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神宮外苑JSCヒアリング

 イチョウ並木をはじめとする樹木の伐採予定などが問題化している神宮外苑再開発について日本スポーツ振興センター(JSC)による公開ヒアリングが2024年9月17日(火)、参議院議員会館101会議室で開かれた。
 開発全体の原則といった大きなところから手続きといった詳細に至るまで多くの質問が住民らからなされた。
 それに対するJSC側の説明は具体性に欠けて曖昧なままに終始した。住民らからは怒りの声が度々上がった。
 独立行政法人JSC建設部の三本英人・企画調整役とJSCを所管するスポーツ庁政策課の富田浩之・課長補佐らが出席した。
 進行役は日本共産党の吉良よし子参議院議員。

吉良よし子参議院議員(右から2人目)


 今回のヒアリングは、9月9日に三井不動産、JSC、明治神宮、伊藤忠商事の4事業者が共同で発表した再開発計画の見直し案を受けて行われた。ヒアリングは質疑応答も含めておよそ2時間に及んだ。
 見直し案の骨子は〇伐採する樹木の数を743本から619本へと減らす〇植樹を計画の837本から261本増やして1098本にする〇新ラグビー場など施設の形や位置を一部見直すーーなど。

神宮外苑の4列イチョウ並木


 これに対してまず、住民側から4名がマイクを持った。
 渋谷区千駄ヶ谷在住の角井典子さんは「伐採樹木を調整しただけで緑の保全に関しての本質は何ら変わっていない」と述べた。
 移殖で保存するというが、「具体的な移殖方法が示されるべき」と指摘、「単に樹木を増やせばいいというのでなく大切なのは質」だと話した。
 そして、「世論操作の効果を狙っているのではないか」という。
 さらに問題として指摘したのは「野球場の配置などが全く示されていないこと」。また現在秩父宮ラグビー場へのアプローチにある18本のイチョウも移殖対象だが、それについても触れられていないと話した。

ラグビー場へのアプローチにある18本のイチョウ


 「今回の数字合わせの伐採計画で、(事業者側が)何か大きく譲歩したように報じられているが、小手先の見直しに過ぎない。本気で見直しをしてもらいたい」と角井さんは訴えた。
 続いて新宿区民の大澤暁さんから再開発計画による、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の排出への影響についての質問があった。
 「再開発事業におけるCO2排出量は大きなテーマだと思うんです」。
 大澤さんによると、2022年のプレスリリースでは、すべての建設中の事業に関してCO2を計算して出すと言っていたのに、今のところラグビー場建設に関するものだけを出すという。
 「子どもたちの未来のため持続可能な社会を作っていくことが重要」で、この再開発に関しても同様の視点が必要だとした。
 JSC三本氏によると、再開発地域全体で年間4万7千トンのCO2が排出されると試算されているという。これについて「工事中のCO2排出も試算するのが海外では常識だ」との声が上がった。

秩父宮ラグビー場は築76年か?
 大林聖弥さんはラグビーファンの立場から秩父宮ラグビー場の解体と立て直し計画について疑問を投げかけた。
 秩父宮ラグビー場は建てられてから76年経っており老朽化が進んでいるので立て直しが必要といわれてきた。
 だが大林さんは「76年というのはもともとの東京ラグビー場が建てられてからのことで、スタンドについては、例えば北スタンドは1988年に造られたもので築35年なんです」という。
 「何で76年という数字を繰り返すかというと、建て替えなければいけないと言いたいがためだからではないでしょうか」。
 「こういういいかげんなことをやっている事業者を認可していいのでしょうか」と大林さんは問いかけた。
 JSCの三本氏は「耐震上は大丈夫だとしても、設備、利便性、バリアフリー対応から老朽化を何とかしなければいけないと判断している」と話した。
 ただ、築76年という数字については「修正を検討する」という。

ヒアリング会場の様子


 さらにもう一人、岩見良太郎さんから専門である都市計画の視点からのコメントがあった。「公園を対象に再開発を企てていることから様々な無理が生じている」のだという。
 「都市公園を対象とした市街地再開発というのは前代未聞です」。
 東京都は公園と街づくりは両立しうると説明しているが、これはあくまでも開発が目的だという。例として、容積率が400%から700%に引き上げられたことや、ラグビー場が公園地域から除外され高層ビルの建設が可能となったことなど開発のために様々な手が打たれてきたことを指摘した。
 「ホテル付きの野球場なんてのは、イベントにコンセプトの軸足を移したということで、つまり稼げるようにっていうことで、公園の健全な発達を歪めていくと思います」と述べた。
 ここから事前にJSC側に伝えてあった質問への回答に移った。
 秩父宮ラグビー場や神宮球場等の建設計画の詳細、樹木の移殖・新植の具体的内容・計画をいつ示すのかとの質問に対して、JSCの三本氏は「PFIが進めているところで現時点では未定」と述べるにとどまった。
 PFIとは「民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法」のことで今の再開発では三井不動産を指すものとされる。

秩父宮ラグビー場


 続いての質問は「新ラグビー場の建設計画の変更は、都市計画決定や市街地再開発事業の施工許可の前提となった企画提案や施工認可申請の内容と大きく異なるのではないか。都市計画決定や市街地再開発事業の施工認可との関係はどうなるのか」というもの。
 JSCの三本氏は「異なっている部分については法令に従って必要な変更を行う」と答えるのみだった。
 次の質問は「公表文書にある「セカンドオピニオン」は、4列イチョウ並木の西側1列の調査と保全策を対象とするものであり、その他のエリアの樹木を対象としていない。JSCとして新ラグビー場整備が周辺の樹木に与える影響についてセカンドオピニオンを求めるべきではないか」。
 これについて三本氏は東京都の環境影響審査を終えているので「改めてセカンドオピニオンを求めるつもりはない」とした。

神宮外苑イチョウ並木の説明書き


 住民説明会は9月28日に新宿区、港区住民のみを対象に行われる予定だが、専門家との協議を行う考えがあるかと質されたのに対して、三本氏は「事業者としては審査会で対応してきたので、今後行政手続きの中で適切に対応してゆく」と述べ、行わないという考えをにじませた。
 またJSCが財産処分の申請を行う際の段どり、権利変換計画と財産処分の申請時期との時期的関係といったかなりテクニカルな事柄についても三本氏とスポーツ庁の富田氏に質問が多数あった。

スポーツ庁の富田浩之氏(左)とJSCの三本英人氏(マイク)


 出席者からはこの再開発というのは結局「高層ビルの高度利用と大きな施設の建て替えが主目的で、緑の整備というのはそのための言い訳だと思っています。その構図は全く変わっていない」との声があった。
 またこの再開発は「当初区画整備の方法でやるといっていたのが市街地開発に変わった。ここには伊藤忠、三井不動産の利益がからんでいると推測できます」という話も出た。
 神宮外苑再開発は、神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を変えて建て替え、超高層ビルを2棟新たに建てる計画だ。
 この再開発をめぐっては、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関イコモスが、ヘリテージアラートを発したほか、故坂本龍一さんら著名人や市民からも環境破壊だとして反対の声が上がった。
 樹木の伐採は昨年9月に予定されていたが、大量の伐採への反対の声が上がる中、東京都が計画の見直しを事業者に求めていた。
 事業者は今後、都の環境影響評価「環境アセス」審議会に見直し案を提出して、住民説明会を開く運びとなっている。

 
 

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