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【#2000字のドラマ】黄色いバラ

 この季節は日中に2回シャワー浴びたいなあ。
 少しの沈黙の間にそんな事を思った。

 「彼氏出来たんじゃないかなあって。英作は?」

 「内定出たんじゃね?」
 4年生になった俺たちの大事な話と言ったら、それしか思いつかなかった。

 話したいことがある、と桃から連絡があり、
国道沿いにポツンとあるいつものファミレスに向かう。

 「賭けますか」

 満面の笑みでこちらを見ている。いつも何かにつけて賭け事をしようとする。
 優大は学部内で1番目立つ男で、見境なく友達を作っていた。それは才能であるという見方も出来るけどある種、人に備わっている“なにか”が欠如しているようにも見えた。だけど帰り道に限っては、いつもこの3人だった。

 にしても彼氏が出来た、という読みはあまりにも幼稚だ。優大にはまだ伝えていないが、俺と桃は
付き合っている。



 腹が減った。昼食がサンドウィッチだったからか。いつも食べているカップ焼きそばはカロリーが高いんだなあ。
 少しの沈黙の間にそんな事を思った。そうだそうだ。予想をしていたんだった

 「彼氏出来たんじゃないかなあって。英作は?」

 「内定出たんじゃね?」

 心から桃の就職活動を応援している英作らしい
意見で心が温かくなった。

 「賭けますか」

 適当に考えた予想だけど、お決まりなので
言っておく。桃から改めて呼び出されるのは今回が初めてだ。お互い落ち着かない様子でいる。

 1年生の時の合宿でたまたま桃と2人で話す機会があった。まだ挨拶程度しかした事ない僕に、しっかりと自分の意見や考えを話してくれた。珍しい人だな、と思った。

 その後も友達と行く旅の候補地をメリット・デメリットを上げながら並べてくれたり、これから大人になるにつれて親への態度をどうグラデーショを付けながら変えていくかを、季節の移ろいに例えながら話してくれたりした。桃からいろんなものを盗みたい、桃と対等に話したい、と思って勉強もアルバイトも頑張った。学部内全員と友達になるという
目標も達成した。
 そして、来月から桃と北欧雑貨をECサイトで
販売する会社を立ち上げる。



 ヘリコプターから見た夜景が綺麗だったかを覚えていない。プロペラの音がうるさかったから。私たちが過ごしていた日々はそれに似ていたなあ。
 2人が来る前にそんな事を思った。

 楽しかった。居心地が良かった。だけど来年から社会に出る私にとって、このぬるま湯にいつまでも浸かっていたくないと思うようになった。自分が成長する為の時間を取りたいと思った

 すたすた。ぺたぺた。
 足音だけで2人が来たかどうかわかる。

 「あれ?髪染めてんじゃん。就活終わったってこと?」
 「ほんとだ。明るい方が似合うね。桃ちゃんお疲れ!」

 2人の軽やかな口調は聞いていて気持ちがいい。
いつも一緒にいてくれた2人。素敵な思い出をたくさん作ってくれた2人。そしてどんなときでも味方でいてくれた2人。

 「すぐ気づいてくれたね。まあ髪色のことはいいじゃん。ドリンクバー取ってくるね」

 少し冷静になりたくて席を外す。
 黄色い薔薇には【笑顔で別れましょう】という花言葉があるそうで。もちろん髪と薔薇は別物だが、それにあやかって今朝、少し黄味がかった髪色にした。

 「んで話ってなに?内定決まったんでしょ?」

 「内定じゃないと思うなあ。彼氏だと思うなあ」

 「うん。大事な話なんだけど実はさ」

 「ちょっと待った!」

 意を決して喋り出そうとする私を、英作が遮る。

 「その前に俺から大事な話があります。優大びっくりするなよ?実は俺と桃は付き合ってます!」

 予期せぬ展開に思わず身体が固まる。

 「えー!そうだったのかよ!てことは僕当たってるじゃん!」

 半年前からの交際を、今さら祝福されている。私はこの後、別れを告げようとしているのに。

 「じゃあ僕からも大事な話があります!」

 優大も続けて話し始める。私と会社を立ち上げる話を英作が聞いたら、腹を立てるに違いないと思った。

 「ちょっと待って!」

 私の制止を振り切り続ける。

 「実は僕と桃で来月から会社を立ち上げることになりましたー!」

 「マジで?じゃあ俺もある意味当たってるじゃん!すげえじゃんお前ら!おめでとう!」

 怒ってはいない。むしろ喜んでくれている。私はこの後、会社設立の話を白紙にしてほしいと伝えるのに。

 「桃ちゃんの親父がヨーロッパの家具とか雑貨を輸入する会社やっててさ。それをネット販売するんだ。 まだ桃ちゃんには話してないけど、僕の実家は花屋だから雑貨に合う花も添えたいと思ってるんだよね」

 優大がおもむろに窓の外を指さす。

 「あそこに咲いてるひまわりあるじゃん?ひまわりの花言葉って【未来を見つめて】って言うんだ。今の俺たちにピッタリじゃない?」

 そのひまわりはうっすら窓に映る自分の髪色と同じ色をしていた。





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