樋口英明元裁判官が語る
「原発をとめた裁判官」として知られる元裁判官の樋口英明さんが福島の住民たち(当時)が起こした「子ども脱被ばく裁判への思い」と題して、2024年5月19日(日)みなとパーク芝浦で講演を行った。
まず今年初めに起こった能登半島地震について触れ、「珠洲、ここに原発があったら終わりでしたね。仮に動いていなかったとしても事故になっていたと思います」と樋口さんは話した。
珠洲では1975年、原発建設計画も持ち上がり、28年間の住民運動を経て白紙撤回されたという経緯がある。
「もし建っていたら(石川県などだけでなく)日本全国の問題に波及していたと思います。我々は珠洲の住民に感謝しますが、特に感謝を表さないといけないのは政府と電力会社です。政府は国土を失っていたでしょうし、電力会社は破産していたでしょうから」。
能登半島地震で、3.11後停まっていた志賀原発は「動かしにくくなった」。そして同原発をめぐる訴訟について、2012年3月に運転差し止めを求める訴えが提起された。が、「それから12年間、ほったらかされた。もしその間に地震が来たらどうするんですか」。
「地震起きてから判決が出るんですか。遅すぎる裁判は間違った裁判です。(裁判官たちは)厄介なものが来たと思ってるんですよ」。
「本質は、原告たちは、「強い地震が来たら事故になります。だから私たちを助けてください」」ということなんです」と樋口さん。
樋口さんによると、大飯原発(福井県)の差し止め請求訴訟ではそういった原告たちの訴えに対して関西電力は「敷地に限っていえば大きな地震は来ないから安心してください」と言ったのです。
国家賠償請求訴訟と原発差し止め訴訟とがありますが、「みんな原発差し止め訴訟は難しいと思っている。それが脱原発をうまくいかなくしている最大の理由だと思っています」と樋口さん。
「原発の本質というのは、人が管理し続けないといけない。そうしないと暴走するというということです」。
トラブルが起きた場合、「火力発電所ならば火をとめればいいが、原発は核反応を止めても沸騰が続く。そのままだと空焚きになってウラン燃料が落ちてくるので、電気で(冷却するための)水を送り続けないといけない。停電してもアウト。断水してもアウト。福島第一原発は停電で暴走した」。
老朽原発を動かすべきでないのもそういう理由からだという。
2011年3月の東日本大震災・福島第一原発事故の際は「信じられない奇跡がいくつも起こり、東日本壊滅の危機を免れました。被害は想像を絶するほど大きくなる。これが原発の本質なのです」。
樋口さんによると、首都圏に一番近い日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)がもし事故を起こしたら、被害額は約665兆円になるという。それに対して国家予算はおよそ110兆円。「我が国は確実に破産します」。
「日本で原発が許されない5つの理由」として「原発の本質」「原発の耐震性」「日本人の精神構造」「技術力がない」「倫理性がない」ことを樋口さんは挙げた。精神構造に関して、樋口さんは「日本人はあまちゃんなんです。福島事故を経験していながら最悪のことを考えたがらない」という。
技術力のなさの一例として、六ケ所村に14兆円つぎ込んだものの26年も先に完成時期が延期されたが、これは「技術力のなさゆえ」だと話す。
樋口さんは2014年、福井地方裁判所が関西電力大飯原発3,4号機の運転差し止めを命じた際の裁判長。
また翌年、関電高浜原発3,4号機の再稼働差し止めを求めた仮処分申請で住民側の申し立てを認める決定を下した。
分かりやすい論理で「専門家」たちの主張を論破してゆく、基準地震動などについての「樋口理論」で知られ、小原浩晴監督は樋口さんを中心に据えた映画「原発をとめた裁判長」を制作し、今も各地で上映されている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?