幸運の女神

最近、彼は色々とついてなかった。
仕事も私生活も思い通りにならない。
そんな気分を変えるために、
ギャンブルにでも行く予定だったが。
途中で急に雨が降ってきたから、
雨宿りにバーに寄ってみた。

カウンターの端で
外の雨を眺めながらビールを飲んでたら、
カウンターの奥の席に、
純白のロングドレスを着た女性が
座ってることに気付いた。 

これまで見たことないほどの
絶世の美女だった。
こんな寂れたパブには似つかわしくない、
気品と清涼感と完璧な美貌に溢れた美女が、
こんな店にいるなんて!

彼女を見ただけで、
なんだか運が向いてくるような気がして、
雨も止んだので急いで賭博場に駆けつけた。

予感、
通りだった。
大当たりが嘘のように続いて、
周りの人達も盛り上がり、
気が付けば一財産出来ていた。

それからギャンブルに行く前には、
必ずそのバーに寄ってみた。
すると、
いつも決まって奥の席に彼女はいて、
彼はその後大儲けする日々が続いた。

しかもギャンブルだけじゃなかった。
毎日の仕事も全て上手くいき、
職場の可愛い女性から告白されたりもした。
他にもクジに当たったり、
やることなすこと幸運ばかりが続いた。

これはもう、
きっと彼女は幸運の女神に違いない。
ただ偶然、店で見かけただけだったが。
たぶん驚かれるだろうと思うが、 
一言お礼を言いたかったし。
何よりもこれだけ幸運が続いているのなら、
彼女とも親しくなれるに違いないと
思わざるを得なかったし。

翌週、
意を決して店を訪れると、
彼女はいつも通り奥の席に座っていた。
その姿は
この世の中にこれほど美しい女性がいるとは信じられないほど、
天使か女神のように神々しい美しさだった。

彼は恐る恐る声を掛けてみた。
すると彼女は美しすぎる瞳を、
驚いたように見開いて、
私が見えるのねと答えると、
そそくさと支度をして店を飛び出した。

予想外の反応に彼は戸惑ったが、
窓から外を見ると彼女が車道に立ちすくんでいる。
彼を待っているかのようにこちらを見つめながら。
その美しい瞳に誘われるかのように、
彼も店を飛び出して、
車道は危ないと、思わず彼女を抱きしめた。 

これほどの幸運がつかめるなんて、
彼は多幸感に心底酔いしれて、
車道に横たわり、

天に召された。


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