ジョルジュ・ルオー展
素晴らしい展覧会だった。ジョルジュ・ルオーの作品は、同じくギュスターヴ・モローのアトリエで学んだアンリ・マティスがカラフルでポップな作風であるのに対し、重厚で精神の深みさえ感じられるような対比を見せた。
それはルノーがキリストなど宗教的なテーマを描いているからというわけではなく、ルオーがテーマとしたサーカスや裁判官に関する絵画、例えば道化師などの作品にも感じられたことである。
2023年5月1日(月)、パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1パナソニック東京汐留ビル4階)で開催中の本格的な回顧展「ジョルジュ・ルオーーかたち、色、ハーモニー」に足を運んだ。
ゴールデンウィーク中の平日であったが、ゆったりと鑑賞することが出来た。ひとつの絵画の前に佇んで5分、10分と鑑賞していることも可能なほどだった。会期がまだ比較的、残っているからだろう。
同展には、19世紀から20世紀前半のフランスで活躍し、最も革新的な画家のひとりといわれるルオーの初期から晩年までの約70点が集結している。同年6月25日(日)まで開催中だ。
ルオーが影響を受けた同時代の芸術家モローやセザンヌ、2つの大戦との関係に触れながら、「装飾的な造形」の魅力に迫っている。
日本での初公開作品には、ルオーが戦争期に描いた重要作品《ホモ・ホミニ・ルプス(人は人にとりて狼なり)》や《深き淵より》が含まれている。
展覧会は全5章から成るーー
〇「第I章 国立美術学校時代の作品―古典絵画の研究とサロンへの挑戦」
1890年、パリ国立高等美術学校に入学したルオーはモローのアトリエに入門。古典絵画を研究するとともに、自由で革新的な教育を受けた。この時期に描いたルオーのデッサンや習作、サロン出品作品が紹介されている。
〇「第II章 裸婦と水浴図―独自のスタイルを追い求めて」
初期の娼婦の絵画から、セザンヌの影響を経て、装飾的な関心へと移行していく過程での裸婦と水浴図を紹介し、独自の芸術スタイルを考察する。
〇「第III章 サーカスと裁判官―装飾的コンポジションの探求」
ルオーが生涯追求した主題である「サーカス」と「裁判官」。これらによって、ルオーは人間の本質を描き出した。初期から晩年までの「サーカス」と「裁判官」をテーマにした作品を通して、現実の社会や文化に向けられたルオーのまなざしとルオーの芸術の交差について考える。
〇「第IV章 二つの戦争―人間の苦悩と希望」
2つの大戦を経験したルオー。大戦期のルオーは、《ホモ・ホミニ・ルプス(人は人にとりて狼なり)》のような、戦争の残酷さや人間の苦悩を表現する作品を描いた。その一方で、著名な編集者テリアドが発行していた芸術雑誌『ヴェルヴ』のために色彩豊かな作品も制作していた。
〇「第V章 旅路の果て―装飾的コンポジションへの到達」
1930年頃から、明るい色彩と柔らかく安定感のあるフォルムがルオーの作品に現れ始め、1939年頃からその特色を強めていく。そして最後の10年間に、色彩はますます輝きを増し、形体と色彩とマチエールすなわち表面の質感とが美しいハーモニーを奏でる油彩画が数多く生まれた。
ルオーはパリの下町で育つ。14歳でステンドグラス職人に弟子入りするかたわら、国立高等装飾美術学校の夜間クラスに出席した。1890年、19歳の時にパリ国立美術学校に入学し、ギュスターヴ・モローのアトリエで学ぶ。モローの教室にはほかにアンリ・マティスらが所属し、ルオーは彼らと親交を結んだ。モローの死後、マティス、ルオーらはともに「サロン・ドートンヌ」を創設し、革新的な作品を次々と世に出していった。
1890年代にポール・セザンヌの作品を目にしたルオーは深い感銘を受ける。モローやセザンヌの影響を受けた、次第に「かたちと色の調和」を追及するようになり、自身の芸術について語る際にルオーは「かたち、色、ハーモニー」ということばを用いるようになった。
キリスト教主題の作品を多く描いた一方で、社会の底辺で生きる人々にスポットを当てた「サーカス」や「娼婦」、あるいは権威的な地位にある「裁判官」など、同時代に生きる人間の本質に迫ろうとした。晩年は、絵具を厚く塗り重ねた独特の表現と光り輝くような色彩で人物像や風景画を描いた。
同展の開館時間は午前10時から午後6時まで(入館は午後5時半まで)。5月12日(金)、6月2日(金)、6月23日(金)、6月24日(土)は夜間にも開館(午後8時まで。入館は午後7時半まで)。
休館日は水曜日、ただし5月3日(水・祝)、6月21日(水)は開館する。入館料は一般1200円、65歳以上1100円、大学生・高校生700円、中学生以下は無料。混雑緩和のため、土・日・祝日は日時指定となる(平日は予約不要)。同美術館の電話番号は:03-5777-8600。