くらしのなかの漆芸品
ウルシの木から取れる樹液である漆。この樹液は、ウルシの木が傷ついたとき、その傷を塞ぐためにいわば自己防衛として分泌されるもの。傷口にしっかりとくっついて、堅く固まり、木の内部へと水はもちろん酸・アルカリなどの侵入を防ぎ、腐敗を防ぐ。
この樹液に、東南アジアから東アジアにかけての人々は、接着剤や防腐のためのコーティング剤などの可能性を見出し、独特の漆工文化を形作った。
住友コレクションの漆芸品の数々を、用いられてきたシーンごとにひもといて、漆芸品を見る楽しみ、使う喜びについて考えようという展覧会「うるしとともにーくらしのなかの漆芸美」がやって来る。
2024年1月20日(土)から2月25日(日)まで泉屋博古館東京(東京都港区六本木1-5-1)にて開催される。
開館時間は午前11時から午後6時(金曜日は午後7時まで開館)。入館は閉館の30分前まで。休館日は月曜日。入館料は一般1000円、高大生600円、中学生以下無料。問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。泉屋博古館東京公式サイトは https://sen-oku.olr.jp/tokyo/
〇第一展示室 シーン1「宴のなかの漆芸美」ー現代の私たちにとって漆と最も身近に接する機会は食事ではないだろうか。艶やかな漆器の塗り肌は食材の色味を引き立てる。さらに蒔絵などの華やかな装飾が食卓に季節感や情緒を添える。漆は実用にも優れている。食事を入り口に、うるしとくらしについて考えてみる。
〇第二展示室 シーン2「茶会のなかの漆芸美」、シーン3「香りのなかの漆芸美」、シーン4「檜舞台のうえの漆芸美」ー同館が収蔵する住友コレクションの大部分は15代住友家当主・住友吉左衛門友純(すみともきちざえもんともいと)によるもの。春翠(しゅんすい)という号をもち、上方を代表する近代数寄者のひとりだった。茶の湯や香に親しんだ春翠は茶席や香席を彩る漆芸品を数多く集めて、自身が開く会で使用するのを楽しんだ。また、春翠は古典芸能のうち能楽をとりわけ好んだ。蒐集した能道具は今も残り、特に楽器の数々は美しい蒔絵で装飾されている。
〇第三展示室 特集「漆芸の技法ー彫漆・螺鈿・蒔絵」ー一度固まると頑丈な塗膜をつくる漆は、刀による彫刻(彫漆)に道を開いた。また、塗ってから固まるまで時間を要するという性質も重要だった。漆が硬化するまでの時間が、貝殻をつけたり(螺鈿)、金銀粉を蒔いたり(蒔絵)する余地となり、多彩な技法が編み出された。
〇第三展示室 シーン5「書斎のなかの漆芸美」ー読書をしたり、思索に耽ったり、文章を綴ったり、絵を描いたり、楽器をつま弾いたり、そして友とおしゃべりしたりー書斎での自適なくらしはいつの時代も憧れの的。その憧れは中国の文人たちにまで遡れる。中国文人は、自らの書斎である文房を理想の空間にするためには、そこに備える道具にも清らかな美しさが必要だと考えた。そこで重宝されたのが漆芸に文房具だった。彫漆や螺鈿技法の緻密さには驚かされる。一方、蒔絵で華やかに彩られた日本の文房具には四季の移ろいを感じさせる花鳥風月の意匠が多くみられる。
〇「お別れに うるしと友に -漆芸品を贈る」ー煌びやかで美しく耐久性にも優れた漆芸品は贈答品としても喜ばれた。住友家でも親しい人々、中でも海外からの客人には蒔絵で彩られた漆芸品を友好の証としてプレゼントし喜ばれている。まさに日本の工芸を代表する存在として漆芸品が海外に渡っている一例といえよう。当展の締めくくりは、住友家にもたらされた漆芸品と、当主が娘に贈ったひな祭りの会席膳。
また同時開催として、漆芸品と同じく私たちのくらしを彩ってきた陶磁器のなかから、近年当館に寄贈されてから初めて、瀬川竹生コレクションの染付大皿を公開する「受贈記念 伊万里 染付大皿の美」が開かれる。
江戸時代後期、料理文化の隆盛とともに料理を盛り付ける「うつわ」もより華やかになり、さまざまな文様の描かれた直径40センチを超える大皿が数多く生産された。染付大皿が生み出されたのは肥前有田。有田から伊万里の港へと運ばれた大皿は日本の各都市へと流通し、往時の宴会の場を盛り上げた。描かれるのは、獅子牡丹、竹に虎や松に鷹などの伝統的な意匠から、鯉滝登り、恵比寿に大黒、玉取龍などのめでたいもの、また当時流行していた浮世絵をもとに描かれたような図柄、さらには洒落を利かせたものまで多岐にわたっている。生涯にわたり染付大皿を収集し続けた故・瀬川竹生氏のコレクションを特別に公開する。
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