「トンネルについての*」【11月12日(火)】
「とんねるず29年ぶりに武道館ライブに1万8000人が大熱狂」
という特に食指の動かない記事だったが、Googleが検索履歴やらリンクを踏んだ記録やらから「お前はこんな記事に興味があるのだろう」と判断したからこそ、この記事がスマホの画面に表示されているのだろう。
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純然たる関西人の俺にも関東精神のイデアたるとんねるずに関心を払う潜在意識があるのやもしれぬ、と無意識に促されて記事をクリックして読み進めて度肝を抜かされた。
記事本文の内容にではない。記事中に載せられた一枚の写真にである。それは石橋と木梨が舞台上で歌っているだけの、ライブ写真としてはなんの変哲もないものであるが、その背景にある文字列に俺の目は釘付けになってしまった。
TUNNELS
たんねるす……?ああ、トンネルね、久々に見た英単語だから一瞬なんのことか分からなかったぜ。なるほど、とんねるずのライブだから、TUNNELSて書いてあるのね。まあ武道館のライブにひらがな背景は様にならんか。とんねるず自体シティーで洒脱なおじさんだから、まあ英単語で記してもそんなに違和感はないもんだな…………
え?とんねるずって、TUNNELSだったの?「トンネル」の複数形でトンネルズだったの?「突然変異の亀」の複数形で「ミュータント・タートルズ」であるように、「トンネルたち」で「トンネルズ」なの?マジ?貴明トンネルと憲武トンネルってこと?マジで?トンネルなの?マジで?トンネル?とんねるずが?トンネル????
長い37年の人生で最大の驚きといえば勿論言い過ぎであるが、控えめに見積もっても20位内は固い驚きである。驚天動地のビッくらポンの助、周章狼狽ウルフルズといった具合である。
本当に?え?世の中の人間はみんなとんねるずのことを、トンネルの複数形だって認知できてるの?マジで?「夏たち」「末広がりたち」「ビッキーたち」と同じような位置づけとして「トンネルたち」として認識してたの?マジで?ちょっと待って、「ビッキー」てなに?「ビッキーズ」てなんなんだよあいつら、なにがビキビキ、ビッキーズなんだよ。
そうかー、いやー、びっくりだなー。芸人のコンビ名ユニット名一般に関心がなかったわけではないのに、「とんねるず」については何かもうそういうものだと思い込んでいた。
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俺は10代の若人の語彙力の無さを罵ることを生業としており、表意文字を常用している民族とは凡そ思えぬ彼らの言語的無関心に首をひねる日々を過ごしていたが、なるほど、彼らには万物が俺の目に映る「とんねるず」のように見えているのだな。ははーん、確かにとんねるずがトンネルたちだと分からなくても、それなりにとんねるずのことはきちんと認識できていたのだから、彼らが意味と切り離された単なる音声と線の集合体として多くの語を認識しているのも、日常生活にはさほど支障をきたさないのだろう。いやはや。
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ありがとう、とんねるず。こんなこと言われても大きなお世話サマーで迷惑でしょうが、あなたがたのおかげで、こんな情けねえ俺でも少し生徒たちに優しくなれそうです。