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"ミス・オーデル"とビートルズ

 ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ジョン・レノン、ポール・マッカートニーというビートルズの4人と身近に接し、そしてジョージの妻だったパティとリンゴの元妻モ―リーンと幾多の試練を乗り越えて変わらぬ友情を保ち続けた女性がいる。
 それはクリス・オーデルである。
 彼女はロサンゼルスでビートルズの広報マン、デレク・テイラーと知り合い、1968年に英国に渡り、それから約2年間、アップルの秘書として働いた。グループ解散後もジョージのアシスタントをしたことがある。
 クリスはアーティストの創作意欲を刺激したミューズでもあった。
 ジョージはクリスから電話がかかってこないことを題材に「ミス・オーデル」という作品を書いた。
 クリスがアップルで働き始めたのは68年5月のこと。ポールは笑顔を見せて挨拶したが、クリスは緊張のあまりその場で固まってしまった。その頃のポールは毎日のようにオフィスにやって来て、みんなに声をかけて回ったりして、長時間過ごしていたという。
 そして初めて会ったジョージは驚くほど「超魅力的」で、アップで見ると「超男前」で、やや片側に寄った笑みは「信じられないほどセクシー」だった、とクリスは「ミス・オーデル~クリス・オーデル回想録」(レインボウブリッジ刊)で記している。


 クリスは「ビートルズと過ごした期間に、私は音楽が生まれる魔法の瞬間に幾度も居合わせました」という。
 彼女は69年1月30日のアップル本社ビル屋上でのいわゆる「ルーフトップ・コンサート」などを挙げた。
 ビルの構造が弱く全員は屋上に上がれないといわれていたが、広報担当トニー・バーロウの「アシスタント」として許可されたという。
 そしてポールが「ゲット・バック」で「ジョジョはアリゾナのツーソンの家を出た・・・戻るんだ、元いた場所へ」と歌っているのを聞き、「私は、彼らが私を排除しようとしているのだと思った」。
 というのもっクリスはツーソン出身なのだ。


 クリスはアップルで働いていた期間の最後の数か月、ロンドン郊外のフラーアー・パークでジョージとパティと一緒に暮らした。
 そこでの生活は、朝食はたいていポリッジ(オートミールを使ったおかゆ)で卵、そしてお茶だったが、それが終わるとジョージは着古したシャツとズボンという姿で、庭いじりをして過ごしていた。
 昼間はキッチンでよくギターを弾いていた。
 ビートルズの4人の絆にほころびがはっきりと見えたのは、アラン・クラインが69年2月にアップルに介入してからだったとクリスはいう。
 クラインを推したジョン、ジョージ、リンゴと反対したポールとの間に溝が出来てしまった。アップルのオフィスに頻繁に顔を出していたポールもほとんど来なくなった。
 そしてポールからクリスは「ジョージ陣営の人」だとみなされてしまい、ポールとは疎遠になってしまったという。
 クリスは70年4月10日、ポールが抜き打ちで「ビートルズ脱退宣言」ととられるコメントをプレス用に出したのをデイリー・ミラー紙がすっぱ抜いた日のことをはっきりと覚えているという。


 ジョージは世間の人と同じく新聞を読んで「ビートルズの終焉」を知ることになり「激怒」していた。その日のうちにジョンがオフィスに立ち寄り、ジョージと何か話し合っていたという。
 ヨーコ・オノが横にいないジョンを初めて見たとクリスはいう。
 クリスによると、ジョージは相当な「すけこまし」だった。ジョージはリンゴの妻モ―リーンと不倫をしていたという。
 ある冬の日の朝、ジョージはフラーアー・パークでクリスに「モ―リーンに恋している」と告白した。
 後日、リンゴにもその気持ちを伝えたという。するとリンゴは「どこの誰か分からない奴より、君の方がましだよ」と答えたという。
 74年初めにジョージの親友エリック・クラプトンがパティと親密になったことを告白された後のことだが、ジョージはクリスに「ロサンゼルスに行ったら、ダーク・ホース・レコードの秘書だったオリビアの写真を撮ってきてくれ」と頼んだという。
 ジョージとパティは77年6月に正式に離婚。翌年9月、オリビアと結婚する。パティと親密になっていたクリスは複雑だったようだ。ただ、クリスが見ても、オリビアといる時のジョージは幸せそうで、やきもちが焼けるほどだった。
 74年にクリスはリンゴと深い仲になってしまった。頭がよく直観力に優れた妻のモ―リーンは感づいて、クリスは不倫を認めざるをえなかった。
 クリスは、モ―リーンこそ最初にジョージと不倫して問題の種をまいたのではないか、と自分を慰めたり、あんな気持ちにさせたリンゴにも責任があるのではないか、と考えたという。


 74年秋から冬にかけてのジョージの北米ツアーではジョンとポールがそれぞれショーを見に来た。ツアー終了5日前のナッソー・コロシアム公演をジョンと愛人メイ・パンが訪れた。
 クリスは二人と一緒に見ていたが、「ジョンは笑顔を絶やさず、ずっと足で拍子をとっていました。自分の弟がタッチダウンを決めるのを鼻高々に見ている兄貴のようだった」と回想した。
 そのコンサートの後、ホテルにジョージとジョンがいたが、そこにリンゴとの離婚が正式に決まったばかりのモ―リーンが加わったという。モ―リーンが話すことといえばリンゴのことばかり。
 一方、ジョージとジョンは昔話に興じていた。
 ツアー最終日にポールとリンダがマディソン・スクエア・ガーデンにやって来た。クリスは記したーー二人は「かつらや化粧で変装していた。ポールは偽のヒゲをつけていた」。


 ジョージは過去にこだわって生きるのが嫌いだったが、ポールは「自分の過去はファンにとって非常に重要であることを認識していた。同じ質問に答え続け、同じ音楽を演奏し続けています。ポールはビートルズにとって最高の宣伝マンです」とクリスはいう。
 クリスはポールが歌う「ゲット・バック」に従ったのか(!?)、故郷アリゾナのツーソンの戻り暮らしているという。

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