アーリー・ビートルズ

 デビュー前後のビートルズにフォーカスしたトーク&ライブのイベント「The Great Rocks~For the Beatles Lovers~」が2023年5月4日(木・祝)に東京・渋谷のCLUB ROSSOで開催された。
 MUSIC LIFE CLUBの発足5周年を記念して開かれた。
 出演はビートルズ研究家の藤本国彦さんとビートルズのトリビュート・バンド「The Beat★Rush」。ドラムの「あんちゃん・☆」はビートルズの『プリーズ・プリーズ・ミー』レコーディング時のドラムキットと同じ「プレミア」を使う凝りようだった。
 藤本さんが解説し、The Beat★Rushのライブが続く、そういう構成だった。まず、藤本さんがデビュー前ージョン・レノンとポール・マッカートニーの出会い、ジョージ・ハリスンの参加、スチュアート・サトクリフの存在、ピート・ベストの参加、ハンブルクでのライブ、デッカ・オーディションーなどについて、エピソードを交えて、詳細に説明した。
 そしてThe Beat★Rushージョンは代役の「ヒロジョン」、リンゴでリーダーの「あんちゃん・☆」、ジョージは「mullジョージ」、ポールは手島正揮(てしま・まさき)さんーの演奏が始まった。

 1曲目は、珍しいインストゥルメンタル曲の「クライ・フォー・ア・シャドウ」。これは「ハリスン=レノン」のクレジットになる楽曲。
 2曲目は「サム・アザー・ガイ」。キャバーン・クラブでこの曲を演奏している白黒の動画が有名だ。ジョンとポールのツイン・ボーカルが決まっているロック・ナンバーでリッチー・バレットがレコーディングした。
 続いての3、4曲目は「ヒッピー・ヒッピー・シェイク」と「ソルジャー・オブ・ラヴ」。最初は「アンナ」を書いたアーサー・アレキサンダーの楽曲でマージ―ビートのバンドに人気があった曲。ポールはリバプール凱旋公演のオープニングで歌ったことがある。次は「マージ―・アンセム」とでもいえる人気曲で、スウィング・ブルー・ジーンズのナンバーは1964年1月に英ヒットチャートの2位を記録した。
 5曲目は「べサメ・ムーチョ」、6曲目はおどけたかけあいが入った、ジョージがボーカルを務める「ザ・シーク・オブ・アラビ」だった。

リバプールでカツアゲに遭う
 ここでなぜだか「カツアゲ」の話になった。というのもポール役の手島さんが今から約20年前、ロンドンに留学中、リバプール大学に通う日本人の友人のもとへ遊びに行った時の話なのだそう。
 夜遅くまで飲んで帰る途中、つけられていたらしく、突如ナイフを突きつけられて脅されたのだという。
 手島さんはいう「ぼくは福岡のやんちゃな生まれなので、反抗した方がいいのではと思ったけれど、一緒にいた人からやめた方がいいと言われました。10ポンド、2000円くらいで大丈夫だと言われて払いました」。
 手島さんがカツアゲにあったのはリンゴが住んでいた家からいくつか通りを隔てた辺りだったという。そういえば、リンゴの育ったディングル地区はとりわけガラが悪かったそうだ。今から20年前も変化なかったのか。
 曲に戻ろう。次はハンブルクでレコーディングしたなかの一曲でジョンがボーカルを務めた「エイント・シー・スウィート」。ジョンは学校で机の上に座り、ギターを弾いて、この曲をシンシアのために歌っていたという。
 続けて「ルシール」。そしてチャック・ベリーの「スウィート・リトル・シックスティーン」が歌われて、第1部は幕を閉じた。 

 第2部も藤本さんの話から始まった。「ぼくはビートルズは正式な録音曲の213曲以外がすごく好きなのです。BBCとかスタークラブとか。バンドとして魅力がある。ジョージのボーカルが活き活きはつらつとしているし、ジョンのボーカルはドスが利いている」と語った。
 そして、デビュー・シングルとなる「ラヴ・ミー・ドゥ」のドラマーの話になった。参加したドラマーは3人。もちろんリンゴ、彼が加入する前のピート・ベスト、そしてセッション・ドラマーのアンディ・ホワイト。リンゴのドラムは『パストマスターズ』に収録されているのみだ。ピートのドラムは「アンソロジー1」で聞くことが出来る。
 さらに、プロデューサーのジョージ・マーティンが最初にシングルのA曲として用意していた「ハウ・ドゥ・ユー・ドゥ・イット」に話が進む。これはミッチ・マレーが書いた曲。藤本さんも「これはいい曲なんです。間違いなくヒットするような」と言ったが、ビートルズはオリジナル曲を重視する姿勢からジョージ・マーティンの申し出を断った。

ライブの熱気をスタジオで
 デビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』について藤本さんは次のように話したー「ライブの熱気をスタジオで再現出来ないか一発録りしました。それに新人だから長い時間スタジオを使うことが出来なかった。手間がかかるオリジナル曲から手をつけて、あとはライブで演奏しているカバー曲の録音という順番でだいたい進みました」。
 『プリーズ・プリーズ・ミー』のリリースからちょうど60年。それを祝うという意味もあってのイベントだった。
 アルバムはポールのカウントから始まる「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」。最近では、これまでジョージのカウントだと思われてきた「タックスマン」の冒頭についても、ポールの声なのではという分析があるという。「どうやらポールらしい。私もポールだと思います」と藤本さん。
 「『プリーズ・プリーズ・ミー』の彼らは本当に初々しかった」と藤本さんは続けた。「ハンブルクで鍛えられたライブ・バンドでロックンロール・バンドだったのです。あまり言われませんが、上手いバンドでした」。
 「ただのロックンロール・バンドにプラスアルファがあったのです」。「ライブを真空パックしたアルバムをここでしかもライブで聞けるのです」との紹介で、The Beat★Rushのアルバム全曲演奏がスタートした。

ビートルズ『プリーズ・プリーズ・ミー』

 「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、「アンナ」、「チェインズ」、「ボーイズ」、「アスク・ミー・ホワイ」、「プリーズ・プリーズ・ミー」、「ラヴ。ミー・ドゥ」、「P.S.アイ・ラヴ・ユー」、「ベイビー・イッツ・ユー」、「ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」、「蜜の味」、「ゼアズ・ア・プレイス」。
 ラストの曲はジョンがノドを使いすぎてしゃがれ声で歌った「ツイスト・アンド・シャウト」だった。
 アンコールは、デビュー・アルバムに入っていたかもしれない「ホールド・ミー・タイト」というオタクな締めくくりとなった。
 外はほぼ満月の素晴らしい2時間半の夜だった。藤本さん、The Beat★Rushの皆さん、CLUB ROSSOさん、シンコーミュージックさんetc.ーどうもありがとうございました。今度は「ウィズ・ザ・ビートルズ」ですね!


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