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ビートルズ66:藤本X奥田
【スピリチュアル・ビートルズ】「1966年はビートルズにとって新しい時代の始まりであると同時に、終わりの始まりでもあったということが、この本を読むとよくわかります」と翻訳家の奥田祐士さんは語った。
この本とはこのほど出版された「ビートルズ’66」(DU BOOKS)のことだ。著者はスティーヴ・ターナー、訳者は奥田さん。
ビートルズがサウンド面で新しいアイデアを探求する変革が始まった1966年。その一年にいったい彼らの意識や行動にどのような変化が起きていたのかを徹底的に調べ上げ、一か月ごとに詳細を記した本だ。
2023年12月4日(月)、奥田さんとビートルズ研究家の藤本国彦さんによる、同書の刊行記念イベント「ロックの未来を変えた年、1966年。ビートルズに何が起きたのか」が本屋B&B(東京都世田谷区代田3-36-15BONUS TRACK2F)で開かれた。
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藤本さんは「スティーヴ・ターナーさんは見立てが鋭いんですよ」。
まずは「For No One」の歌詞の一部に「all the things she said will fill your head/You won't forget her」とあるが、「これは間違いなく「Things we said today(今日の誓い)」の歌詞をみて作っている」。
「For No One」には「She says her love is dead」という歌詞もあるが、これは「A love like ours could never die」というような「死」に触れた歌詞がある「And I love her」を受けているのではないかとされている。
「ポールが恋人のジェーン・アッシャーに宛てて書いた、初期つまり付き合い始めたの頃のラブソングを否定している」と奥田さんは説明した。
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次に奥田さんは「And your bird can sing」の歌詞について自説を展開した。「訳の分からない歌詞でジョンのナンセンスだといわれていますが、birdってイギリスでは女の子を意味します」。
「この本の中ではマリアンヌ・フェイスフルがbirdって私のことを言ってるんじゃないかって言ったといわれています」。
ここで『Anthology1』に収録されているバージョンを聞いた。
「演奏はザ・バーズにそっくりではないかと思います。birdってザ・バーズのことで、youって(ボブ・)ディランのことじゃないか。birdsってディランの弟子みたいなもの。お前のbirdsは歌えるじゃないかって歌っているのではないか。ディランのことだと考えると非常に腑に落ちる」。
「ジョンはディランに影響を受けたというけれど、彼のディラン観っていうのは、難しいこと言っているけれどそれはまやかしだっていうこと」。
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「それに歌詞に「And your bird is green」ってあるけど、あの「green」って「青い」と訳されるけど、「青二才」という意味だと「ザ・バーズはまだ青二才だ」という風にとれるのではないでしょうか」。
あと「Got to get you into my life」のモチーフについても話があった。藤本さんは、「ポールが初めてLSDをやった時期について、これまで66年暮れとされてきたのが、この本で1年早められた」と言った。
「ポールがLSDを体験したのは(これまで言われていた時期より)一年早かった。「Got to get you into my life」はマリファナの歌だと彼はずっと言っているけれど、歌詞を考えると大げさすぎる」と奥田さん。
「つまり、一大決心をして愛を受け入れたというような歌詞だけれど、これがLSDの歌だとしたら腑に落ちます」と藤本さんは言った。
「For No One」「Got to get you into my life」両曲ともに66年発売のアルバム『Revolver』に収められている。
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同アルバムの先行シングル「Paperback Writer」のプロモでポールの歯が欠けているのがわかる。藤本さんは言った。「ポールはバイクで衝突事故を起こしてかなり縫ったんです。歯も欠けた」。
「それをカバーするため差し歯を使ったとされてたけれど、チューインガムもだったと。どっちでもいい話ですけど」。
途中、ジョンの実の父親フレッドの「That's my life」を聞いた。
すると奥田さんは「「In my life」と同時期なんで、フレッドは「That's my life」ですか」と話すと会場からは笑い声が起こった。
さて、奥田さんは冒頭、1966年という年の始まりについて話した。
「1月に本当は撮るつもりだった映画の話が没になった。没ッてくれたおかげで、デビュー以来初めて平穏な時間が訪れました。初めて4人は何をしたいのかをゆっくり考える時間です」と奥田さんが言った。
「ジョンは家でゴロゴロしていて、ジョージはインド音楽への歩みを進めていた。ポールは早くからインディカ・ギャラリーを覗くなど前衛芸術にもジョンより早く触れていたのです」。
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そして66年には西ドイツ、日本、フィリピン公演が行われた。
フィリピン公演についてこれまで以上に詳細に紹介されている。
そして最後の全米ツアーだが、開始前から暗雲が立ち込めていた。
というのも英イブニング・スタンダード紙のインタビューでジョンの答えの中にいわゆる「キリスト発言」があって、それが米雑誌「Datebook」に転載されて大騒ぎになっていたからである。
キリスト発言とは「ビートルズの人気はキリストより上である」といったセリフで、ビートルズのほうがキリストより上だと誤解されたのだ。
奥田さんによると、「この発言は軽く炎上するのではと思って、まずラジオのDJたちに「Datebook」にこういう記事が出るという形で情報が送られました。すると南部のバイブルベルトつまりキリスト教原理主義の諸州でDJたちがビートルズのジョン・レノンという輩がこんなこと言っていますよと話したことで南部中心に排斥運動が起きていきました」。
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藤本さんは「ジョンは泣き崩れたとか」というと、奥田さんは「釈明会見でポールが如才なくふるまったこともあって、その場はしのげました。でも火はくすぶり続けた。レコードが焼き払われたけど、こんなことも言われましたービートルズのレコードを焼くにはビートルズのレコードを買わないといけない。この発言は受けましたね」。
66年はビートルズがツアーを止め、それも含めブライアン・エプスタインの力が落ちていったのが明白だった。
8月末にサンフランシスコで、ビートルズは観客を前にした最後のライブパフォーマンスを行うが、ブライアンはいなかった。
ゲイ同士のトラブルが原因で来られなかったのだ。
ビートルズがリバプールのキャバーンで演奏している頃からのファンでありマネージャーであり兄貴分であったブライアンの不在は何かを象徴的に表しているかのようだった。
ブライアンは翌67年8月に薬物の過剰摂取で急逝した。
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イベントはさらに奥田さんと藤本さんの「Now and Then」の話などになり、終了後はお二方のサイン会も開かれた。