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殺人犯はそこにいる
読了:2020_09_09
満足度:★★★★★
所感:警察や検察、マスコミの闇を追求し、報道の在り方を問い、仕事や生き方に対する「矜持」までも考えさせられる一冊。感想が長いけど、読み返したい一冊。
ザっとあらすじ…
本著は実話。栃木と群馬の県境で起こった五件の幼女殺害・行方不明の事件を巡り、警察・検察を相手に、冤罪の証明や真犯人の追及を行っていく。
警察・マスコミの関係
マスコミが取材をする中で、警察署や各省庁から情報を得ることがあるが、大抵の場合、公的機関の発信ということで、その情報の裏付けなく記事は作られていく。記者として、決して良い姿勢ではないが、記者が全ての裏付けをとることも出来ないため、この方法がとられている。
…とはいえ、それに寄りかかり過ぎることも良くはない。実際、現場にも行かず、容疑者や遺族と会ったこともない捜査幹部から、記者が話を聞くだけ、という「伝聞の伝聞」取材もあるらしい。
また、その公的機関が嘘をつく可能性もあり、著者が担当した桶川のストーカー事件や北関東連続幼女誘拐殺人事件もその例。警察が自分たちの保身のために間違った情報を流し、それを鵜呑みにしたマスコミ…という構図だった。
全てがこのような状況ではないはずだが、これでは戦時中のマスコミと同じなのではないか、と感じる。お上の情報を鵜呑みにし、国民を誤った方向へ扇動してしまうのだとしたら、なんのためのマスコミなのか、と。よく言われることだが、一つの報道を鵜呑みにするのではなく、多面的に見るのが大事さを改めて痛感する。
報道とは何のために存在するのか
考えさせられる内容だったため、長いが抜粋。報道とは何のために存在するのか、それは本著にあるように、再発を防止するためなのだと思う。他にも、政治や企業の不正の監視機能なのだろう。しかし、今のマスコミを見ていると、部数稼ぎのための報道が多いように感じる。魔女狩りのような薄気味悪さ。「みなさん、この人が悪い人ですよ!悪い人だから、何をしても大丈夫、みんなで石を投げましょう!」という雰囲気をマスコミが煽っているように感じる。
例えば、親が幼い子供を車に残して買い物などに行き、車内で子供が熱中症でなくなる。…(中略)…あなたはどう思うだろう。「馬鹿な親だ」と思うだろうか。あるいは、「私はそんな愚かなことはしない」と笑うだろうか。
しかし、このニュースの問題点はどこだろう。報じるべきなのは警察による広報文なのだろうか。事件を担当する警察署の名称や罪状、送検予定なのだろうか。
あなたがスーパーに行くとする。後部座席ではいつの間にか子供がぐっすりと寝入っている。起こすのもかわいそうだと思う。エアコンはセットされている。すぐに戻るからねとそっと車を離れるが、あいにく店は混んでおり、買い物は思ったようなスピードで進まない。目を覚ました子供はあなたの姿を捜し、泣きながら車内を移動する。外に出ようとあちこち触り、やがてエアコンのスイッチを切ったり、エンジンキーそのものを廻してしまう。そして車内温度は春先でも50度を超える…。
報じるべきことは、こういった事実なのではないのか。
原因はなんだったのか。同様の事故を二度と起こさぬためにはどうすべきか。
それを報じるべきなのではないか。
…(中略)…
足利で松田真実ちゃんが行方不明になった時、愛娘を必死に捜し続ける父親に、現場に駆けつけた県警幹部は何と怒鳴ったか。
「なぜ子供をパチンコ店に連れてきたんだ!」
知らなかったからだ。
足利で未解決の重大事件が続いていることなど、知るよしもなかったからだ。
…(中略)…
警鐘が鳴らされることはなかったのだ。
そんな有様で、両親が危機感を抱けただろうか。
何も知らぬまま、パチンコ店に向かってしまった彼らを誰が責められよう。
私は思う。
事件、事故報道の存在意義など一つしかない。
…(中略)…
再発防止だ。
仕事や生き方に対する矜持
︎矜持を持って生きることが大事だ、と感じる本だった。
警察・検察・マスコミも皆人間。保身もあるし、嘘もつく。当たり前のことだが、綺麗事だけで動いているわけではないことを痛感。また、上記に限らず自分や、自分が所属する組織だって同じかも。
何かのために自分自身が嘘をつくかもしれないし、自分がしたくなくても組織に巻き込まれることもあるかもしれない。いつそんなときが来るかも分からない。
①清濁合わせ持つことは大事だが、どこまでの「濁」を持つのか。自分の中での線引きが重要で、それが矜恃なのだろう、と感じる。私の場合は「その行為が子供に説明出来るか」だろう。
②自分がしたくないのに巻き込まれる場合。その対策の一つが、会社に縛られずに生きる方法を身につけることだと思う。詳しくは#七つの会議 と#象の墓場 に記載するので、ここでは割愛。
と言うわけで、今回読んだ本はこちらでした。
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殺人犯はそこにいる
著:清水 潔
新潮文庫
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