの「カメラストックベーシック」のみだったのだが、ライフル射撃とほぼ同じ姿勢が取れるよう大型化し、二脚を付属させてより安定させられる「カメラストックアドバンス」を開発、これで相当ブレに強いものになった。
従来では手持ちでは撮影がそもそも無理だったものが撮れるのが一番の強みだ。
現在は超望遠レンズの三脚座に取り付けて使うためにさらに大型化した「カメラストック超望遠」の開発が完了し、もっか発売するための準備を行なっている。
世に広がってくれればありがたいものだ。

二脚を展開することで圧倒的な安定を誇る
奥にあるものはカメラストック超望遠を取り付けたD300
こうして気兼ねなく床に直置きできるのも道具としては大きなメリットになる

旅行の話に戻ろう。
仙台駅前でカメラを補充した我々はその後レンタカーを返し、仙台駅から仙石線に乗って多賀城駅を目指す。
何ももう一度東北歴史博物館を訪れるのではなく、ここから仙台フェリーターミナルに向かって苫小牧行きの船に乗るためだ。
多賀城駅には10年前に訪問した時にお世話になった友人が迎えにきてくれており、ここから車両でフェリーターミナルまで送ってもらう。
ここでまずチェックインを済ませ、後は乗船時間まで待合室で友人と話をし、いよいよ苫小牧行きのフェリーに乗り込むのである。


つづく

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