ガザ侵攻と命の尊厳
イスラエルがパレスチナ自治区ガザに軍事侵攻してからもうすぐ2か月になろうとしている。停戦を求める声が高まっているなか、イスラエルのネタニエフ首相はイスラム原理主義組織ハマスを壊滅させるまで続けると主張。先行きはいまだに分からないうちに、多くの命が失われている。
2023年11月23日(木・祝)、「パレスチナ自治区ガザへの軍事侵攻から考える命の尊厳」と題する講演会が日本キリスト教団東美教会(武蔵野市吉祥寺本町)で開かれた。主催はクレヨンハウス。
講演者は認定NPO法人「Dialogue for People」代表の佐藤慧さんと同副代表の安田菜津紀さん。お二人ともにフォト・ジャーナリストで、中東やアフリカなどでの取材を重ねている。
まずは安田さんからイントロとして次のような話があった。「現在の問題の背景には3000年の歴史があるというけれど、今起こっていることは現在の政治の問題だと理解しています。近現代に何があったのかということを踏まえて、現地のことを紹介していきたい」。
佐藤さんからは「今実際に起きていることに何が出来るのだろうか、日本に暮らしている立場から考えていきたい」と発言があった。
佐藤さんは差別を考える際の「憎悪のピラミッド」というものを紹介した。第一段階は「先入観」による行為、すなわち冗談などがネガティブな感情に結び付いていく。それが「偏見」になる。
その偏見が「差別行為」になって、住居や就職などにおける差別になる。次の段階が「暴力行為」。「国を運営する人たちはそれを利用するために制度化し、それがジェノサイドにつながっていくのです」(佐藤さん)。
安田さんはいう。「ホロコーストの記憶から出発したはずのイスラエルという国家がどうしてああいうことが出来るのか。もともとユダヤ人国家を作ろうというシオニズムが出てきたのは、ナチスドイツがドイツを支配する前の段階でした。当初は宗教色が強い運動ではなかったといわれている」。
「イスラエル建国の当初、ホロコースト生存者たちは冷遇されました。弱さの象徴という扱いだったのです。しかし世界の世論の認識が広がるうちに、イスラエルという国家もホロコースト生存者が生きている国だということにしようとなったのだと思います」と安田さん。
佐藤さんは英仏などの列強がイスラエルを含む現在の中東情勢に歴史的に責任があることを説明した。「かなりの矛盾がありました。自分たちの都合がいいように国境線を区切ったので不自然な直線なのです。そこの文化や人々とは関係なく大国が国境線を引いたからです」。
第一次大戦後、オスマン・トルコ帝国が終焉を迎え、領土をどうするかという話になった。サン・レモ会議でイギリス統治領としてイラクが現在のようなかたちになった。「この背景は石油です」と佐藤さん。こうした大国の姿勢は今の問題と地続きとなっているという。
佐藤さんはイスラエルによるヨルダン川西岸地区の支配はもはや「アパルトヘイト」だという。「2018年、イスラエルに入国してヨルダン川西岸に向かう途中、コンクリートの壁がありました。今ではどんどん延長されている。大部分はイスラエルの管轄下で、イスラエルのゲートをくぐらないと移動が出来ない。これはアパルトヘイトですよ」。
佐藤さんは「放置されてきた。私たちが見過ごしてきたという側面があると考えなければいけない」と言った。
安田さんによると、ヨルダン川西岸地区は:1ーパレスチナ自治政府が一応コントロールしているエリア、2-行政はパレスチナ、治安はイスラエルが担っているエリア、3-行政治安ともにイスラエルーに分かれているという。ヘブロンだと都市部、農村、入植地がそれぞれにあたる。
「占領地域に入植していくのは国際法違反で、国際法を無視している」のがイスラエルだ、と安田さんは訴えた。
おかしなこととして安田さんがあげたのは、ヘブロンの場合、2018年2月には、人口21万人で、イスラエルからの入植者は数百人にすぎなかったのだが、入植者を守るという名目で約3000人のイスラエル人兵士がヘブロンで任務に就いているという。
ヨルダン川西岸地区にはイスラエルが作ったゲートがいくつもあり移動を制限されているので交通網がずたずたにされている。「経済が成り立たない。人々の生活が立ち行かなくなっている」と安田さん。
イスラエルの退役軍人たちのなかには自分たちが行ってきたことに疑問を持つ者もいる。そういう人たちのための「Breaking the Silence」と言う団体があるという。
安田さんは「生まれながらにパレスチナを見下したり、ユダヤ人のほうが優れていると思っている赤ちゃんはいません」と語る。
「レイシズムっていうのは後付けで学ばされたもの。イスラエルは入植者にどんどんお墨付きを与えて、国家ぐるみでレイシズムにお墨付きを与えて、その中での暴力行為だと私は考えました」。
ガザ地区は東京23区の三分のニの面積ですが、そこに220万人が閉じ込められている。食料、水などが到底足りない。トラック数十台の食料では圧倒的に足りない。「そこに爆撃があり、侵攻がある」。
「北部のガザ市は密集している。豊島区の人口密度のおよそ7倍だといわれている。そこが爆撃されたらどうなるか。想像に難くない」と安田さんは悲劇的な現状を憂いた。
日本政府の立場はどうなのだろうか。
上川陽子外相は国会答弁などで「停戦を求めるのか」と聞かれて「外交努力」と「人道支援」を繰り返すばかりだ。安田さんは疑問を呈する。「停戦しないでどうして命を守れるんですかってことです」。
「日本政府は(イスラエルによる殺戮を)やめろ、殺すなと声を上げなければいけません。自分たちが暮らしている日本の政府に何をやっているんだと声をあげていかなければいけません」。
佐藤は言ったーー「戦中の日本のことを考えてしまいます。国のために死ぬことが美化される。イスラエルにもそれが合って、反対するものを非国民だとする。鏡のように今の日本がどうなっているのか突きつけられているような気がするのです」。
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