サンタクロース漫談
はい、じゃあ始めていこうかー。今日から冬期講習やね。まあ朝から夕方まで授業で、宿題も出されて大変なんは重々承知なんやけど、君らも受験生やからね。何かちょっとでいいから、毎日塾の勉強以外にちょっと勉強の時間をとろうね。そんな何時間も取らんでも、ほんの5分、10分、単語をちょっと確認した、とかそんなんでええから。ただ、塾来て宿題してそれだけで終わり、みたいな日はつくらんように、充実した冬休みにしましょうね。
今日は12月26日、ということでクリスマスの翌日なわけですが、どうですか、皆さんのお家にはサンタクロース来ましたか?サンタクロースシステムって、まあご家庭によって様々あると思うんやけど、一人っ子のところはね、たぶんもうとっくにシステムは終焉を迎えてると思うんですよ、君らももう中三やからね。でも、下の兄弟がいると、その子に合わせる形で、サンタクロースシステムて長続きしません?そうよね、頷いてくれてる人結構いますね。
俺もそうでさ、俺ん家てのは、俺の上にお姉ちゃんがいて、下に弟がいて、ていう三姉弟でさ。それぞれ年が三つずつ離れてるの。で、恐らくうちのサンタクロース評議会では、一番下の子が小学生の間はシステムを持続させようっていうふうに決まったんやろうね。弟が小六、つまり俺が中三、お姉ちゃんが高三の頃までうちではサンタクロースがプレゼントもってきたのよ。
うちは結構クラシカルなホームアローンみたいなシステムでさ、ホームアローンって言ってもわかんないよね。リビングにこう、クリスマスツリーがあって、25日の朝に子どもたちが起きてくるとあら不思議、昨日まで何にもなかったのに綺麗な包み紙をまとったプレゼントが置いてあって子どもたち大歓喜、ていう感じなわけよ。
で、主に弟のためにシステムは続いてるんやけど、なんか途中から俺とかお姉ちゃんとかのプレゼントが無くなるってのも変な話やん?サンタさんはそんな姉弟内差別はしねえよ、てなるから、家では上の姉弟にもサンタからプレゼントが届くわけやけど、これが結構大変なんよ。
何が大変て、俺へのプレゼントね。お姉ちゃんはね、そうでもないの。何かあとになってから聞けば、高校生になってからはお姉ちゃんもサンタクロースシステムの一端を担い始めてたらしいんやけど、まあ女の子はさ、中学生、高校生になったら、何かおしゃれなセーターとか、マフラーとか、そういうファッション的なアイテムで格好がつくわけやけど、中学生男子はそういうわけにいかんやん。中学生男子なんてお洒落に興味を示さないことを美徳としているようなところがあるから、服とか靴とかそういうのは無理なわけ。かといってラジコンみたいないかにもなおもちゃももう喜ばないでしょ?普通ならテレビゲームのソフト、てなるところなんやろうけど、うちの親、あ、親って言っちゃった、サンタクロースたちはさ、自分もゲーム好きな人やから、面白いゲームとか、クリスマスまで待てずに普通に買っちゃうのよ。だからゲームもだめ。
サンタクロースも困ったんやろね、俺が中学生になってからは、プレゼントの毛色がクリスマスぽくなくなってきてさ。中一のときは、なんか天体望遠鏡が届いたの。俺、別に天体観測にそんな興味はないんやけど、まあでもせっかくやから気を使って弟とか誘って数日は月とか見てたんやけど、すぐ使わんくなって納戸行きでな。だから翌年は反省したんやろね、確実に楽しんでもらえるものを、てことで、当時発売されてたぶんのワンピース全巻が届いたんよ。これは嬉しい。ワンピースてすごくない?もう20年も前よ。まだ最前線で連載やってんやからね、もう、今は全巻プレゼントなんて無理よね、110巻も出てるから、そんなんもうサンタも予算オーバーよ。かえってあの時代やからできたプレゼントやね。たぶんアラバスタに入ったかどうかくらいまでの巻がね、あ、アラバスタて言っても君らにはピンとこないのね。
で、そういうわけで迎えた最後のクリスマスプレゼント。俺が中三、弟が小六。正真正銘我が家のサンタクロースの仕事納めよ。もうこうなってくると、こっちも違うワクワクがあるわけ。天体望遠鏡→ワンピース全巻ときて、次はなんなんだ?受験を控える中三の息子、あ、息子て言っちゃった、に最適なプレゼントとして、サンタクロースシステムは何を用意してくれたのかなって。当日、リビングに行くやん。プレゼント置いてある。包み紙の色でだいたいわかるんよ、赤色系統のはお姉ちゃんのね、黄色っぽいのは弟、て、青とか緑っぽいのは俺用。あ、これやな。そんなにおっきくないな、でも、持ったらずっしり重みがあるんよ。で、何か固い。箱みたいな感じ。何やろ、と思って開けてみたらさ。
なんやったと思う?クイズにしてもいいんやけどな、どうせ君ら大人しいから、ポンポン答えてくれへんから言うけどな、ほんまびっくりするで。
麻雀の牌が入ってたんよ。
いやいや、俺麻雀したいなんて一切言ったことないから。もうね、びっくり。綺麗な光沢のあるクリスマス感満載の包み紙開けたら、なんか漢字びっしり書いてある箱出てくるんやから。だから、あれよね。サンタクロースもこれで店じまいやから、最期に自分らも参加して楽しめるアイテムを用意したやろね。そんなん、俺も応えるしかないやん。うわー、麻雀てどんなゲームか興味あってん!最高やん、言うて、父さんやり方教えてーやーって。で、クリスマスの朝から家族でジャラジャラやって。
でもこれがえらいもんでさ。まあサンタがやりたかったことやからやろうね。それ以来休日の団欒の定番といえば麻雀になってさ。家族が揃った日は大概やってたし、みんな大学生、社会人になって家を出ていっても、年末年始になったら必ず麻雀して、我が家の風物詩みたいな感じになってさ。多分、今年も俺も仕事納めしたら、実家帰るけど、やるんちゃうかなー。今ではお姉ちゃんは結婚してるから、旦那さん、俺の義理のお兄さんね、も一緒に入ったりして。で、今もその麻雀牌を使い続けてるんよ。これ、すごくない?もう20年よ?20年使い続けられるクリスマスプレゼントてすごくない?なかなかないと思うんよな。
まあ、君らのご家庭のサンタクロースシステムがどんなんかわからんし、そもそもシステムが採用されてないご家庭もあるやろうけど、今にして思うと、うちのサンタさんも色々考えてくれてて、意外なもんが今に繋がってるなーって。今年は君らも受験やし、ひょっとするとそこまで賑やかなクリスマスじゃなかったかもしれんけど、またこの先のことで、あるいはこれまでのことで、ずっと続く思い出になるようなことがあるかもしれんからね。俺も当時は何で麻雀牌やねん、クリスマスに中華風のものはあわんやろ、とか思いましたけど、そうなってるんでね。
要するに何の話かっていうと、親子関係仲良くできたほうがいいよってのと、サンタクロースシステムは素晴らしいシステムやから、俺もそのシステムを継承するのにやぶさかではないんやけど、いかんせん人の親になる前のその条件をクリアするのが難しいねんな、って話ですね。よし、君らもどういう表情したらいいかわからんくなったところでそろそろ真面目に授業やりましょか。
じゃあまず八ページ開いてー。