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コアラのマーチが奏でる唄は・・・

 断捨離をし始めたこの晩夏、捨てることのできない物があった。
コアラのマーチのコアラのパペット。
今はもうどうやって入手したのかも思い出せないのだが、捨てることができないのだ。

社会人と大学生の二人の子供がまだ保育園に通っていた頃、20年近く前、
二人の子供を寝かせつけるのも一苦労だった。
二歳違いの常に元気いっぱいでいつも一緒にいた二人。
絵本も好きなんだけれど、それよりも何か面白いことしてとおねだりが常だった。
同じことを毎日するルーティーンを嫌がったものだから、早々にネタ切れになってしまった私。
子供たちの枕元に置いていた多くのぬいぐるみの中からコアラのマーチのパペットを手にして私の両サイドに横になっている子供たちの顔や体をパペットでつまみだした。するとキャッキャッと喜びだした。
「もっともっと!」
「ここもやって!」
と大はしゃぎだったのだが、私が
「これが最後でーす」
と言うと
「あと一回でおしまいね」
と、二人で言い合って眠りについてくれた。
(おっ!いけるか?)
と、私は手応えを感じた。
だが、数日後には
「今度はお唄も一緒に」
と二人ともが言い出した。
(う、うたぁ~?!)
困った私は何回か童謡を唄ってみたものの、何やら二人は納得しない。
どうやら二人は、はしゃいで楽しい思いをしてから眠りにつきたいらしい。
考え抜いた私はサザエさんのオープニングのイントロを口ずさみながら
1フレーズずつ一人の顔や体をコソコソ触り、カウントをデフォルメして大げさに顔や身体をつっつくのだ。
子供たちは声を上げて喜んでくれた。
いつも通りの「もう一回」コールもあったのだが、
「これが最後でーす」
の掛け声と
「あと一回でおしまいね」
の子供たちの言葉を合図に眠りについてくれた。

翌日からは子供達のほうから
「コアラのマーチして」
と、おねだりが始まった。
仕舞いにはパペットをもってきて
「これこれ」
と寝室に誘うのだ。
この寝かしつけは二人が小学校へ入学するまで続いたのだ。
お休みの合図としては最高だったのだが、私は一体何千回サザエさんのオープニングを口ずさんだのだろうか。
今から考えるとよくやったものだと思うのだが・・・

子供達二人ともが県外に進学した際、コロナ過での進学だったためにアパートにこもる事も多かった。
笑い話の一つにでもなればいいと私は一人部屋でコアラのマーチのパペットを使いあの頃のサザエさんのオープニングを口ずさんだ動画を送った。
娘はスタンプですぐに反応があったのだが、息子はスルー。今だに反抗期を引きずっているのかもしれないが。まぁ、良しとしよう。

 社会人となった娘が私の部屋に入った時、部屋の隅に飾ってあるコアラのマーチのパペットに気が付いた瞬間、
「懐かしいぃ。このコアラのマーチのパペットまだあったんだ。寝るときのやつだよねぇ。サザエさんの唄でさ。引っ越しで捨てたかと思ったわ。」
と、言い出したものだから、
「覚えとった?」
と私が聞き返すと
「忘れらんわね。何かすごく楽しかったの覚えとるし。」
と、懐かしそうに娘はパペットを撫でまわした。

記憶に残ってくれているのがとても嬉しかった。
頑張って何千回唄ったかいがあったということだ。
三人のグループラインのアイコンが娘の手によってパペットの画像に変わっていた。

今日もコアラのマーチのパペットはアイコンの中と私の部屋で微笑んでいる
これだけは断捨離しても捨てられないのだ。


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