真空と静謐



ある高名な画家が死んだ。

晩年の個展では、作品が完成年別、古い順に並べられた。
廊下の最後は星系の洞に落とされた羚羊を描いた作品だった。水彩で描かれた宇宙は、足元が揺れ動くような色彩で中央の生き物の強い眼差しは私をそこに釘付けにさせた。

多くの人が足を止め、同じ数の人が素通りしていった。私は閉館するまでその絵を眺めた。

なぜ画家はあの作品を最後に描いたのか。私には少しだけ分かってしまうような気分になるのが悲しかった。

いいなと思ったら応援しよう!