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吉靴房さんの靴

※この記事は、2023.9.18付Instagram記事を転載したものです。


私が自分で着物を着ることを始めた頃、着物に合う靴はないかと、靴屋はもちろん、今よりも情報量がずっと少ないネットでも、いろいろ探した事があります。吉靴房・野島さんの靴を知ったのは、そんな時でした。

私は「見たことがない」ものは割と好きで割と受け入れる方だと思いますが、それにしても吉靴房さんの靴はあまりにも斬新で、しかも遠方のために実物を見ることもできず、当時の私には、博打的に購入する勇気がありませんでした。しかし、着物に合う靴を買うとしたら、きっと吉靴房さんの靴だろうなと、うっすらと思いました。

それから10年ほどになるでしょうか。数年前、京都の町家について少し調べていた時に、偶然、吉靴房さんの記事を読みました。

https://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/feature/60/2/

おお!あの時の…!
とても嬉しくなりました。様々な技術が当時よりも進歩していて、吉靴房さんもそれを取り入れ対応してくださっていたので、通信販売でも博打的要素は格段に減っていました。いよいよ「その時」が来たのでは?と思えました。
10年越しです。届いた靴箱を開けた時の気持ちは言葉になりません。何とも感慨深かったです。



私は、右足が左足よりも小さく、靴のサイズ選びはは左足が基準。また、足の形がスクエア型というか扇形というか、先に向かって幅広になるような形をしているので、市販の革靴類は履けるものはかなり限られました。会社勤務時代はそれでも無理をしてスーツに合わせていわゆる女子的な革靴を履いていたせいか、今、足の形がやや変形してしまっています。革靴は、従って、履かなくなってもう20年くらいになるのではないかと思います。サンダルのようなものか、運動靴、しかも、右足は常にブカブカです。

そんな私の足の形にピッタリと合わせて作って頂けたのが、写真の靴です。これは「踵単皮(あくとたび)」というシリーズのもので、普段はカカトを踏んでサンダルのように(もしくは草履のように)履きますが、車の運転などカカトが必要な時には、カカトを立ち上げて履く事ができます。

届いてすぐは、皮が硬くて、全体的に小さい気がして、足袋を履いたまま履けるのか?非常に不安でしたが、何度か履いているうちに、足に馴染んできて、段々と「私の足」みたくなってきました。足の分身みたいな感覚です。何より履き心地がとても良い。履いていて、幸せな気持ちになります。

「右足がピッタリサイズ」というのも初体験です。つま先や足回りの余分が「無い」ので、歩くバランスが少し取りにくくく感じるくらい。これまで、いかに自分に合っていない靴を履いていたかということがわかりました。もしかしたら、アキレス腱や膝・股関節の右側ばかりを痛めやすいのも、そのせいなのでしょうか?まだ届いたばかりなのですが、不思議と旧知の親しい友人のような懐かしさを伴って、とても愛おしく感じます。たぶん「私の足型」だからだと思います。

自分の身体に合ったものを身につけること、そして「ものづくり」の姿勢のようなもの、葛布の帯地の制作にも通じます。貴重な体験と、大事なことを教わった気がしました。10年前に吉靴房さんを見つけた自分を褒めてやりたい。

靴を作ってくださって、そして私が見つけた時から変わらずずっと作り続けてくださって、ありがとうございます。
大事に使います。

作っていただいた、吉靴房 踵単皮(あくとたび)

いただいたサポートは制作費として大切に使わせていただきます。 https://kuzunonuno.com