「Now and Then」について
【スピリチュアル・ビートルズ】ビートルズの新曲として「Now and Then」が2023年11月2日(木)に発売されることになった。
プロデューサーのジャイルズ・マーティンは「これはジョンからポールへのラブレターだ」と述べている。
ビートルズ・ファンとしてはうれしい言葉だ。
でも本当にそうなのだろうか?この曲をジョンがホーム・レコーディングしたのは70年代後半なので、その頃のジョンの頭の中にはショーンとヨーコのことしかなかったのではないか。
歌詞を見ていこう。
I know it's true そう、僕は本当だって分かっている
It's all because of you それは君ゆえに
And if I make it through もしやり遂げることが出来るなら
It's all because of you それは君ゆえに
And now and then (Ah-ah) あの頃と今
If we must start again (Ah-ah) もし僕たちが再出発出来るとしたら
Well, we will know for sure 僕らはきっと気づくだろう
That I love you 僕は君を愛しているってことを
I don't wanna lose you, oh no, no 君を失いたくない
Abuse you or confuse you 君を悪用したり、混乱させたりも
Oh no, no, sweet darlin' したくないんだ
But if you have to go away でももし君が行かなきゃいけないのなら
If you have to go もし君が行かなきゃならないのなら
well you the reason
Now and then あの頃と今
I miss you 君が恋しい
Oh, now and then あの頃と今
I want you to return to me 僕は君に帰ってきてほしい
'Til you return to me そう願う、戻ってきてくれるまで
素人訳なので勘弁願いたい部分もあるが、どうだろうか?
確かにジョンがかつてのパートナーであるポールに向けたと思えば、そう思えてくるような歌詞ではある。またそう思いたい自分もいる。
繰り返しになるが、この曲が録音されたころのジョンの生活を占めていたのは息子ショーンとヨーコだった。再出発という言葉がある。「(Just like)Starting Over」のようである。あの曲はヨーコに向けて書かれた。
まだ5歳になるかならないかというショーンに「Then」つまり「あの頃」と語りかけるのは無理があるかもしれない。
普通に考えれば、これまたヨーコへのメッセージだろう。ポールらに同じ時に託された「Free as a bird」と「Real Love」。これらもヨーコに向けてもともと書かれたのだろう。それが普通の考え方だと思う。
「Grow old with me」も提供曲に入っていたようだが、これはブラウニングという詩人の作品をモチーフに書かれたジョンからヨーコへの究極のラブソングだった。この曲のジョンのバージョンは『Milk and Honey』に収録されており、のちにジョージ・マーティンがオーケストレーションを施した。リンゴもこの曲をカバーしている。
さて、話を「Now and Then」に戻そう。
まあ、解釈はそれぞれ人によって違うのは当然だ。確かにジョンからポールへのラブソングって夢がありますね。ジャイルズは「先出しじゃんけん」をしてしまったと思う。私たちに考える時間を与える前に。
ポールはジョンに「恋していた」のは事実だろう。死後、折に触れてジョンへの気持ちを明らかにしている。
ジョンの「失われた週末」時代のパートナー、メイ・パンは74年の初めに、ニューオリンズで『ビーナス・アンド・マース』のレコーディングをしているポールをジョンとともに訪ねるつもりだったと話している。
しかし、実現しなかった。ヨーコは他の女性よりも誰よりもポールのことを「警戒」していたとメイは語っていた。つまり、「ジョンがポールのもとに戻ってしまったら、もうヨーコのもとには戻らないだろう」と。
ファンとしては複雑だ。レノン=マッカートニーの楽曲をもっと聞きたかった。二人がハモルのをまた聴きたかった。
一方、ショーンが生まれて幸せそうだったジョンのことも思う。ジョンが自らの幼少時代やあまり相手を出来なかった最初の息子ジュリアンのことから、ショーンを大切に育てたジョン。それもまた幸せのひとつのカタチだったと思うからだ。
もう一つ興味深いエピソードがある。
こちらは「now and then」ではなく「every now and then」がらみの話だ。後者は「時々」とか「折にふれて」という意味である。
2023年10月26日付「PEOPLE」誌のウェブ版によると、ポールがジョンとダコタ・アパートで最後に会った時、ジョンはポールの肩を叩いて次のように言ったというー「Think about me every now and then, old friend」(時々は俺のことを思い出してくれよ、古き友よ」。
ジョンの死から2年と経たない82年にリリースされる『タッグ・オブ・ウォー』のセッションに参加したカール・パーキンスは即興で歌を作ったが、それがポールを泣かせてしまった。
その歌のタイトルは「My old friend」だった。歌詞にこんな部分があるー「My old friend, won't you think about me every now and then」(古き友よ、時々は俺のことを思ってくれよな」。
ポールにジョンの最後の言葉を思い出させてしまったのだ。
ビートルズ最後の歌が「Now and Then」。ジョンの言葉にあった「Every now and then」ではないが、ポールには何か感じるところがあったのかもしれない。興味深いエピソードである。
さて、ここで経緯を振り返っていきたい。
90年代には、ジョンの残したテープをもとに、ポール、ジョージ、リンゴは新しいパートをレコーディングし、当時のプロデューサーのジェフ・リンとともに「ナウ・アンド・ゼン」のラフ・ミックスを完成させていた。
しかし、その時点では曲を仕上げることが技術的な困難により仕上げることが不可能だった。そして 、将来再び作業を行う可能性をはあったが一旦、お蔵入りとなった。ところが、映画「ゲット・バック」のピーター・ジャクソン監督らによるチームは、ジョンのオリジナル・レコーディングに映画で使ったのと同じAI技術を適用し、ジョンの声をピアノの音からきれいに分離することに成功した。
2022年になると、ポールとリンゴはこの曲を完成させようと作業を開始。ジョンのボーカルに加えて、ジョージが1995年に録音したエレクトリック・ギターとアコースティック・ギター、リンゴの新しいドラム・パート、ポールのベース、ギター、ピアノが含まれている。ポールはスライド・ギター・ソロを加え、リンゴとともんみバッキング・ボーカルも担当。
ロサンゼルスで、ジャイルズ、ポールらによって書かれたストリングス・アレンジがポールの監修のもとでレコーディングされた。
さらにポールとジャイルズは「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」、「エリナー・リグビー」、「ビコーズ」のオリジナル・レコーディングのバッキング・ボーカルを、新曲に織り込んだ。
ポールは次のようにコメントした。「ジョンの声が、とてもクリアに聞こえる。かなり感動した。僕たち全員が参加した本物のザ・ビートルズのレコーディングだと言える。2023年にまだビートルズの音楽に取り組んでいて、一般の人々がまだ聴いたことのない新曲をリリースしようとしているなんて、本当にエキサイティグなことさ」。
リンゴは「ジョンが部屋に戻ってきたかのようにジョンに一番近づいた瞬間だったので、僕たち全員にとって、とても感慨深かった。まるでジョンがそこにいるようだった。斬新だった」と話した。
オリビアは「95年当時、スタジオで数日間この曲に取り組んだ後、ジョージはデモの技術的な問題を克服できないと感じて、この曲を高い水準で仕上げることは不可能だと結論づけました。ダニーと私は、もしジョージが今ここにいたら、ポールとリンゴとともに心を込めて“ナウ・アンド・ゼン”を完成させたに違いないと確信しています」と話した。
ショーンは話した。「父がいなくなって何年も経ってから、彼らが一緒に仕事をしていると聞いて、ものすごく感動しました。この曲は父とポール、ジョージ、リンゴが一緒に作った最後の曲です。この曲はタイム・カプセルのようなもので、運命的なものだと感じています」。