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映画「アリラン・ラプソディ」
戦争に翻弄され、生きる場を求めて幾度も海を往来し、たどり着いた川崎でささやかに、たくましく生きてきた在日一世たち。
波乱万丈の人生を歩み、故郷・朝鮮半島への思いもかたくなに封印してきたが、老いてようやく文字を学び、歴史を知り、静かに力強く生きている。
ハルモニたちは、戦争を語ることが出来る最後の世代。
今、語っておきたいことは何か?
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撮影に行くとまずキムチとご飯をごちそうになる金聖雄監督。
想像を絶する苦労ーそれは政治に翻弄された人生、経済的な苦労のみならず日本社会における彼女たちへの偏見や差別もだーを、シワいっぱいの笑顔で語るチャーミングなハルモニたちが次々に登場する。
ハルモニたちの証言はいわば写真のネガー「裏日本史」ともいえるような日本の普段見せない顔ーを浮かび上がらせる。
それはヘイトデモに見られるように今日も変わっていないようだ。
「日本人と同じく私達も税金を払っている。でももらえるものももらえない」。そんなことも笑いながら話す在日一世のハルモニたち。
では祖国に帰れるのか?帰れないという。北朝鮮へは往来すら出来ない。韓国へ帰国しても暮らしていけない現実があるという。
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戦後、200万人を超える朝鮮半島の人々が海を越えて日本にやって来た。そのうち、およそ60万人がさまざまな理由で帰ることが出来ずに「在日」となることを余儀なくされた。
さらには戦後、93000人ほどの人々が北朝鮮に渡った。やがて分かったのは自由な往来すら出来ないということだった。
2023年6月末現在、在日朝鮮・韓国人は約44万人で、うち「在日」と呼ばれる韓国・北朝鮮籍の「特別永住者」は約28万人。
特別永住者とは、敗戦した日本と連合国諸国との間で結ばれた1951年のサンフランシスコ平和条約により日本国籍を喪失し、66年の日韓法的地位協定で「永住者権」が付与され、91年に日本の国内法の見直しによって「特別永住者」という地位に変わった人たちのこと。
「特別永住者」が一番多いのは東京都で、続いて大阪府と兵庫県。
そして第4位が神奈川県で、約2万9000人の在日韓国・朝鮮人が暮らしている。とりわけ川崎は工場地帯だったため多くの労働者が集まった。
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川崎に生きるハルモニ(おばあさん)たちが主人公の映画「アリラン・ラプソディ~海を越えたハルモニたち~」(2023年)が2024年2月17日(土)から3月1日(金)まで新宿K's cinemaで上映される。
2月17日(土)から23日(金・祝)までは上映開始時間は12時20分から。同24日(土)から3月1日(金)までは午前10時から。
そして3月23日(土)から横浜シネマリン、同29日(金)から京都シネマ、同30日(土)から第七藝術劇場(大阪)、4月6日(土)から元町映画館(神戸)で公開される予定。
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金聖雄監督がデビュー作品「花はんめ」(2004年公開、キネマ旬報文化映画9位)の撮影で川崎に通い始めてから四半世紀。
「ハルモニたちの過去と今をきちんと記録しておかなければ」と、在日二世の金監督が小さな使命を背負って完成させた。
ハルモニたちの「青春」ドキュメンタリーともいえる「花はんめ」の未公開シーン、戦後在日50年史「在日」(98年公開)や戦中戦後の資料映像を盛り込み、ハルモニたちの人生を描いている。
最後は沖縄のおばあちゃんたちとの交流、そして沖縄の歴史が映し出される。彼女らと共通する何かを感じ取ってハルモニたちは涙を流す。
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金聖雄監督は1963年、大阪・鶴橋に生まれた。
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「花はんめ」以降、「空想劇場」(2012)、えん罪をテーマにした作品「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」(2013)で毎日映画ドキュメンタリー映画賞受賞。「オレの記念日」(2022)は、全州国際映画祭、フランクフルト ニッポン・コネクションにも参加。
時間をかけた取材、被写体に寄りそうあたたかな眼差しが国内外で高く評価されている。