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半導体覇権をめぐる戦い:日本反撃のための二つのカード

(この記事を読めば、いま世界で起こっている半導体をめぐる戦いの大まかな流れが分かります)

いま世界では、「半導体」をめぐる熾烈な戦いが行われている。

半導体がなければ、パソコンやスマホはおろか、冷蔵庫や掃除機、自動車だって作れない。今や我々の生活は、半導体で成り立っている

かつて日本は半導体技術で世界を席巻していたが、今や3週遅れの「老いた大国」となっている。けれども、それを覆そうとする動きがある。今回は、日本復活のための「二枚のカード」についてまとめてみる。

なお、日本の半導体技術がなぜ凋落したのかについては、過去記事にまとめているので併せてごらんいただきたい。

小さいことはいいことだ!の半導体の世界

まず、事前に抑えておくべき知識を簡単にまとめてみる。

①小さいことはいいことだ

半導体は「小型化」をめぐる戦いである。小さければ小さいほど、複雑な計算回路をより多く書き込めるようになるので、高性能化する。

スマホが高性能化しているのは、シンプルに半導体がどんどん小型化しているからだ。

現在世界最先端は、線幅4nm(ナノメートル)で、この線幅の半導体を作れるほぼ唯一の会社こそ、台湾のTSMCである。韓国のサムスンと、米国のインテルがそれに続いている。

②日本の技術はトップグループの3週遅れ

ちなみに、日本国内で製造できる線幅はせいぜい40nm(ナノメートル)で、はっきりいって勝負にならない。日本の半導体技術でスマホは作れない。

(一方で、半導体の「製造装置」では、未だに日本企業の圧倒的優位は揺るがない)

③熊本に建造されるTSMC工場はリハビリ施設?

こんど、台湾TSMCが熊本に新工場を作ることが決まっているが、ここで製造されるのは線幅22nm(ナノメーター)程度の半導体である。すなわち、数世代前のもの。

老いた大国である日本にとってのリハビリ施設のようなもので、これをもっていきなりトップアスリートとは戦えないという現状がある。ただし、汎用品用途ではこの線幅で十分とされている点も併記しておく。

④先端半導体工場の建設にはとにかく金がかかる

先端半導体工場の建設にはとにかく金がかかる。一兆円規模と言われる。従って、一企業がゼロからそういった工場を作ってペイできる可能性は低く、わりに合わないことが多い。一方で、それだけの投資がなされる熊本に見込まれる経済効果も、その分すさまじい。

以上が半導体業界における基本知識である。

しかし、かつての技術大国日本からみれば「屈辱的」ともいえるこの現状を覆すために、二つの動きがある。

日米+日本企業連合(トヨタ、ソニー、NECetc)

第一の動きは、日米が連携して線幅2nm(ナノメートル)の半導体量産を目指すといった報道からはじまった。これに関しては、先に挙げた記事の通りだが、ここにRapidus(ラピダス)という日本企業連合が加わることとなった。トヨタ、ソニー、NECなどの企業が名を連ねる。

Rapidusの目標は、TSMC、サムスン、インテルという現在世界の3社しかない最先端半導体を受注生産できるようになることである。

これは大きく出たものだと思う。非常に興味深い。

日本は老いたかつての金メダル選手である。「過去の栄光を再び」と思っても、現実には老体を鞭打つのはなかなか酷というもの。

いわば、TSMCの熊本工場でリハビリしつつ、日米連携で世界三位のインテルと組んで再び金メダルを目指そうという壮大な目標である。そこに、トヨタやソニーといった、「他分野でのトップアスリート」らを連れてきて、徒党を組ませようという野心的なプロジェクトである。(特に一度潰れかけた状態から大復活したソニーの知恵には期待したい)

半導体工場の新設に向けて最も高いハードルになるのが、上で述べた「4.先端半導体工場の建設にはすさまじく金がかかる」という問題であるのだが、これついては、国が資金援助するのでクリアできる。インテルやトヨタをはじめとした大企業が参入に意欲を見せる理由の半分は、「その凄まじく金がかかる投資を日本がやってくれる(=税金が投入される)」からである。

まさに国民の力(=税金)を含む、オールジャパンでの戦いとなる。

このプロジェクトには大いに期待したいけれど、経済産業省主導というのが心配材料だ・・・意気込みは買いたいが、官僚主導でこういったプロジェクトが大成功を収めたケースは存在するのだろうか?先日も経産省主導のクールジャパン機構が問題となったばかりである。これだけ精鋭集めて失敗したら・・・・悲惨である。

「ミニマルファブ」で最先端技術不要な市場を丸ごとかっさらう

そして、第二の動きが「ミニマルファブ」である。ミニマルファブについては一度記事をまとめている。

ファブとは半導体工場のこと。つまり、ミニマルファブとは、ちっこい半導体工場ということだ。これの何が凄いかついて、復習しておく。

①手持ちの半導体工場を持てる


ミニマルファブとは、極限まで小型化した半導体工場で、その大きさはせいぜい自動販売機程度。つまり、自動販売機程度の大きさの「お手軽半導体工場」を売ります、ということである。

通常、半導体工場新設には一兆円規模の投資が必要であるので、各企業が自前の半導体工場を持つなど夢のまた夢なわけであるが、ミニマルファブならそれがかなう。

つまり、半導体を作るのではなく、半導体工場を売るという、半導体業界を激震させる新たなソリューションなのである。

②必要なときに必要なだけ作れる


TSMCを持ってしても、半導体の納期は長いといわれる。発注しても手元に半導体がくるのは8ヶ月後とかいうのがザラらしい。

ところが、ミニマルファブを使うと、自前工場なわけなので、必要なときに必要な分だけ作れる、すなわち発注企業からみると在庫リスクがなくなるというメリットがある。

これは技術面というよりも、経営上重要なことである。

③裾野のロートル市場をまるごとかっさらう

あと、「ミニマルファブが目指すのは世界最先端ではない」という、日本の目標とは一見矛盾する事実を理解しておく必要がある。

ミニマルファブが取り扱えるのは線幅0.5マイクロメートル(=500ナノメートル)

えっ!?

!?

現在、世界は2nm, 3nmの線幅の半導体で凌ぎを削っているのに、500nm??ナニソレ??

・・・となると思うが、このサイズにこそ、ミニマルファブの秘密がある。

2nm, 3nm, 4nmといった超微細半導体の使い道は高速演算である。すなわち、パソコンとかスマホ。一方で、電化製品や汎用品に使用される半導体には、そこまでの線幅はむしろ必要ないのである。

ここが重要。

「小さいことはいいことだ」の半導体業界は、線幅が小さいほど高性能になるが、実は世の中の多くの半導体はそこまでの高性能は必要ない。500nmというサイズ感でも、なんと半導体市場の半分近い需要があるのである

ここはまさに「忘れ去られたロートル市場」である。微細化技術が花形である一方、そこまでの精度がいらない多くの半導体は、未だに何十年も前の機械を動かしながら作られている。ここの市場をミニマルファブは丸ごとかっさらう、ということである。

まさに、日米+日本企業連合で世界トップを取りに行くとともに、そこまでのハイレベルを要求されない市場に「最新の自前工場はいかがですか?」というソリューションを提案することで、半導体業界の「上」と「下」に総攻撃をかけるという遠大な野望を、日本は秘めているのである。

さらなるミニマルファブの進化:チップレット

なお、こういったミニマルファブに関する神がかり的な解説は、ご存知の方も多いであろう「ものづくり太郎さん」の動画にアップされているが、最近このミニマルファブの進化の解説動画がアップされた。

それが「チップレット」である。

前半部分は上で述べたような「ミニマルファブ」の復習、そして後半部分が「チップレット」の解説となっている。正直、後半はかなり難しいのだが、前半だけでもぜひ多くの日本国民のみなさんに見ていただきたいと思う素晴らしき動画である。国会議員とかは必見だろう。

とはいえ、「チップレット!?」

正直なんのこっちゃである。

私なりに、「半導体を食材」、「パッケージ化を弁当箱」に例えると少しわかりやすかったので、それでまとめてみる。

半導体を設計図通りに精密に作る、ということにTSMCをはじめとする企業は凌ぎを削っているが、半導体とは一つの食材である。食材を弁当箱に詰めなければ商品にならないように、半導体もパッケージ化しなければ商品にならない。前者を「前工程」、後者を「後工程」と呼ぶ。

すなわち、厨房で調理するのが「前工程」で、弁当箱に詰め込むのが「後工程」。

この後工程、すなわちこの一つの弁当箱に複数の食材を詰め込むということが、技術的にめちゃくちゃ難しい・・・らしい。この技術的ハードルがあまりに高く、コストもあまりにかかりすぎるため、アイフォンのような超量産品にしか適用できないらしい。

それでは、例えば、医療機器といったような「量産品ではない」機器ではどうなっているかというと、一つの弁当箱に一つの食材をつめこみ、その弁当箱を組み合わせることで一つの商品としている。つまり、個々の半導体は良くても、それを組み合わせる過程で「でかく」「処理が遅く」なってしまう。医療機器どころか、カメラや自動車用の半導体にも、チップレット技術を持ち込むのはコスト的に不可能であった。

それを、ミニマルファブは叶えるのだという。つまり、「前行程」だけでなく「後行程」までできる、オールインワン半導体製造装置。

スマホやパソコンなどの最先端分野以外には手が届かなかった「チップレット」を、線幅500ナノメートルといった「ロートル市場」にお届けするのである。食材そのものだけでなく、パッケージ化技術にも革新をもたらす・・・なんか凄そうなので、とりあえず期待したい。

まとめ

かつて世界を席巻した日本の半導体産業は低迷している。

現在、半導体製造のシェアのほとんどを持っているのが台湾TSMCであり、2位の韓国サムスン、3位のインテルと続く。ところが、台湾は地政学的リスクも高く、ここ数年半導体不足に悩まされたことから、日本としては、そしてアメリカとしても現状を何とかしたいと思っている。そのための「2つのカード」をまとめた。

第一のカードは、日米+日本トップ企業連合である。日米で世界トップの線幅2nmを目指す半導体新工場新設を目指しており、そこにトヨタやソニーをはじめとする日本企業連合も参加する。

第二のカードは、ミニマルファブである。自動販売機程度の大きさの「お手軽半導体工場」で、「前行程から後行程まで」オールインワンでできる。線幅は500nmと最先端にはほど遠いが、実はこの線幅で十分な半導体市場はシェア50%程度を占めている。

第一のカードで世界の「上」を狙い、第二のカードで世界の「下」の裾野をまるごとかっさらうことで、半導体強国日本の復活を目指す。

官僚(経済産業省主導)という点に一抹の不安は覚えるが、日本の反撃を大いに期待したい。

(画像は写真ACから引用しています)

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