映画「高野豆腐店の春」
穏やかで優しい時間が流れている映画だ。昔ながらの人と人の触れ合う場所が生きているー豆腐屋、床屋、食堂、喫茶店。時代の波に抗いながら、大切にしている何かがあるーこの映画の魅力はそこにあると思う。
広島・尾道の高野(たかの)豆腐店。大豆と水とにがりだけでコツコツと作られる豆腐のように、淡々とした日々の生活にこそ、人々のしあわせがあると思わせてくれる映画が「高野豆腐店の春」(2023年/120分)。2023年8月18日(金)に全国ロードショーとなる。
豆腐屋の主人・高野辰雄を演じる藤竜也がいい。その娘・春は、藤と26年ぶりの共演となった麻生久美子。中村久美、徳井優、菅原大吉、山田雅人、竹内都子、赤間麻里子、宮坂ひろしらベテラン勢が脇を固める。
主演の藤と三原光尋(みはら・みつひろ)監督は、第8回上海国際映画祭・最優秀作品賞と最優秀主演男優賞を受賞した「村の写真集」(2003)、「しあわせのかおり」(08)に次いで3度目のタッグを組む。
三原監督はもともと豆腐好きだったという。
「近所のスーパーの向かいに、昔ながらの豆腐屋があるんです。おじいちゃんとおばあちゃんが、毎朝5時頃から豆腐を作っていて、ある日、撮影に向かう途中で豆腐を作っている姿を目にしたとき、ふと、この人たちは豆腐を愛しているんだろうなぁと思った」。
「豆腐は、水と大豆とにがり、そして職人の腕で作られる。限られた素材で勝負しているのは、とても恰好良くて、そこに生き方の美意識を感じました。彼らが豆腐を作る姿と、自分が映画を作る姿が重なって、藤竜也さんが演じる豆腐職人の姿が自然と浮かんできた」。
そして、アルタミラピクチャーズの桝井省志(ますい・しょうじ)プロデューサーは言った。「予算はないが、志の高い日本映画を作ろう(という)時代遅れの映画人たちの時代錯誤のチャレンジ」だった。
タイトルの後に続く尾道の風景はかつての日本映画を想起させてくれる。例えば、石灯篭は小津安二郎監督の名作「東京物語」を思い出させる。さりげなく、日本映画の伝統へのリスペクトを示したのでないか。
親と娘のそれぞれの新たな出会いが、尾道の春風とともに、胸いっぱいの優しさと、あたたかい涙を運んでくる素敵な映画。そのエンディングテーマの担当が、伝説のバンド「ザ・ゴールデン・カップス」のギタリスト・ボーカルのエディ藩だ。新録音の「9o'clock」をギターで聴かせる。
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