微かなもの

 気温が下がって年の瀬が視界に入って来る頃、いつもは煩わしい車内の混雑にも温かさを覚えるようになる。人の、特に他人の温もりを寒くならないとわからないなんて悲しいな。そしてこうした思考も身勝手なものだなと思う。犬も猿も集団で過ごしている。毎日寂し過ぎて何かがわからなくなっているのかも知れない。はからずも人と接触した時その温もりに何かが壊れて溢れそうになる。そしてそれを制止するものが社会性。

 地下鉄の駅構内を冷たい風が吹き抜ける。この風ももうすぐ刺すように変わる。いつか一緒に見た桜の下で吹かれた風は優しかった。構内にも春はあったはずなのに、どうしてもその風のことが思い出せない。

 こうしたどうにもならない思考、君だけが頼りだ。君に繋がるとき、呼吸が浅かったことを思い出せる。息継ぎが出来るとまでは言えない。綺麗には語れない。そうした微かな気づき、君だけが頼りだ。私は今朝も働きに出られそうだ。

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