ファドの調べのX'mas Eve
ポルトガル音楽ファドの哀愁、郷愁あふれるメロディーは日本人の琴線に触れる。ギターに奏でられたファドの調べが心に沁みた聖夜前だった。
2023年12月24日(日)、ギターラ(ポルトガル・ギター)の飯泉昌宏(いいずみ・まさひろ)さんとクラシック・ギターでファド歌手の高柳卓也(たかやなぎ・たくや)さんの二人が居酒屋「酒楽」(東京都練馬区関町2-28-13)でコンサートを開いた。
一曲目はポルトガルの首都リスボンを女性に例えて称えている「麗しきリスボン(Lisboa Menina e Moça)。
観客で一杯なお店の中を見て高柳さんは「ポルトガルのファド酒場はもっとぎゅうぎゅう詰めです。私を育ててくれた酒場があるのですが、もう入り口にうじゃうじゃ人がいて、そこまでぎゅうぎゅうです」と話した。
二曲目に演奏したのは「ローザ・カマレイラ(Rosa Camareira)」。娼婦にして伝説のファド歌手の名前だ。「19世紀にファドが始まったとされます。彼女は底辺の人たちの苦しみ哀しみにあふれた人生を歌いました。彼女の生きざまがファドそのものでした」と高柳さんは解説した。
「この200年くらいリスボンの下町で歌い奏でられている、そこの人々とともに生き続けているのがファドです。私の最愛の町リスボン。行けば行くほど人と、そして町と仲良くなり、深く知り合えるのです」。
飯泉さんはリスボンの旧市街に暮らしたことがあり、その時の経験を話した。「いつも昼頃になるとリコーダーの音が聞こえてきます。それがゴッドファーザーのテーマで、いつも同じところで間違えるんですよ。それが改善されたことがあったのですが、ちょっと寂しい思いがしました」。
ファドのコンサートには「ギタラーダ」というギターのコーナーがあり、そこでよく演奏される曲として紹介されたのは「ラパルティーダ(La Partida)。日本では「君の影になりたい」というタイトルで知られている。
「リスボンの旧市街は夜9時、10時だとまだ人が少ない。ところが12時、1時、2時をピークに路地が満員電車のようになって、みんなお酒を片手に話をしています」と高柳さん。
「ポルトガルでは時間の流れがゆっくりとしている。ゆっくりした流れの中で時は止まることはない。しかし、時間の経過とともに昔あったけれど今は見ることが出来ないものもあります。例えば物売りがその一つ」。
そして次の曲は「懐かしきバイロアルトの人々(Bairro Alto Bairrista)」。「リスボンのサウダーデ(哀愁)」を歌っているという。
歴史を黙って見続けている川に愛する人への思いを語りかけている「川に願いを(Sei de um Rio)」が演奏された。そして「夕暮れ時のリスボン(Lisboa ao Entardecer)」で第1部が終了。
第2部は「夜想曲(Nocturno)」で始まった。
高柳さんはそこで彼と飯泉さんにとっての「新曲」をぜひ披露したいという。彼はリスボンを「心を埋めてきた場所」だと話す。
おととし亡くなったファドの巨匠カルロス・ド・カルモが書いた作品でリスボンとブエノスアイレスを描いた「二つの港(Dois Portos)」。
続いて「詩の中に生きて(Morreu um Poeta)」。
高柳さんはいう「生き抜いた人々の人生は詩です。一つ一つの判断が詩になる。その詩が重なって人生が出来上がっていく。その人生が詩である。一人一人それぞれに詩がある。人は一人一人が詩人なのです」。
「歌いながら自分の人生をさらに深めていきたい」。
ここで「今日はクリスマス・スペシャル」ということで「きよしこの夜(Feliz Natal / Silent Night)」がポルトガル語、英語、日本語で歌われた。
ちなみにポルトガル語で「ハッピー・クリスマス」は「フェリーズ・ナタール」だという。
「真夜中過ぎに路地裏のファドの店で聞くことが出来るファドの曲を」といって歌われたのは「ファド・ロペス(Fado Lopes)」。
そして高柳さんは「心を埋めてあるリスボンの石畳の路地と交信しながら心を込めて歌わせてもらいます」といって「哀しい宿命(Triste Sorte)」を披露した。ファドは「宿命」「運命」という意味の言葉でもあるのだ。