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アップルレコードの映画

 ビートルズが1968年に作ったレコード会社の歴史を追った「ストレンジ・フルーツ~ザ・ビートルズ アップル・レコード・ヒストリー~」。2011年の映画だがこのほど日本でDVD化されたのを機に観た。
 いくつか同社にフォーカスした本が出ている。例えば、ステファン・グラナドスの「ビートルズ帝国 アップルの真実」などだ。
 良書だが、読むのにはページ数が多い大作で詳細に踏み込んでいるだけに時間がかかる。そういう意味ではこの映画は分かりやすい。前出の本の著者グラナドスも証言者の一人として登場している。

 


 ビートルズ4人の証言はないものの、アイヴィーズのちのバッド・フィンガーのロン・グリフィス、アップル・アーティストの一人ジャッキー・ロマックスら関係者の回想を聞くことができるだけでも貴重だと思う。
 ビートルズはアーチストのためのアーチストによる会社を作ろうとしていた。彼らの理想主義を形にしようとしたのだ。興味深かったのは、それが「西洋のコミュニズム」と称されていたことだ。
 ちょうどビートルズは曲がり角にあった。66年にツアーを止め、翌年にはマネージャーであり兄貴分であったブライアン・エプスタインが急死する。さらに4人は精神世界探求に踏み出していく。
 そんな時に理想の会社アップルを作ったのだ。

アップル・ブティックが入った最初の本社があったビル


 しかし、ビートルズは素晴らしいアーティストであってもビジネスマンではなかった。彼らの周りを固めた人々もビートルズゆかりの人たちで決してビジネスに通じた人たちではなかった。
 社長はリバプール時代からのローディ、ニール・アスピナールだし、マジック・アレックスのような得体のしれない、自称発明家も潜り込んだ。アレックスにはジョンなどは騙されてしまうのだが・・・

ロンドンのアップル本社


 無理が生じたのも当然だ。そこに乗り込んできたのがアラン・クレインだった。映画では、クレインは結局ビートルズだけが目当てだったが皮肉なことにビートルズはすぐに解散してしまったとの発言も出てくる。
 さて、この映画はアップル・アーティストたちの楽曲がふんだんに使われている。例えばメリー・ホプキンの「悲しき天使」「グッドバイ」、バッド・フィンガーの「嵐の恋」、ジャッキー・ロマックスの「サワー・ミルク・シー」、ジェイムズ・テイラーの「想い出のキャロライン」などだ。


 字幕監修も担当したビートルズ研究家の藤本国彦さんはDVDの解説でロン・グリフィスと新生バッド・フィンガーに加わったジョーイ・モーランドによる「知られざる数々の証言もあり、とりわけバッド・フィンガー・ファンにはたまらない内容になっている」と書いている。


 タイトルの「ストレンジ・フルーツ」はもちろんアップル・レコードの青りんごにかけている。同時にビリーホリディの歌唱で知られる人種差別告発の歌のタイトルでもある。そう、黒人を痛めつけて死体を木に吊るした、その腐敗した死体を「奇妙な果実」と称したそうだ。
 制作・監督はロブ・ジョンストーン。

 

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