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「在日の金くん」ヘイト裁判

 文武両道の福岡の伝統校・修猷館(しゅうゆうかん)の卒業生2人が、うち一人の出自に関わるヘイト投稿を巡って裁判で係争中。
 原告の金正則氏のことを被告・西村元延氏がこう呼んだことから「「在日の金くん」ヘイト裁判」といわれている。
 この民事裁判が提訴されたのは昨年3月のこと。
 提訴対象となったのは被告西村氏による15件のツイートで、「在日の金くん、朝鮮人ってやっぱり馬鹿だね。救い様がないよね」、「朝鮮人は明らかに性犯罪が多いですよね」といったコメント。
 2025年1月21日(火)に東京地方裁判所で行われた「在日の金くん」ヘイト裁判の第7回期日(原告尋問)」を傍聴し、引き続き衆議院第一議員会館内会議室で開かれた記者会見に出席した。
 原告の金氏は「犯罪者みなしというのはヘイトクライムの原点だと思うのです。黒人差別でよく黒人に白人の女性が襲われると聞きますが、安全を守るためってことで差別に入ってしまう。関東大震災時のジェノサイドも同じ構造だったし、今のクルド問題もそうです」と会見で話した。

原告の金正則氏


 日本には2016年に出来たヘイトスピーチ解消法はあるものの、罰則規定はなく、ヘイトの規定も緩いままである。
 金氏は言った「罰則付きの包括的差別禁止法や条例を制定することでしか、エスカレートする差別を止められないと改めて認識しました」。
 この日の原告尋問で金氏は自らの生い立ちと西村氏から受けたヘイト投稿被害について詳細に供述していたーー宮崎県で生まれたこと、父親はくず鉄を扱う廃品回収業、のちの建設業そしてパチンコ屋経営に転じたこと、母親は日本語の読み書きが出来なかったこと、金氏が上智大学に入るまでは民族名を使わず「林」姓を名乗っていたことーーなどを説明した。
 そして金氏は尋問の中でこう言ったーー「在日朝鮮人をひとくくりにして「馬鹿」だとか「卑怯」だとか、これは差別だと思います。そして「金」という民族名を差別の道具に使っているのです」と。
 金氏は現在マーケティング関係の仕事をしているが、それにも悪影響を及ぼしているという。「私の仕事は新しい人に会うことが多いのですが、「この人はもしかしたら差別をする人なのではないか」と思うようになったんです。仕事に支障が出ています」と訴えた。
 「被告は差別的言動ではないと主張していますが、判決でそれは差別的言動だと示すことが彼の差別を止める唯一の方法だと思います。最後の手立ては司法だと考えています。公正な判断をお願いします」。
 また会見で登壇した修猷館の同窓生・松尾潔氏は「福岡という地方都市の学校の同窓生同士のいさかいだと話を矮小化させてしまってはいけません。この社会をより風通しよくするためのヒントがたくさんあるのではないかと思っています」と発言した。
 「これを(被告の)西村氏の属人的問題にするのでなく、どんな人にでもある西村氏的な要素をあぶり出して、どうするのかということ(を考える機会)にしていきたい」と松尾氏は付け加えた。

松尾潔氏


 同じく同窓生の津崎兼彰氏は自分は被告に対して差別はダメだと言えなかった「弱い人間だった」といい、また同窓会でも誰も口に出して被告に対して差別はダメだと言えなかったと話した。
 「同窓生の一人一人が差別は駄目だというきちんとした認識を持っておらず、そういう共通認識になっていなかった。もしそうした共通認識があればヘイトということにならなかっただろうし、止められたと思う」。
 「その一言が言えなかった自分がいる。言えなかったということは黙認したということで、ある意味では加担してしまったのです」。
 そして津崎氏は学び直しをしたいと話した。

津崎兼彰氏


 被告の西村氏は自分の投稿はヘイトスピーチの法律上の表現には当たらないと主張している。ヘイトスピーチを研究している社会学者の明戸隆浩氏は会見で日本の法律でヘイトスピーチだと認定されるのは「殺すぞ」、「出ていけ」「国に帰れ」といったものと、著しい侮蔑だと説明した。
 ヘイト投稿で出てくる在日コリアンに対する犯罪者呼ばわりですが、これが著しい侮蔑に当たるかどうかだと明戸氏はいう。
 「これは法律がないアメリカであっても、法律があるEUであっても、マイノリティ集団を犯罪者であるとかその仲間であるというのをヘイトスピーチではないと言ったらば疑問を投げかけられるでしょう」。

明戸隆浩氏


 「相手を集団ごと犯罪者だとするのはヘイトスピーチだということを裁判を通して確認していけたらと思っています」と明戸氏は話した。
 明戸氏はさらに、この裁判のことを聞いて「何が悪いんだろう」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、「この裁判できちんとヘイトというものが認められることが大事だし、より広い社会にも知って頂くということ、それが重要だと思います」と言った。
 原告側弁護人の神原元弁護士は日本の司法の世界では、裁判官にせよ弁護士にせよ、人権に関する勉強をほとんどしてきていないので、この裁判ではそれについて理解してもらうようにしたいと付け加えた。
 2025年3月18日(火)午後3時に判決が言い渡される予定。

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