ジョージア映画「祈り」
「祈り」(テンギス・アブラゼ監督/1967年/白黒/78分)がジョージア映画祭2024の一環で上映されているのを2024年9月18日(水)、東京・渋谷のユーロスペースで観た。
ジョージアの北東部、コーカサス山脈の厳しい山岳地帯で暮らすキリスト教徒とイスラム教徒、村同士の因縁の対立を通して、人間の愚かさと過ち、それらを超える精神を白黒の荘厳な映像で描いている傑作だ。
国民的作家V・プシャヴェラの叙事詩が原作。
白黒の映像で描き出されるシーンはどれも重厚で深みがある。白と黒というのが映画のテーマである善と悪、光と影を表しているかのようだ。
また、セリフの一つ一つが詩のようで、実に美しい芸術にまで昇華した映画。全編を通して流れている音楽も映画にさらなる重みを加えていた。
映画の冒頭に次のようなセリフがあるー「人の美しい本性が滅びることはない」。これはアブラゼ監督の人間への信頼を示していると思う。
キリスト教徒とイスラム教徒が反目しあうが、個人として戦った相手を敬う気持ちが生じたり、それによって勝利の儀式としての右腕切断をしなかったり。対立のうちにも存在する人間としての感情が描かれる。
この映画は約20年の歳月をかけて発表された「祈り 三部作」の一作目。
ジョージア映画祭の主宰者はらだたけひでさんは、この3作品は「人間と社会が永遠に抱える不条理、野蛮な本性や社会がもたらす暴力を異なる視点で描いて、人間性を虐げるものを告発しています」と著書「グルジア映画への旅」(未知舎)で書いています。
続けて「そして各作品は倫理的志向、叡知への希求、叙事詩性において至高の領域に達しています」とした。
映画パンフレットによると「人間の内面的な葛藤を描き、最後の聖女の処刑によって悪が勝利するようにも思える。しかし次のカット、聖女の歩む姿に善が不死であると予感させ、一種の希望を残す」。
軽いか重いかと言えば重いし、明るいか暗いかといえば暗い映画だ。しかし、観終わった後、何か希望を感じさせる作品でもあった。
そこが不思議である。