塔11月号① ~若葉集より~
塔2023年11月号の若葉集から気になった歌を引いて感想を書いてみました。(敬称略)
・飛んできた蝶に、亡き人が帰ってきたように感じた、という歌はめずらしくないが、草を抜く手に影がよぎった、という具体的な映像と、「影をのこして」という表現が印象に残った。
・「耳の奥には大波の音」が心に留まった。
「みたりの親」の「耳の奥」とも取れるが、これは作者の「耳の奥」だと読んだ。
だとすると「大波の音」はかなり強い表現だ。
一首から具体的なことはわからないが、たとえば介護に伴う生活の厳しさや不安定さが想像できる。
また「みたりの親」は三人の親、つまり自身の親と義理の親ということ。そこに焦点を当てると、より深刻な状況が垣間見える。
そうした作者の葛藤が大きなスケールで表現されている。
・「毎日の毎日のリズム」「練習曲のようなる日々」が印象的。
「リズム」という語を使いながら上句の調べがぎこちない気がするのは、日々の単調な生活の違和感、やりきれなさの表れかもしれない。
そして「練習曲」という表現から、これらの日々は本番ではないと感じているということがわかる。
ただそのような日々であっても、ひたすらこなしていくことによって乗り越えてゆこうとする作者の心の強さも感じられる。
・2023年度からヘルメットの着用が努力義務となり、作者も新しく自転車用のヘルメットを買ったのだろう。
そのヘルメットを被った父を見て、娘が「かっこいいよ」と言った。
そこに親子の関係性や、暮らしぶりがうかがわれて味わい深い。
そして「茄子の水やり」という場面もよくて、しみじみとあたたかさのある一首。
・不思議な歌だが惹かれた歌。枕の説明に必要以上とも思えるほどたっぷりと字数を使っている。
それも具体的な形状の説明をしている点も独特だ。
そしてその枕の奥には鈴が一つあるという。
どこか暗喩めいている表現だ。
若葉集は入会一年目の会員欄で、自由な作風の方が多く、読んでいて非常に面白いです。
ただ、好きな歌だけれども、それを言葉で表現するのが難しい、という歌が多いのも特徴的です。
以上の歌の他にも好きな歌、楽しい歌がたくさんありました。