銭湯に魅せられて、銭湯に転職した看護師の話
こんにちは。かわむらです。
2021年7月に新卒から6年間半お世話になった訪問看護ステーションを卒業し、8月から銭湯に転職しました。
といっても、銭湯が経営する介護事業所に看護師として転職したので、番頭番台をしている訳ではありません。デイサービスや訪問看護ステーションにいます。
情報量多すぎ!そもそもなんで銭湯?などよく聞かれるので、ちょっくら長いですが書き残しておきます。
銭湯との出会い
銭湯が好きになったきっかけは、京都でした。
くるりや森見登美彦が好きだった高校時代に京都に憧れを抱いて、大学生の頃は夜行バスで京都に行ってはゲストハウスに泊まる安旅ばかりして、ホクホクしていました。
ゲストハウスはシャワールームしかないところが多く、銭湯をおすすめされたりします。地元にはスーパー銭湯しかなかったので、京都で初めて銭湯らしい銭湯に入りました。これがまたよかった。
400円くらいで広いお風呂に入れて、その街に入り込んでローカルを感じられる場所。京都は観光地が多いぶん、暮らし、というものが垣間見える場所でした。
おかまドライヤーしかない銭湯で、
「どうやるんだコレ…」
とおどおどしてたら、常連らしきおばちゃんが
「こう乾かすんやで」
「タオルで拭きや」
など教えてくれたこともありました。
古き良きおかまドライヤーと銭湯常連のおばちゃん。
現代でもまだ残ってるんだぁとじんわり感動した記憶があります。
どこぞの銭湯か失念しましたが、湯船のフチに福祉用具の手すりがついていたり、1人で湯船に入れない方の支援をする企画の宣伝ポスターがあったりして、めっちゃ福祉!と驚いたこともありました。
普段行かない場所なので緊張もするし、常連さんに「お湯が飛ぶ」など怒られてしまったこともありましたが、まわりを見ながら銭湯のルールはなんとなーく覚えていきました。
※最近は銭湯の入り方ポスターを掲示してくれているところもあり、ビギナーにも親切になっています!
私にとって銭湯は旅先というちょっと特別な時に行く場所でしたが、友人から教えてもらい、東京にも銭湯文化が残っていることを知りました。
ちなみにそれが杉並区高円寺の小杉湯で、その後にかかわることになるとは知らず、ミルク風呂に浸かっていました。
制度の壁、その先に触れたい
銭湯の話は一旦横に置いておき、冒頭にも書いたように、訪問看護師を長らくしていました。
自分の家で生きるというごく自然の営みが当たり前ではないこともあったりして、病気があっても家に帰る、暮らし続けられるようなお手伝いをしていました。
訪問看護は公的保険の契約のうえで訪問するのが一般的で、軽快して終了になる方もいれば、お看取りで最期まで見守らせていただく方もいます。
そんな中で、ご本人が亡くなったあとに体調を崩されてしまうご家族様を何人も見てきました。
生きがいのように介護をしていたけど、ご家族がなくなり落ち込み気味で、看護師も疎遠になっていった頃に家が売りに出されていた方。その後どうなったか分かりまません。
グリーフケアに行こうとお伺いするもずっと留守、その後「実は葬儀の後に体調崩して入院していました」を電話をくれた方。
一周忌を迎えてもなお、落ち込みから仕事を再開できない方。
ご本人が逝去した時点で訪問看護の契約としては終了しており、グリーフケアは診療報酬にならないのでボランティアになってしまう。
次から次へと新しい患者さんが来るので気になるご家族に充分なフォローができず、行政やサービスに繋ぐほどではないし、繋ぎ先もわからない、もどかしさを感じていました。
孤独や孤立は心も身体も蝕みますし、そんなご家族さんたちと看護師としてというより知人や友達など1人の人間として、その後も関われるような場や機会があるといいなと思うようになりました。
小杉湯でのかかわり
それで地域に出て何かできないかと思っていた矢先、友人の紹介で小杉湯のコミュニティナースさんに繋いでもらいました。
建物は古いのにいつも清潔で大切にされてきた雰囲気があり、ちょっとハードルが高い銭湯を若者や銭湯初心者にも身近に感じさせてくれて、イベント湯なども定期的に開催している、一風変わった銭湯です。
前にも書きましたがミルク風呂好きだったので、小杉湯さんのような有名な銭湯に関わらせてもらっていいんですか?の気持ちでした。
2020年2月に銭湯×医療というイベントのお手伝いをさせてもらいました。
番頭番台さんたちが小杉湯という場を理解して「閉じない」場をつくっていること、お風呂屋さんとしてブレない想いを伝え続けていること、そこに共感するファンがたくさん集まって大きな波になっている熱量に、どわーっと圧倒されました。
その後9月に小杉湯のセカンドハウス「小杉湯となり」の会員になり、あれよあれよと巻き込まれて「小杉湯健康ラボ」という健康にまつわるプロジェクトの運営に関わることになりました。
ちなみに、当初は健康や地域の活動をしようと思って会員になった訳ではありませんでした。
大学院受験とケアマネ試験のダブル受験が差し迫っており、自宅では勉強できない人間なので「作業もできるうえ銭湯に入れるなんて最高か?」と見学に行ってそのまま入会を決めました。
しかしありがたいことに、「看護師でもある1住民」として関わらせてもらい、多世代で小杉湯を拠点に散歩するイベントで銭湯好きさんや近所の方々と仲良くなったり、65歳以上が100円で銭湯に入れる「ふれあい入浴」の整理券配りで待合室で高齢の方々とお話するなど、地域に住んでるぅ〜と感じて地域のつながりで救われる自分がいました。
私は「看護師なので相談乗ります」とナースを前面に出すより、近所の若者で実は看護師、という立ち位置でコミュニティに関わることが多く、看護師というのをあまり前面には出していません。
しかしそれでも、ある程度の年齢になってくると、意識してなくても「からだのこと」が話題に出てくることに気付きました。
「先週転んじゃって、指骨折しちゃったんだよー」
「昨日退院してきて、食事に気をつけろって言われたんだよ」
「薬が多いんだよ。これとそれと、漢方も…」
看護師とは名乗らなくても、湧いてでてくるからだの話。
からだの話は意外と日常で、病気についてあえて触れなくても健康不健康関係なく、からだに左右されてからだで生きてるんだと思いました。
それと、看護師と名乗らなくても、話してる中で「あんた学生?社会人?仕事何してるの?」と聞いてくれるので、看護師なんですよ〜って結局打ち明けます。
あら大変ね、えらいね、そういえば最近コロナのワクチン打ったのよ、とか話がまた膨らんだり。これもまた面白い。
そのくらいの距離感の方が気軽に話せることも多くて、健康や相談を掲げなくてもフラッと来て話せる関係性でありたいと思うようになりました。
銭湯デイサービスとの出会い
ある日、ケアマネさんのテーブルにあった「銭湯デイサービス」のチラシに衝撃を受けました。
銭湯は大体夕方から始まるのですが、開店前の時間を利用してデイサービスをしているところがあり、介護が必要になっても介護スタッフの手伝いのもとで銭湯に入れるのです。
これだ!
銭湯に1人で入るのが難しいお客さんの三助さんにされるし、なじみの銭湯に通えるのであれば新たな場所に行くよりも環境的な抵抗も少ないし、ご近所さんコミュニティの延長にもなりうる。
銭湯と福祉の相性の良さ…!
ググってみると、どうやら銭湯の開く前の時間を利用してデイサービスを委託実施している介護の企業があることが判明。
さすがに銭湯自身が経営してる訳じゃないのか…と思っていたが、よくよく探してみたら、あった。
銭湯が直営しているデイサービス。
それが品川区の新生湯でした。
しかもデイサービスだけじゃなくて、訪問介護、ケアマネ事業所、サービス付き高齢者向け住宅、訪問看護もある。なんじゃこりゃ状態。
ホームページによると、1人で湯船に浸かれなくなったお客さんをなんとかできないかという気持ちから、銭湯の2代目ご夫婦がヘルパーの資格を取得。
銭湯で入浴介助をするようになり、銭湯の脱衣所を利用してデイサービスを始めたようです。それが広がりに広がり、今は多様な介護福祉事業に…。
これは行くしかない!と速攻で見学を申し込み、実際に銭湯デイサービスを見に行きました。
介護事業以外にも、地域のコミュニティスペース運営や介護予防目的にフィットネスジムまで展開しており、驚きまくりでした。
中でも共感したのは、銭湯から半径850m圏内の地域を守ることをミッションにしていること。
それは地域包括ケアシステムの一単位と言われている中学校学区のサイズで、現実的に手の届く地域です。
しかも職員の8割は近所に住んでおり、定年後のセカンドライフで勤めてる方や元利用者さんもスタッフとして働いています。
こんな地域包括ケアを実現しているところがあり、しかも拠点は銭湯!と感動しまくりでした。
手の届く範囲の人々を守るような草の根的な活動を通して、最期まで幸せに暮らせる地域づくりを地域の手でしていて、私のやりたいことに近いと思い、その場で面接を申し込んで勢いで転職しました。
今の働き方と今後
大学院も通学しているのでアルバイトではありますが、各事業の枠を超えて掛け持ちで働くことを推奨している職場なので
・訪問看護ステーション&小規模多機能型居宅介護の看護職員
・街の相談室のイベントや広報企画
に関わりながら働いて、帰りに銭湯に入って、ととのう日々です。
(2023年8月追記:出産&育児のため、2022年11月で新生湯を退職しております🙇♀️介護・看護スタッフは引き続き募集しているようなのでご興味ある方は是非!)
小杉湯も新生湯も「健康」や「地域コミュニティ」のハブになっていて、ただの風呂の域を超えたケアの場である可能性を感じています。
きれいな水を提供して感染症を予防する、身体的清潔を保ち社会の一員として認められる、孤独や孤立から自然と救われるセミパブリックな役割など、銭湯は公衆衛生を実践している場所だと思っています。
そんなところを大学院では研究するつもりなので、しばらくは銭湯沼にハマっていそうです。
長くなりました。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
PCに向かっていたら肩もコリコリなので、今日も銭湯に入ってフルーツ牛乳でも飲んで帰ろうと思います。
キャリアの選択肢に銭湯、いかがですか?
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