その首に巻くものは・・・なに?
今年の1月、息子が成人式を迎えた。
一生に一度の成人式、今持っているスーツは高校卒業時に購入したものだ。
高校時代は野球をしていたのだが、部活を引退してから半年以上、卒業時にはかなり筋肉が落ちていたように思う。大学に入学した秋にアメフト部に入部し、筋トレをし出した息子は、その頃より身体が大きくなっているであろうことは安易に想像できた。私的には成人式の為だけにスーツを新調するのはいかがなものかと思っていたところ、息子から
「今あるスーツで出るからいいよ」
と申し出があった。
それは有難いと思っていたのだが、ネクタイだけでも新調してやったほうがいいのかもしれないと帰省中の娘とショッピングモールへと出かけてみた。
紳士服専門店でいい色合いのネクタイを見つけた。私も娘も気に入った色だったのだが、店員さん曰く
「ご本人様とご一緒にいらっしゃったほうがいいかと思いますよ。」
との一言で私と娘は早々に諦めてしまった。
それは何故か・・・私と娘は淡いブルーのネクタイを気に入ったのだが、当の本人の息子さんは原色が好きなのだ。
前シーズンのアメフトの練習、試合、着るもの履くもの小物まで全て蛍光イエローだったのだ。
そして今シーズンの練習着は全身ブルー。
まるで占いでいう「今年のラッキーカラー」状態なのだ。
私と娘の意見は一致した。
「きっとあやつはこれを選ぶことはないだろう。」と。
帰宅してから私と娘は本人抜きで息子のネクタイ問題で盛り上がっていた。
お互いの推しの衣装を照らし合わせてみたり、いいとこどりしてみたり。
息子のスーツは黒、ワイシャツも黒、ならば、ネクタイも黒っぽくしてネクタイの上からシルバーのネックレスしてみるのもいいんじゃね?!
などと、大盛り上がりしていた所に息子から連絡が・・・
「ネクタイは持っとるやつをつけるけんね。」と。
高校卒業時に買ったのはワインレッド系の柄物のネクタイ。
「まぁ、本人がそれでいいのなら、まぁいいか。」
と、娘と話していた所に母が割って入ってきた。
「黒のネクタイならあるよ。」と。
娘はすかさず食いついた。
「どんなの?」
母は飄々と答えた。
「ちょっとよさげな(よさそうな)織物の生地のやつ」
その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏にあるものが浮かんだ。
私はテーブルに肘をつき手で頭を押さえながら言った。
「ばぁさん、それってもしかしてさ、黒糸で刺繍してあるやつだよねぇ?」
すかさず母は答えた。
「そげそげ(そうそう)、般若心経!」
娘は私の顔を覗き込み、目を見開き口を四角に開き、変顔をしながら
「はぁ?!」
と言ったあと、その顔のまま”はんにゃしんぎょお~”と連呼しながら笑い転げていた。
私が顔をあげると、母は眼鏡越しにいたずらっ子の様な不敵な笑みを浮かべていた。
母の顔にしっかり描いてある。
「してやったり(笑)」
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