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映画「日本人の忘れもの」

 戦争開始を決めるのは国・政府だ。戦場で実際に戦うのは国民だ。国・政府は戦争によって人々が被った被害を償って当然という理屈になると一見みえる。しかし、そんな理屈は長年通じなかった。
 フィリピンと中国残留邦人たちの問題もそうだ。
 ドキュメンタリー映画「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」が2023年7月29日(土)より「ポレポレ東中野」(東京都中野区東中野4-4-1:03-3371-0081)にて再上映される。脚本・監督は小原浩晴。2020年日本映画。98分。

 


 映画の冒頭で「現状を描くことが目的」と出てくる。確かに一つ一つの事例を丁寧に描いていく。しかし結果として、無為無策だった日本政府に対する目を開かせてくれる。戦争の悲惨さを示す。それが目的でなくとも・・・
 残留邦人というと、私たちは中国残留孤児たちが日本に一時帰国して家族と再会して抱き合う感動的な場面が報道されたことを思い出すだろう。だが、彼ら以上に長年放置されてきたのがフィリピンの残留邦人たちである。
 映画はまずフィリピン南部ミンダナオ島のダバオから始まる。日本人移民がフィリピンにはおよそ3万人いたという。ダバオはマニラ麻で栄えて大きな移民社会が形成されていた場所である。


 多くの日本人男性はフィリピン女性と結婚し、子どもを日本人として育てた。1941年、日本軍によるフィリピン攻撃が始まると、日本人男性は徴用された。日本軍による過酷な占領は反日感情を生む。
 それゆえ、米軍がフィリピン奪還作戦をする際には30万人ものフィリピン人ゲリラが参戦したのである。父を亡くしたり強制送還されて残された妻や子どもが日本国籍を得るには血のつながりを証明する必要があった。だが、日本人だと分かると差別を受けるから隠すということもあった。
 日本人でもなく、フィリピン人でもない無国籍となってしまったのだ。
 次の舞台はカラミアン諸島のコロン島。河合弘之弁護士は無国籍者を「民間で支援する限界」を挙げた。人的・金銭的限界があり、年老いた人たちを救うのに条件が整うのを待っていては間に合わないと指摘。


 「国としてするべき仕事だと思う」と河合さんは述べた。
 その理由の一つとして1945年8月14日ポツダム宣言受託に際して日本政府が出した戦後処理に関する伝達がある。居留民は「現地に定着させろ」として、外地の日本人に「自力で生きていけ」との政策を決めていた。
 そして映画は中国残留邦人の話へと移っていく。1972年の日中国交回復。その2年後、今でいうNPOが問題調査のために訪中。メディアがこうした動きを取り上げて、国の動きを促していくことになる。
 中国在留邦人も国策の「犠牲者」ともいえよう。異国での成功を夢見て満蒙開拓団に参加した彼ら。しかし、満州にいる日本人たちは、ソ連が参戦した後、帰国をすることが出来ずに塗炭の苦しみを味わった。日本軍は橋を爆破するなど現地邦人たちの帰国を妨害すらしたという。


 華々しく取り上げられた中国在留邦人の帰国。しかし、彼らのその後はどうなったのか。差別や経済的困窮などの問題に彼らは直面した。日本政府は彼らを「帰れなくした」、「帰国措置を取らなかった」、「生活支援を行わなかった」。支援した弁護団はこれを「3度にわたる棄民」だと呼んだ。
 現在も続く国・政府の「棄民」、そして河合弁護士をはじめとする支援者たちの活動に焦点を移していく。


 映画で、戦後処理のための包括的法律を作らなかったことが問題だとの指摘があった。そのため残留邦人の支援についても既存の社会保障関係の法律のパッチワークで対応せざるをえなくなったという。
 「何もしないで今日に至ってしまった。関係者がいなくなるのを待っている状態。問題の解決ではなく問題の消滅だ」と河合弁護士は言った。
 小原監督は言った。「私は映画には社会を変える力があると思っています。2020年の公開時から河合弁護士らがフィリピン残留日本人問題の早期解決のために本作のDVDを国会議員に精力的に配布したところ、立憲民主党の白眞勲議員が問題の深刻さを知り、解決への協力を申し出ました」。
 「そして、2022年3月10日の国会で白議員が本作のワンシーンを引用しながらフィリピン問題の現状を伝え、岸田首相に与野党一丸となった解決を要請。岸田首相は「早期解決するよう取り組む」と答えました」。
 「そのことから支援団体のフィリピン日系人リーガルサポートセンターのフィリピンでの活動に在マニラ日本大使館の協力が強化されることになりました。映画の力が社会問題を解決に導く一助となることが証明されたのです。今にして思えば、この作品は入管法問題にも通づる日本の差別体質をも描いていると感じています」。

 連日午前10時より上映。毎日舞台挨拶が行われる。

7月29日(土)石井恭子(登場人物・フィリピン日系人リーガルサポートセンター)/小原浩靖監督
7月30日(日)田近陽子(登場人物・フィリピン日系人リーガルサポートセンター)/小原浩靖監督
7月31日(月)小原浩靖監督
8月1日(火)池田澄江(登場人物・日中友好の会理事長)/小原浩靖監督
8月2日(水)小原浩靖監督
8月3日(木)小原浩靖監督
8月4日(金)ピーター・バラカン(ブロードキャスター)/小原浩靖監督


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