見出し画像

【木工屋】全てはここから始まった 12 〜掃除機用スタンド〜 

起業して以来さまざまな幸運やチート的に有利な条件によって売り上げを伸ばしていた掃除機スタンドも、その後山あり谷ありがやってきます。
うまい話というのはせいぜい一時的なもので、決して長期的に当てにしてはいけないということを思い知らされます。
また、人為的なものであれ天変地異であれ、ワザワイは何の前触れもなく降って湧くということも忘れてはならないでしょう。

はこboonが使えなくなる

開業当初どころかヤミ商売の時代からお世話になっていたはこboonという配達サービスは、ファミリーマートと伊藤忠とヤマト運輸の三社が共同して行っている貨物宅配役務で、とにかく大型のものほど格安になるということで定評がありました。
Amazonでの販売でprime扱いとなると送料無料という条件が必須になるため、輸送コストをどれだけ安くできるかが勝負となります。
はこboonは実際の取次業務をファミリーマートが行い、集荷から配達までをヤマト運輸が引き受けるというもので、では伊藤忠は一体何をするのだと疑問は残るものの、値段の安さは凄まじいものでした。
160サイズの荷物となると、ヤマト運輸の正規運賃だと1836円〜であるところ、はこboonならなんと半額以下の803円、その少ない利潤を三社で取り合うというのですから、実質的にほぼ仕事の大半を請け負うヤマト運輸はやればやるほど赤字だったのではないでしょうか。
利用する私にとってはありがたいものの、どうもヤマト運輸の血肉を伊藤忠が啜った残りカスを不当に得ている気がして、なんだか落ち着かなかったものです。
2017年になると全国の宅配業者の深刻な労働問題や配達不在等の問題に目が向けられるようになり、世間の関心が一気に深まりました。

大きさよりも重さで値段が決まるはこboon

新しく発送業者を探す

そんな折の2017年7月10日に、はこboonが廃止になります。
それで、配送業社をきちんと決めなければならないので見積もりを取ろうと思い、事前に佐川急便の営業所を訪れたところ、なかなか目が覚める応対を受けました。
営業担当の社員だと思うのですが、疲れ切った顔をして「何のようだ何しにきた」と言わんばかりの目で迎えてくれます。
それで、実はうちは毎月これくらいの荷物を平均XXX件ほど出しているのだけれども、今まで使っていたサービスが廃止になったので、御社で引き受けてもらえるならいくらでお願いできるかと聞いたところ、ああうちそんなのもう結構です、と追い返されました。
何でもドライバーもバックヤードもキャパを完全に超えていて、これ以上仕事を増やされたら死んでしまうというようなことでした。
うーむ有望な新規顧客に向かってウソでも営業の人間にこんなセリフを吐かせるなんざ生半可なブラック企業ではこうはいかん、さすがは人々を不幸にする佐川急便だけのことはあると大変感心しました。

そこで、今度はヤマト運輸を訪れます。
実ははこboonの頃からファミリーマートの店舗でヤマトさんの集荷に何度も鉢合わせしていてドライバーさんと顔見知りだったこともあり、もともとヤマトさんでお願いしようと思っておりましたので、世の中うまくできています。
営業所で挨拶をすると、ああいつもスタンドを山のように出していただいている黒坂さんですかと実に話が早く、早速支店長さんが出てきます。
過去の実績があるので、定価より少し安い見積もりをいただき、今後はこちらでお世話になることになりました。
粗利は1台あたり1000円ほど減ってしまうのですが、不当に何かを簒奪してまで儲けるのは感心できることではありません。
サラリーマン時代なら安ければそれを利用すればいいじゃないかと考えたところですが、いざ商売人になってみると一時が万事コスト計算をする習慣が身に染みてしまっていることから、こんな金額ではまともに利益は出んぞ、なんか特別な理由か弱みでもあるのかと考えてしまいます。
働いた分がちゃんと利潤として帰ってこないような仕事は人を幸せにしませんので、少なくとも私がやる商売は、不当に誰かが損をかぶるようなことはやるまいと決めました。

同業他社から妨害が入る

そうして1年ほどヤマト運輸で発送をお願いしていたのですが、起業して3年目の2018年6月に再びワザワイがやってきました。
今度は業界が抱える矛盾とかいう構造的な問題ではなく、誰かが明確にピンポイントで私を攻撃してきたものでした。
ヤマト運輸の営業所からまずは電話がかかってきたのですが、どうも声の調子がぎこちない様子です。
普段荷物を持ち込む時には冗談を言い合ったりしているような関係なので、えらくかしこまって何事かと思って聞いたところ、このようなことでした。

いつも送っている荷物は160サイズを超えているのになぜヤマト運輸は宅急便でサイズ超過の荷物を引き受けているのかというクレームを受けた。

実のところ、組み立てた上で梱包している私の製品は縦横高さの総和が160cmから数センチ超過していて、ヤマト運輸のh当時の料金表では160サイズより上のサイズ区分が存在しなかったことと、160サイズ扱いといっても私のスタンドの場合長くて細く、大半の部分は幅90ミリ×厚み15ミリ程度のものなので実質的な占有体積としては一般的な160サイズの荷物よりはるかに小さいことから、お目こぼし的に引き受けて頂いていたのでした。
実際これで誰が困るかといったら誰もいないだろう、というのは大きな間違いだったようです。
電話ではよく分からないので詳しい話を聞きに営業所まで向かいます。

右も左も同じ160サイズではあるのだが

支店長さんが頭を抱えてやってきて、実はこういうクレームが直接会社の上の方に入ってきて、会社としてもどうしようもないんですよ、ということです。
もし宅急便で今後引き受けができないということであれば、代わりの手段としてどんなことができますかと聞くと、大型貨物扱いのヤマト便というのが利用できるとのこと、ただし日数はかかる上に配達日時指定ができず、また送料も500円は高くつくということです。
しかも、基本料金が高いということは遠距離になる程割高になる幅もさらに広くなるということで、送料定額料金、一般にいう送料無料でやっているAmazonでは大変不利な条件になります。
少なくとも、この営業所でいくらごねたところで通るような話ではなさそうで、ではわかりました、当面はヤマト便でお願いしますということにします。
ヤマト便の送料は一番近い地域でも2376円、はこboonでやっていた頃の803円とはまるで条件が違うので、当面はイバラの道になりますが、仕方がないものは仕方がありません。
ゴネたところで結果が変わらないのであればさっさと受け入れてしまったほうがお互いのためです。

近いうちに梱包形態を根本的に変えて完全に160サイズに収まるものにしますので、その間はこれでよろしくお願いしますということで営業所を後にしかけたところで、ふとあることを思い出し、そういえばそのクレームって出所はXX県あたりなんじゃないですか?と支店長さんにカマをかけたら、いやあそれは言えないんですよと言いつつ表情はハイそうですと言っていました。
そうか、シアターハウスさんにごちゃごちゃ仕掛けてきた同業他社の意地汚いのがうちにも前足を伸ばしてきたのかな、うむこれで俺も立派に競争相手と認められたわけだ名誉なことだうはははと笑いながら営業所を後にしました。

粗利を相当削られることになる上に配達指定ができないヤマト便を利用することはAmazonのprime資格を一時的に放棄しなければならないことになるので、販売上かなりの痛手です。
一般ユーザーで数センチのサイズオーバーをここまで強烈にクレームにする理由なぞあるわけもなく、同業者からの妨害であることは明白ですが、ここで単価を上げたり販売を控えてしまってはそれこそ思う壺というやつです。
クラウゼヴィッツ的に考えれば、闘争には勝利条件が個別にあり、その勝利条件を相手に満たさせない限りこちらは少なくとも敗北はしないのだ、粗利は一時的に落ちるが同じ単価で知らん顔して販売し続けることが、おそらくは相手にとって一番悔しい結果につながるだろうと考えました。

それで、次回の補充生産を行う前に徹底的に設計の見直しを行い、組み立て式にするための変更を行うことになります。
無論それは従来通り値段の安い宅急便扱いでの出荷ができるようにするためですが、このことは他に幾つかの予想外の収穫を後にもたらしてくれることになります。

つづく

【前の話】

【次の話】

【工房黒坂製作所のSNSや販売ページ等のリンク集です】

いいなと思ったら応援しよう!