見出し画像

「We're all alone」の謎

 来日公演を行っているボズ・スキャグス。彼を代表する曲といえば「We’re all alone」(1976)を挙げる人が多いのではないか。
 美しいバラードである。一方、そのタイトルの意味をめぐっては諸説入り乱れて全く正反対の解釈も可能であるなど謎含みだ。
 ボズのこの曲には当初「二人だけ」という邦題がつけられていた。
 同曲が収められた『Silk Degrees』の吉成伸幸さんによる対訳でサビの部分は「ぼくらはふたりきり、ふたりだけさ」とされている。
 ぼくたちは一緒だというのである。
 かたや、この曲のリタ・クーリッジによるカバーには「みんな一人ぼっち」という邦題が最初つけられていた。
 彼女のベストCD盤「あなたしか見えない~グレイテスト・ヒッツ」の冒頭を飾ったが、立原真砂さんの対訳では「私たちは誰もがひとりぼっち。私たちは誰もがひとりぼっちよ」。
 みんなひとりぼっちだというのである。

どちらともとれるアンジェラ・アキの日本語訳
 日本ではアンジェラ・アキが2009年のアルバム『ANSWER』でカバーした。彼女自身が日本語詞をつけているが、やはりどちらともとれるような原曲の歌詞に難しさを感じていたようだ。
 曲の最後は次のような歌詞で締めくくられているー「人間は皆一人だから、境の無い自由な世界を目指す」「二人で行けば届くよ」。
 ボズ自身は「このタイトルには、直接的で個人的な主題と幅の広い普遍的な主題の両方が含まれると考えたので、両方を同時に表現できることばを探すのに苦労した」と話していた。だが彼はこう付け加えた。「この歌のほんとうの意味は、ぼくにもまだ充分わかっていない」。
 確かにボズが意図しただろう「ぼくたちは一緒である」という意味と「ぼくたちはみんなひとりぼっち」という意味の両方の受け取り方が可能なタイトルになっていると思う。
 矛盾するようだが「ぼくたちはみんなひとりぼっちだけど一緒なのだ」ということではないかと考えている。

肉体が滅びた時に魂は?
 つまり、人間は現世ではそれぞれ肉体を持ち、そこには心ないし魂が宿っている。肉体は明らかに別々だし、心ないし魂はそれぞれバラバラであるようであるから「みんなひとりぼっち」なのかもしれない。
 しかし、この肉体という住処(すみか)をひとたび離れた時に心あるいは魂は肉体と共に滅びるのだろうか。私の答えは否。その時、魂は大いなる「全体」、これを宇宙と呼んでもいいが、そこに戻っていくのではないだろうか。そこでは全体のあくまでも一部になるのである。
 とすれば「みんな一緒」といえないか。
 謎が謎をよぶボズの名曲「We're all alone」である。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?