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パラノイアな祖父をめぐる旅 2

 前回までのあらすじ

 とある事情でドキュメンタリー動画を撮ることになった僕は、父と亡くなった祖父を取材することにした。祖父はすでに亡くなっているが、かつて誇大妄想の気があり「自分は天皇の子孫である」と語る人であった。一方、父は政治に関心が深く、天皇の話題が出ると怒り出す。2人の間に一体何があったのか、確かめるために僕はまず、東京から現在父の住む大阪に向かう…

 

 成田から関空に向かう飛行機でこの文章を書いている。

 特に今日は何もしていない。飛行機に乗るのは久しぶりだったので、搭乗時間のはるか前に空港に着くように家を出たら半日以上潰れた。

 成田までの電車で本を読みながら、明日のインタビュー(?)をどうやって進めるか頭の片隅で考えていた。

 今回のドキュメンタリー撮影の作戦を書く。

 先にも述べたように、僕の実家は大阪にあり、父も大阪に住んでいる。父の実家は宇治である。10年ほど前にまず祖父が亡くなり、数年前に祖母が他界して以来宇治にある父の実家は空き家となっている。その後、宇治の家は誰も住んでいないまま放置されている。おおかた遺品整理なんかが面倒なのだろう。

 今ではもうなくなっているのだが、父の実家の前にはかつてうちの畑があった。その前には看板が立てられていた。別に何かを宣伝しているわけではないので看板というのはふさわしくないかもしれないが、正確に書くのが難しいのでとりあえず看板と呼ぶ。その看板には細かく汚い字で何やら文章が書かれており、通りから見えるように置かれていた。それは祖父が書いたものであった。

 今回のドキュメンタリーの出発点はその看板になる。僕としてはそこにきっと、祖父の妄想が描かれていたのではないかと睨んでいるのである。「西中家はこういう系譜で、ウンタラカンタラ…天皇の子孫である」という一種の妄想神話が書かれているのだ。その看板が見つかれば、祖父の誇大妄想の全容を知ることができる。その看板を探すために明日、大阪の実家から宇治まで父と一緒にドライブする。その道中で父に祖父の話を聞くというのが今回の企画になっている。自分で言うのもなんだが、なかなかワクワクする構成じゃないだろうか。

 ただ、その道中、父にどんなふうに話を聞けばいいのか分からない。

「おじいちゃんの誇大妄想について聞かせて」

 こんなんで聞き出せるわけがない。どんなふうに聞いていけばいいのだろう、と言うことを1日考えていた。

「おじいちゃん、頭おかしかったん?」

 倫理的に問題がある。

「俺って天皇の子孫?」

 僕がパラノイアだと思われる。

 いや、考えすぎることはない。僕がとりあえず聞きたいこと、このドキュメンタリーの出発点から始めればいいのだ。

「あの看板に書いていたこと、なんか覚えてる?」

 ここから始めればいいだろう。

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