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神宮外苑再開発今とこれから

 先月行われた東京都知事選で神宮外苑再開発問題が大きな争点になるかと思いきや、肩透かしを食らったと感じた人も多かっただろう。
 小池百合子知事は「止まっているので争点にはならない」と話した。
 果たして止まっていることは将来にわたり神宮外苑の木々が守られることにつながっていくことを意味するのか。
 あるいは違法すれすれ、裁量権の乱用を通じて、あくまでもビジネスのための、明治神宮の懐を豊かにするための「猶予」なのか。
 現在のプロジェクト案では、神宮外苑には3メートル以上の木が1904本あるが、うち伐採されずに残るのは886本に過ぎない。
 2024年7月31日(水)、緊急勉強会「神宮外苑再開発の今とこれから」が東京都体育館第一会議室で開かれた。
 まず冒頭、主催の「神宮外苑の緑と空と」から大橋智子さんと角井典子さんが開会のあいさつに立った。

大橋智子さん(右)と角井典子さん


 大橋さんは言う「これからを心配する声があります。選挙で外苑について結論が出たわけではありません。私たちは事実を知る必要があります」。
 「外苑ウォークというのをやっています。これからどこにどれくらいの規模の建物が建って、どこの木が切られるのか、自分の眼で見て、また果たして移植が出来るのか、自分で考えてもらいたい」。
 「何が最善の方法か判断する必要があります。ただむやみに樹木を切るなと言っているわけではありません。他に方法がないのか、ということも含めて考えるところがあります」。
 次に角井さんがあいさつをした「ちょうど10か月前の昨年9月、東京都はラグビー場に関する樹木保全案の見直しをするように要請した。10か月あまり保留になっている。しかし、当時と状況は何も変わっていません。神宮の緑に存亡の危機が迫っていることには変わりありません」。
 「単に世論の様子を見ながら保留しているだけです。都知事選が終わって、大きな局面が動こうとしているのです」。
 そして本日の講演者である都市計画の専門家である大方潤一郎東京大学名誉教授の話となった。

大方潤一郎・東京大学名誉教授


 「これは民間の再開発事業ではありません。おカネを出すのは民間ですが、計画しているのは都です」。
 「神宮外苑は都市計画で決められた公園で、その一部を外してそこに超高層オフィスビルを建てて、そのおカネを使って明治神宮を楽させようということなんです」と大方名誉教授は話す。
 大方名誉教授は公園というのは民間のものだからといって何でも勝手に建てていいというモノではないという。
 「我々の責務は緑を次の世代に渡して100年、200年守っていくということ、それは明治神宮の責務であるし、東京都の責務でもあります」。
 「緑の理想というのは枝が伸びて緑のトンネルが出来てヒートアイランド現象を防ぐ。5度から10度温度が下がるんです」
 また、グランドデザインをどうするかなど、都と明治神宮が密談で決めて進めるというのはよくないことだと話した。
 「多くの人が納得するかたちでデザインを決めていくことが重要な場所なのです。今回のプロジェクトではまとまった緑、オープンスペースともにだいなしにしてしまいます」。

神宮外苑


 戦後、外苑の跡は一旦米軍に接収された。
 接収が終わると、明治神宮に当時国有地だった土地を無料で貸すことは政教分離に反するという話になったが、1957年に払い下げられた。
 とはいえ、アマチュアスポーツの存在する公園ということで、「国民から委託された場所なんです」と大方名誉教授。
 これから重要なのはこのエリアが「風致地区」だということだという。
 この地区では最高でも15メートルを超える建物は建てられないし、なるべく緑は残さないといけない。緑化率30%は最低でも確保する必要がある。例外措置はあるが、「その例外を悪用して180メートルのオフィスビルを建てられるようにしちゃったのが今回です」。
 特例的に区長がルールを緩和することが出来るという。
 大方名誉教授によると、「裁量的な運用基準なんです。そして都が新宿区と港区に要請して、そのような(15メートル超えの建物が建てられるような)基準を作ってくれとお願いしたのです」。
 また文教地区でもあって、本来ホテルなどは建設してはいけない。それが建っているのは都知事が例外的にOKしたからだという。
 神宮外苑再開発について関係6者(当時)による合意書が作られたのが2016年7月22日のこと。これは一切議会にも示されなかったし、つい最近まで開示されることがなかった。秘密裡に交わされたのだ。
 (これは2021年の東京五輪のあと、残った4者の間で確認に取り掛かって取り組もうということになっている)
 「2020年1月から(都の)公園まちづくり制度が始まったが、これに応募する前に外苑再開発に参加する事業者が「こうやって環境アセスメントを進めます」という願い書をすでに出していました。かなり詳細な開発計画は都がまちづくり制度を出したら、すかさず提出されている」。
 2022年2月11日に都市計画審議会が開かれたが、その時点で大半のことが「決まっちゃっていた。そして3月に小池知事が告示したのですが、その後の4月15日に公聴会が開かれた」と大方名誉教授。
 「審議が途中なのに都市計画決まっちゃってる。すさまじいやり方」。

会場の風景


 「事業に着手し、樹木伐採のための届け出などがなされたが、市民から反対の声が上がり、(音楽家の)坂本龍一さんから反対の手紙が届き、サザンオールスターズが反対の歌を作り、ユネスコの諮問機関イコモスが警告文(レッドアラーム)を出したんです」。
 そこで2023年夏、都は事業調査書を早く出せと促す一方で、届け出は出したかもしれないが、それまでは木は切るなというスタンスになった。
 環境アセスメントの審議も保留になっている。届け出は出ているが、事後評価報告が順次出てくるものとみられている。これを受けて環境アセスメント審議会がどのように審議していくのか。
 「私は再開発を止めろと言っているわけではない。オフィスビルや野球場やラグビー場を新しくすればいいってもんじゃない。重要なのは樹木なんです。緑のトンネルを作っている立派な木々です」。
 大方名誉教授は提案として、長年使われて来た野球場、ラグビー場なんですからそれを守りながらバリアフリーにしたらいいというが、「事業者は今の計画を押し通したいから、そういうことはやりたくないという。神宮外苑の緑の維持をあきらめろってことなんですね」と話した。
 「決定的に重要な局面にさしかかっています。そこに我々の意見が伝わるようにしなければいけません」。
 

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